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10:第一王女付き侍女フルール
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(スキルが手に入るなら、僕は何でもする)
(上手く行きましたわ。後はシオン様がわがまま放題言い出してパーティーメンバーから嫌われれば……)
(口が回るとは言え、やはり八歳の少女。今のパーティーメンバーに嫌われようが、新しいメンバーを用意されるだけなのに)
宝物庫での用事を終え、フルールが外で待機している兵士に合図を送る。重い石扉が開けられ、シオンとリヴェルが廊下へと出た。
「フルール様」
宝物庫を守っている兵士が小さなメモをフルールへ手渡した。内容は、勇者侯爵家の執事が応接室で待っているというもの。
「分かりました」
兵士へ返事をしてから、小さくため息を吐くフルール。執事が王城までシオンを迎えに来たという事は、今夜はリヴェルと一緒に食事が出来ないという事。
リヴェルが何と言い出すか。周りの目がある場ではあまり強く諫められない。
フルールはシオンの母親の姉の娘にあたる。母親姉妹は公爵家の出身。シオンの母親が勇者侯爵家へ輿入れしたように、フルールの姉は伯爵家へと輿入れした。
領地を持たぬ法衣貴族としての伯爵家と、同じく領地を持たぬ勇者侯爵家。王都に屋敷を構えている家同士なので、他の貴族家以上の交流があった。
フルールは身近にいる、幼馴染みとの結婚を果たしたというシオンの両親に憧れてを抱くようになった。幼馴染みと呼べる男の子はいなかったが、叶うのならば恋をした相手と結ばれたいという想いが芽生えた。
しかしフルールは貴族の息女として、いずれは別の貴族家へと嫁に出される身。伯爵家の跡取りは一つ下の弟が選ばれる事だろう。
もう十六歳。母親が伯爵家との縁談を聞かされたのと同じ歳。第一王女付き侍女という名の花嫁修業で経験も積み、箔も付けた。
我が身の運命は知っているが、しかし恋をする心は自由でありたい。もう少し自由でいさせてほしい。
しかし悲しいかな、侍女という職務は出会いがない。王城の中、限られた行動範囲。毎日顔を合わせる兵士達。時折すれ違う貴族達は皆妻帯者である。
恋をする事さえないまま、会った事もない貴族家次期当主との縁談が決まるのか。半ば諦めていた頃、出会いがあった。
ほんのたまに顔を合わせる程度。言葉を交わす事も少ない。しかし、その目を見るだけで心臓が早鐘を打つ。顔が火照って目が潤んでしまう。会うたびに惹かれていく。
あぁ……、これが恋というものなのか。そう自覚した時、幸せと共に不幸も訪れた。どうあってもあのお方と結ばれる事はないのだという絶望感。
「みんな、お待たせ!」
応接室へ着き、シオンが待たせていたセーナとウィザリー、そしてレリックへ声を掛ける。
と、シオンに手を引かれていたリヴェルが肘打ちをする。
「え、何? あっ……」
こそこそと耳打ちをされ、何かを思い出したかのような表情を浮かべるシオン。慌てて腕組みをし、ドンドンと床を踏み鳴らしながら大声を上げる。
「えっと! ちょ、ちょっと疲れたから旅はお休みにするから! って言うか飽きた。うんそう飽きた!」
ウンウン、と一人頷いているシオン。対する三人は椅子に座ったままポカーンとした顔でシオンを見つめている。
「そういう事だから! じゃ、また旅する気になったら呼ぶからね!!」
「ちょっと、それでは追放されるんじゃなくただの解散ですの。もっと怒らせるような事をしたり嫌な事をさせたりしないと……」
リヴェルがまた肘打ちをしてシオンに耳打ちする。周りから見れば明らかに不自然な光景。
そもそも王城にはドラゴンを一人で倒せるようになる為の何かを探しに来たのだ。そのシオンが突然飽きたなど言うとは思えない。
(これではまるで子供のイタズラね……)
常日頃からリヴェルに付いているフルールからすれば、これはわがままですらなくただのイタズラ。冗談の延長のような可愛らしいものが。
