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03:聖職者レリック
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「これを」
シオン達が拠点にしている宿屋から少し離れた酒場。場の雰囲気には合わない凛とした雰囲気の聖職者、レリックが座っている。
レリックの背中側のテーブルに腰掛けた冒険者が、身体は振り向かず手紙だけ差し出す。
レリックも振り向かず手紙を受け取り、封蝋を確認してから中身を取り出す。
(侯爵閣下からか、内容は……)
『一女抜け騒ぎ。呼ぶと約束。至急』
素早く書かれた文章を読み取り顔を上げる。
(先代勇者であれども一国の姫君のわがままを抑えられない、か。平和なものだ)
内容を詳しく説明すると、第一王女であるリヴェルが自分も勇者シオンのパーティーについて行くと主張し王城を抜け出して騒動になった。リヴェルを宥める為にシオンを王城へ呼びつけると約束した。至急登城するように、となる。
レリックはもう一度確認の為に手紙を読み直す。
(おっと、裏があった)
半分に折られた便箋の内側に、表とは違う筆跡で走り書きされたような文字。
『シオンはとても寂しい思いをしてるはずです。屋敷へ連れ帰って下さい。半年ほど休暇を取っても良いはずです』
(これはこれは……)
息子離れ出来ていないシオンの母親からの“お願い”だ。侯爵家令嬢だけあって王国の事情やシオンの負わされた責任など関係なく、ただ息子と一緒にいたいという個人的な願望しか見えない。
「副隊長」
「私はもう副隊長ではありません。レリックと呼びなさい」
「しかし……」
レリックは国教であるレリヒー教会の秘密部隊“ヴァイスカー”の副隊長を任されていた人物である。
シオンが当代の勇者として任命された際、勇者侯爵家当主から直々にパーティーに入るよう請われたのだ。
レリヒー教会の後援者である侯爵からの依頼を、協会もレリック自身も断る事など出来なかったのだ。
「勇者が王都に向かうよう働きかけます。そのように閣下へ」
「はっ、了解致しました」
(シオンのスキルは戦闘訓練を受けていない人間であっても、パーティーに加入するだけで身体能力も魔法能力も急激に上昇させてしまう)
つまり、例え蝶よ花よと大事に育てられた一国に姫君であろうと、シオンにパーティーメンバーであると認識されたその瞬間、一流の冒険者の力に匹敵してしまう。
いや、その人間の元来の能力によっては一流すら凌駕する可能性まである。
(第一王女にその秘密を知られてはならない。いや、誰であってもこの秘密は漏らしてはならないのだ)
もしリヴェルがその事を知ってしまったら、自分もついて行くと言って聞かないだろう。国の都合や王族としての立場など、わがままなお姫様が納得して聞き入れてくれるとは思えない。
また、シオンさえ懐柔してしまえば勇者パーティーとして通用すると知られるのもまずい。次期侯爵家当主に取り入ろうとする輩は五万といるからだ。
(セーナとウィザリーの事も完全に信頼出来るという訳でもないしな……)
ふぅ……、と一人ため息を吐き、グラスに手を伸ばす。
「……ご無理なきように」
「えぇ、また会いましょう」
かつて部下だった男が酒場を去った少し後、レリックも宿屋へ戻った。
シオン達が拠点にしている宿屋から少し離れた酒場。場の雰囲気には合わない凛とした雰囲気の聖職者、レリックが座っている。
レリックの背中側のテーブルに腰掛けた冒険者が、身体は振り向かず手紙だけ差し出す。
レリックも振り向かず手紙を受け取り、封蝋を確認してから中身を取り出す。
(侯爵閣下からか、内容は……)
『一女抜け騒ぎ。呼ぶと約束。至急』
素早く書かれた文章を読み取り顔を上げる。
(先代勇者であれども一国の姫君のわがままを抑えられない、か。平和なものだ)
内容を詳しく説明すると、第一王女であるリヴェルが自分も勇者シオンのパーティーについて行くと主張し王城を抜け出して騒動になった。リヴェルを宥める為にシオンを王城へ呼びつけると約束した。至急登城するように、となる。
レリックはもう一度確認の為に手紙を読み直す。
(おっと、裏があった)
半分に折られた便箋の内側に、表とは違う筆跡で走り書きされたような文字。
『シオンはとても寂しい思いをしてるはずです。屋敷へ連れ帰って下さい。半年ほど休暇を取っても良いはずです』
(これはこれは……)
息子離れ出来ていないシオンの母親からの“お願い”だ。侯爵家令嬢だけあって王国の事情やシオンの負わされた責任など関係なく、ただ息子と一緒にいたいという個人的な願望しか見えない。
「副隊長」
「私はもう副隊長ではありません。レリックと呼びなさい」
「しかし……」
レリックは国教であるレリヒー教会の秘密部隊“ヴァイスカー”の副隊長を任されていた人物である。
シオンが当代の勇者として任命された際、勇者侯爵家当主から直々にパーティーに入るよう請われたのだ。
レリヒー教会の後援者である侯爵からの依頼を、協会もレリック自身も断る事など出来なかったのだ。
「勇者が王都に向かうよう働きかけます。そのように閣下へ」
「はっ、了解致しました」
(シオンのスキルは戦闘訓練を受けていない人間であっても、パーティーに加入するだけで身体能力も魔法能力も急激に上昇させてしまう)
つまり、例え蝶よ花よと大事に育てられた一国に姫君であろうと、シオンにパーティーメンバーであると認識されたその瞬間、一流の冒険者の力に匹敵してしまう。
いや、その人間の元来の能力によっては一流すら凌駕する可能性まである。
(第一王女にその秘密を知られてはならない。いや、誰であってもこの秘密は漏らしてはならないのだ)
もしリヴェルがその事を知ってしまったら、自分もついて行くと言って聞かないだろう。国の都合や王族としての立場など、わがままなお姫様が納得して聞き入れてくれるとは思えない。
また、シオンさえ懐柔してしまえば勇者パーティーとして通用すると知られるのもまずい。次期侯爵家当主に取り入ろうとする輩は五万といるからだ。
(セーナとウィザリーの事も完全に信頼出来るという訳でもないしな……)
ふぅ……、と一人ため息を吐き、グラスに手を伸ばす。
「……ご無理なきように」
「えぇ、また会いましょう」
かつて部下だった男が酒場を去った少し後、レリックも宿屋へ戻った。
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