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12:本心と立場と都合
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「いつまで抱き合っているつもりですの?」
リヴェルが能面のような表情でレリックとフルールへ詰め寄る。シオンから女遊びの対象に入れられなかった八つ当たりだ。
「これはこれは、私とした事が申し訳ございませんでした」
ゆっくりとした動作でフルールから手を離すレリック。
(あっ……)
憧れだったレリックの温もりが離れて行く。名残惜しいが、自分には過ぎた経験。この夢のようなひと時を今後一生、大事な思い出としてそっと胸の内に秘めておこう。
フルールは初恋とそうやって折り合いをつけたのだった。
「ではシオン様、旦那様がお待ちですので参りましょうぞ」
アルジャンがそのバリトンボイスで告げる。レリックとセーナとウィザリーはシオン達が宝物庫に入っている間に聞かされた事だが、シオンとリヴェルにとっては初耳である。
まるで規定事項のように告げたアルジャンに対し、一人放っておかれたお冠お姫様が黙っていない。
「アルジャン、今夜シオンは私と夕食を共にするのですわ! 何なら寝るのも一緒ですのよ!!」
生まれや立場はあれど、二人は幼馴染。国王と侯爵の関係が良い事もあり、シオンが王城でお泊りした事も多々あった。
しかしそれも当代勇者となる以前の話。
「僭越ながら殿下、私は我が主より命を受けてシオン様をお迎えに上がったのでございます。
主の意に沿うのが私の務め。どうか、お許し下さいませ」
「でしたらフォルツァ卿へは私が文をしたためましょう。フォルツァ家嫡男は預かった、と」
まるで犯行声明のような文である。リヴェルがフルールに筆記具を用意させようとしている間、アルジャンの目線はじっとシオンへと注がれている。
睨む訳ではなく、見守る訳ではなく、じっと働き掛けるかのような眼差し。その視線を受けて、シオンがリヴェルへと謝った。
「……殿下。せっかくのお誘い、誠に心苦しいのですが本日は辞退させて頂きたく」
「シオン様!? 何故ですの? お久しぶりにお会い出来たというのに!!」
シオンに断られ、リヴェルはつい言葉遣いも忘れて叫んでしまう。そんなリヴェルへそっと近付き、シオンが囁く。
「ごめんね、リヴェル。また近い内に顔を出すから」
「ですが……」
「リヴェルとの面会に割り込みを掛けて来たんだ、よほど重要な要件だと思う」
今回の王都帰還は、もとはと言えばリヴェルが侯爵へ頼んでシオンに戻って来るよう働きかけてもらったという経緯がある。
にも関わらず、執事を使ってシオンを屋敷へ呼び戻すというのは確かにおかしい。シオンが感じている以上にリヴェルは違和感を覚えた。
「……分かりました。今回は我慢致しますわ。
シオン様、“追放されし者”の事、お忘れなきように」
引き離された腹いせに、という訳ではないだろうが、リヴェルは改めてシオンへ釘を刺す。シオンがパーティーメンバーから嫌われれば、一人きりになってしまい王都から旅立てなくなる。
そうなれば、シオンはずっと自分と一緒に過ごせる。八歳の女の子はそう信じているのだ。
「そうだね、頑張るよ」
二人だけの会話を終えて身体を離し、貴族子女らしく丁寧にお辞儀をして見せるシオン。それを受け、リヴェルも第一王女として鷹揚に頷いてみせる。
「勇者シオン、貴方の無事を祈っております」
「ありがたき幸せ」
リヴェルが能面のような表情でレリックとフルールへ詰め寄る。シオンから女遊びの対象に入れられなかった八つ当たりだ。
「これはこれは、私とした事が申し訳ございませんでした」
ゆっくりとした動作でフルールから手を離すレリック。
(あっ……)
憧れだったレリックの温もりが離れて行く。名残惜しいが、自分には過ぎた経験。この夢のようなひと時を今後一生、大事な思い出としてそっと胸の内に秘めておこう。
フルールは初恋とそうやって折り合いをつけたのだった。
「ではシオン様、旦那様がお待ちですので参りましょうぞ」
アルジャンがそのバリトンボイスで告げる。レリックとセーナとウィザリーはシオン達が宝物庫に入っている間に聞かされた事だが、シオンとリヴェルにとっては初耳である。
まるで規定事項のように告げたアルジャンに対し、一人放っておかれたお冠お姫様が黙っていない。
「アルジャン、今夜シオンは私と夕食を共にするのですわ! 何なら寝るのも一緒ですのよ!!」
生まれや立場はあれど、二人は幼馴染。国王と侯爵の関係が良い事もあり、シオンが王城でお泊りした事も多々あった。
しかしそれも当代勇者となる以前の話。
「僭越ながら殿下、私は我が主より命を受けてシオン様をお迎えに上がったのでございます。
主の意に沿うのが私の務め。どうか、お許し下さいませ」
「でしたらフォルツァ卿へは私が文をしたためましょう。フォルツァ家嫡男は預かった、と」
まるで犯行声明のような文である。リヴェルがフルールに筆記具を用意させようとしている間、アルジャンの目線はじっとシオンへと注がれている。
睨む訳ではなく、見守る訳ではなく、じっと働き掛けるかのような眼差し。その視線を受けて、シオンがリヴェルへと謝った。
「……殿下。せっかくのお誘い、誠に心苦しいのですが本日は辞退させて頂きたく」
「シオン様!? 何故ですの? お久しぶりにお会い出来たというのに!!」
シオンに断られ、リヴェルはつい言葉遣いも忘れて叫んでしまう。そんなリヴェルへそっと近付き、シオンが囁く。
「ごめんね、リヴェル。また近い内に顔を出すから」
「ですが……」
「リヴェルとの面会に割り込みを掛けて来たんだ、よほど重要な要件だと思う」
今回の王都帰還は、もとはと言えばリヴェルが侯爵へ頼んでシオンに戻って来るよう働きかけてもらったという経緯がある。
にも関わらず、執事を使ってシオンを屋敷へ呼び戻すというのは確かにおかしい。シオンが感じている以上にリヴェルは違和感を覚えた。
「……分かりました。今回は我慢致しますわ。
シオン様、“追放されし者”の事、お忘れなきように」
引き離された腹いせに、という訳ではないだろうが、リヴェルは改めてシオンへ釘を刺す。シオンがパーティーメンバーから嫌われれば、一人きりになってしまい王都から旅立てなくなる。
そうなれば、シオンはずっと自分と一緒に過ごせる。八歳の女の子はそう信じているのだ。
「そうだね、頑張るよ」
二人だけの会話を終えて身体を離し、貴族子女らしく丁寧にお辞儀をして見せるシオン。それを受け、リヴェルも第一王女として鷹揚に頷いてみせる。
「勇者シオン、貴方の無事を祈っております」
「ありがたき幸せ」
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