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13:侯爵家侍女レムル
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シオンは現在、王城を出て実家であるフォルツァ侯爵家の屋敷へと馬車で向かっている。
勇者パーティーとして借りた幌付き馬車ではなく侯爵家嫡男専用の馬車に乗っており、シオンとアルジャンと侯爵家の侍女の三人が揺られている。
御者スペースと客車スペースは完全に区切られており、シオンは所在なさげに小さな窓から外の景色を眺めている。その向かい側、進行方向に背を向けた形で座っているアルジャンが声を掛けた。
「お坊ちゃま。今回の旅はいかがでしたか?」
「旅だなんて大層なものじゃないよ。王都から離れても三日程度の距離だもん」
侯爵の意向により、シオンの行動範囲はレリックによって制限されている。あからさまにはされていないものの、レリックの誘導についてシオンも薄々は勘付いている。
「今回はちょっとだけわがままを聞いてもらえたんだ。山間の深い川を住処にしているウォータードラゴンに……」
「ドラゴンですと!? 何とまぁ危険な! もしもの事があったらどうするおつもりですか!!」
少しだけ嬉しそうな表情で話し出したシオンに対し、アルジャンが遮って声を上げる。
「お坊ちゃまの身に何かあったらと思うと私は……!!」
「アルジャン、僕勇者だよ? 戦うのが……」
「そのようなものは伝統であり形式であり上辺のものです。お坊ちゃまがなされるべきは次期侯爵として心づもりをする事。そして知識と経験を得る事なのです」
でもお父様も、と言い掛けて口を閉じるシオン。アルジャンがこうなっては何を言っても無駄である事を知っている。
うんうん、と聞き流して頷くだけになったシオン。その事に気付かぬまま話を続けるアルジャン。
「ここで言う経験とは、先ほど仰っていたような女遊びなどという不要な経験とは違い……」
今までアルジャンの隣で存在を消していた侍女が、ふと目を上げてシオンを見る。
“女遊びをされるのですか?”
“そうだよ、世界中の女の人を手に入れるんだ”
唇だけで交わされる、二人だけの会話。
アルジャンのシオンに対する抑圧的な対応は今に始まった事ではない。勇者としての旅に出る以前、このような光景はたびたび屋敷内で見られた。
そのたびにこの侍女、レムルがアルジャンに分からないようにシオンを元気付けてくれるのだ。
レムルの歳は十五歳。侯爵家の侍女をしているのはレムルも同じく貴族子女であるからだ。フォルツァ侯爵家の寄子である子爵家の次女にあたる。
“まぁ恐ろしい、私も気を付けなくては”
そんなレムルの軽口を受けて、シオンがふふっと笑みをこぼす。
「お坊ちゃま! この老いぼれの話を真剣に聞いて下さいまし!!
私はお坊ちゃまの事を思えばこそ!!」
シオンの笑みを見逃さなかったアルジャンは、さらに熱を込めて如何に自分がシオンの行く先を心配しているのか、今のシオンにとって大切な事は何かを語り上げる。
シオンは生返事と共に時折頷いて見せるが、しかし唇では別な会話を続けている。
“僕はもっともっと強くなるんだ。見ていてね、レムル”
“楽しみにしております。それで、私はいつ魔王ではなく勇者様に攫われるのでしょうか?”
またもふふっ、と笑ってしまうシオン。
「お坊ちゃまー!!」
馬車内ではこのようなやり取りが、侯爵家の屋敷へ着くまで続けられたのだった。
勇者パーティーとして借りた幌付き馬車ではなく侯爵家嫡男専用の馬車に乗っており、シオンとアルジャンと侯爵家の侍女の三人が揺られている。
御者スペースと客車スペースは完全に区切られており、シオンは所在なさげに小さな窓から外の景色を眺めている。その向かい側、進行方向に背を向けた形で座っているアルジャンが声を掛けた。
「お坊ちゃま。今回の旅はいかがでしたか?」
「旅だなんて大層なものじゃないよ。王都から離れても三日程度の距離だもん」
侯爵の意向により、シオンの行動範囲はレリックによって制限されている。あからさまにはされていないものの、レリックの誘導についてシオンも薄々は勘付いている。
「今回はちょっとだけわがままを聞いてもらえたんだ。山間の深い川を住処にしているウォータードラゴンに……」
「ドラゴンですと!? 何とまぁ危険な! もしもの事があったらどうするおつもりですか!!」
少しだけ嬉しそうな表情で話し出したシオンに対し、アルジャンが遮って声を上げる。
「お坊ちゃまの身に何かあったらと思うと私は……!!」
「アルジャン、僕勇者だよ? 戦うのが……」
「そのようなものは伝統であり形式であり上辺のものです。お坊ちゃまがなされるべきは次期侯爵として心づもりをする事。そして知識と経験を得る事なのです」
でもお父様も、と言い掛けて口を閉じるシオン。アルジャンがこうなっては何を言っても無駄である事を知っている。
うんうん、と聞き流して頷くだけになったシオン。その事に気付かぬまま話を続けるアルジャン。
「ここで言う経験とは、先ほど仰っていたような女遊びなどという不要な経験とは違い……」
今までアルジャンの隣で存在を消していた侍女が、ふと目を上げてシオンを見る。
“女遊びをされるのですか?”
“そうだよ、世界中の女の人を手に入れるんだ”
唇だけで交わされる、二人だけの会話。
アルジャンのシオンに対する抑圧的な対応は今に始まった事ではない。勇者としての旅に出る以前、このような光景はたびたび屋敷内で見られた。
そのたびにこの侍女、レムルがアルジャンに分からないようにシオンを元気付けてくれるのだ。
レムルの歳は十五歳。侯爵家の侍女をしているのはレムルも同じく貴族子女であるからだ。フォルツァ侯爵家の寄子である子爵家の次女にあたる。
“まぁ恐ろしい、私も気を付けなくては”
そんなレムルの軽口を受けて、シオンがふふっと笑みをこぼす。
「お坊ちゃま! この老いぼれの話を真剣に聞いて下さいまし!!
私はお坊ちゃまの事を思えばこそ!!」
シオンの笑みを見逃さなかったアルジャンは、さらに熱を込めて如何に自分がシオンの行く先を心配しているのか、今のシオンにとって大切な事は何かを語り上げる。
シオンは生返事と共に時折頷いて見せるが、しかし唇では別な会話を続けている。
“僕はもっともっと強くなるんだ。見ていてね、レムル”
“楽しみにしております。それで、私はいつ魔王ではなく勇者様に攫われるのでしょうか?”
またもふふっ、と笑ってしまうシオン。
「お坊ちゃまー!!」
馬車内ではこのようなやり取りが、侯爵家の屋敷へ着くまで続けられたのだった。
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