「そっか、じゃあどうしよう……」
自分を追放させるよう誘導するという、かなり難しい目的を前にして何の考えもなく行動をするシオン。勇者とはいえ、次期侯爵とはいえ、考え方自体は十歳の男の子だ。
「ちょっと待って下さい、シオン。一体何があったのですか?」
大人代表としてレリックが立ち上がる。口調は丁寧、あくまで冷静に、決して子供の考えだとは馬鹿にせず、ゆっくりと歩み寄って問い掛ける。
「強くなる為に参考になるような書物は見つかったのですか?」
そう、この行いこそがシオンにとっては強くなる為の準備。レリックの言葉を受けて慌てていたシオンがキッと表情を引き締めて、真剣な顔付きになる。
「僕はもっと色んな経験をしなくちゃいけないんだ! だからちょっと、女遊びをするって決めたんだ!!」
応接室がシーンと静まりかえる。十歳の男の子が、変な影響を受けて帰って来た。宝物庫へ行っていない者からすれば、そう捉えるのが自然。
(そんな目で見ないで下さいませ……)
その場にいたであろう年長者。フルールに対して一斉に視線が集まる。
「フルール様、説明して頂けますか?」
レリックがシオンに向いていた足をずらしてフルールへと歩み寄る。フルールはさっと目を逸らし、背中を縮こめてしまった。
その小さな背中を、シオンが思いっ切り突き飛ばした。
「レリックには姉さんをあげるから、僕はセーナとウィザリーをもらうね!!」
シオンは十歳とはいえ勇者として修行を積んでいる。力だけで言えば一般的な兵士よりも強い。その強い力で押し出されてしまった小さな身体は、真っ直ぐにレリックへと向かい、そして正面から抱きかかえられた。
「大丈夫ですか? フルール様」
思い人に顔を覗き込まれ、心臓が早鐘を打ち鳴らして顔を紅潮させ口をわなわなと震わせるフルール。
(もう死んでもいいわ!)
フルールは勢いに任せてレリックの背中に手を周り、きゅっときつく抱き締める。恋心を満たされた瞬間である。
「あの、私は女遊びの対象ではございませんの……?」
第一王女の呟きを拾う者はいなかった。
(上手く行きましたわ。後はシオン様がわがまま放題言い出してパーティーメンバーから嫌われれば……)
(口が回るとは言え、やはり八歳の少女。今のパーティーメンバーに嫌われようが、新しいメンバーを用意されるだけなのに)
宝物庫での用事を終え、フルールが外で待機している兵士に合図を送る。重い石扉が開けられ、シオンとリヴェルが廊下へと出た。
「フルール様」
宝物庫を守っている兵士が小さなメモをフルールへ手渡した。内容は、勇者侯爵家の執事が応接室で待っているというもの。
「分かりました」
兵士へ返事をしてから、小さくため息を吐くフルール。執事が王城までシオンを迎えに来たという事は、今夜はリヴェルと一緒に食事が出来ないという事。
リヴェルが何と言い出すか。周りの目がある場ではあまり強く諫められない。
フルールはシオンの母親の姉の娘にあたる。母親姉妹は公爵家の出身。シオンの母親が勇者侯爵家へ輿入れしたように、フルールの姉は伯爵家へと輿入れした。
領地を持たぬ法衣貴族としての伯爵家と、同じく領地を持たぬ勇者侯爵家。王都に屋敷を構えている家同士なので、他の貴族家以上の交流があった。
フルールは身近にいる、幼馴染みとの結婚を果たしたというシオンの両親に憧れてを抱くようになった。幼馴染みと呼べる男の子はいなかったが、叶うのならば恋をした相手と結ばれたいという想いが芽生えた。
しかしフルールは貴族の息女として、いずれは別の貴族家へと嫁に出される身。伯爵家の跡取りは一つ下の弟が選ばれる事だろう。
もう十六歳。母親が伯爵家との縁談を聞かされたのと同じ歳。第一王女付き侍女という名の花嫁修業で経験も積み、箔も付けた。
我が身の運命は知っているが、しかし恋をする心は自由でありたい。もう少し自由でいさせてほしい。
しかし悲しいかな、侍女という職務は出会いがない。王城の中、限られた行動範囲。毎日顔を合わせる兵士達。時折すれ違う貴族達は皆妻帯者である。
恋をする事さえないまま、会った事もない貴族家次期当主との縁談が決まるのか。半ば諦めていた頃、出会いがあった。
ほんのたまに顔を合わせる程度。言葉を交わす事も少ない。しかし、その目を見るだけで心臓が早鐘を打つ。顔が火照って目が潤んでしまう。会うたびに惹かれていく。
あぁ……、これが恋というものなのか。そう自覚した時、幸せと共に不幸も訪れた。どうあってもあのお方と結ばれる事はないのだという絶望感。
「みんな、お待たせ!」
応接室へ着き、シオンが待たせていたセーナとウィザリー、そしてレリックへ声を掛ける。
と、シオンに手を引かれていたリヴェルが肘打ちをする。
「え、何? あっ……」
こそこそと耳打ちをされ、何かを思い出したかのような表情を浮かべるシオン。慌てて腕組みをし、ドンドンと床を踏み鳴らしながら大声を上げる。
「えっと! ちょ、ちょっと疲れたから旅はお休みにするから! って言うか飽きた。うんそう飽きた!」
ウンウン、と一人頷いているシオン。対する三人は椅子に座ったままポカーンとした顔でシオンを見つめている。
「そういう事だから! じゃ、また旅する気になったら呼ぶからね!!」
「ちょっと、それでは追放されるんじゃなくただの解散ですの。もっと怒らせるような事をしたり嫌な事をさせたりしないと……」
リヴェルがまた肘打ちをしてシオンに耳打ちする。周りから見れば明らかに不自然な光景。
そもそも王城にはドラゴンを一人で倒せるようになる為の何かを探しに来たのだ。そのシオンが突然飽きたなど言うとは思えない。
(これではまるで子供のイタズラね……)
常日頃からリヴェルに付いているフルールからすれば、これはわがままですらなくただのイタズラ。冗談の延長のような可愛らしいものが。
「そっか、じゃあどうしよう……」
自分を追放させるよう誘導するという、かなり難しい目的を前にして何の考えもなく行動をするシオン。勇者とはいえ、次期侯爵とはいえ、考え方自体は十歳の男の子だ。
「ちょっと待って下さい、シオン。一体何があったのですか?」
大人代表としてレリックが立ち上がる。口調は丁寧、あくまで冷静に、決して子供の考えだとは馬鹿にせず、ゆっくりと歩み寄って問い掛ける。
「強くなる為に参考になるような書物は見つかったのですか?」
そう、この行いこそがシオンにとっては強くなる為の準備。レリックの言葉を受けて慌てていたシオンがキッと表情を引き締めて、真剣な顔付きになる。
「僕はもっと色んな経験をしなくちゃいけないんだ! だからちょっと、女遊びをするって決めたんだ!!」
応接室がシーンと静まりかえる。十歳の男の子が、変な影響を受けて帰って来た。宝物庫へ行っていない者からすれば、そう捉えるのが自然。
(そんな目で見ないで下さいませ……)
その場にいたであろう年長者。フルールに対して一斉に視線が集まる。
「フルール様、説明して頂けますか?」
レリックがシオンに向いていた足をずらしてフルールへと歩み寄る。フルールはさっと目を逸らし、背中を縮こめてしまった。
その小さな背中を、シオンが思いっ切り突き飛ばした。
「レリックには姉さんをあげるから、僕はセーナとウィザリーをもらうね!!」
シオンは十歳とはいえ勇者として修行を積んでいる。力だけで言えば一般的な兵士よりも強い。その強い力で押し出されてしまった小さな身体は、真っ直ぐにレリックへと向かい、そして正面から抱きかかえられた。
「大丈夫ですか? フルール様」
思い人に顔を覗き込まれ、心臓が早鐘を打ち鳴らして顔を紅潮させ口をわなわなと震わせるフルール。
(もう死んでもいいわ!)
フルールは勢いに任せてレリックの背中に手を周り、きゅっときつく抱き締める。恋心を満たされた瞬間である。
「あの、私は女遊びの対象ではございませんの……?」
第一王女の呟きを拾う者はいなかった。
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