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16:侯爵家令嬢サラとスー
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侯爵家の食卓。長いテーブルの奥、テーヴァスが壁に掛けられたフォルツァ侯爵家の紋章を背に座っている。
テーヴァスから向かって右側にマーテル。その奥に長女サラ。
マーテルの向かい側、テーヴァスから見て左側にシオン。そしてその奥にスーが座っている。
夕食を終えて、今は食後のティータイムだ。
「ドラゴン!? すごいわお兄様!」
「ドラゴンと言ってもウォータードラゴンという種類で、ドラゴンの中では比較的弱いんだけどね」
「どれでもドラゴンはドラゴンよ。そこらのゴブリンとは比べ物にならないのでしょうね」
シオンの冒険譚にサラとスーは興味津々だ。
「私も着いて行ければ良いのだけど」
「そうね、サラ。でも貴女には貴女の役割があるのよ?」
「分かっております。ですが……」
マーテルがサラに言わんとする事。それは侯爵家令嬢として他家へと嫁ぎ、子を成すという役割についてだ。
フォルツァ侯爵家の直系にはスキルを持って生まれて来る事がある。それは確実なものではない。
現にシオンは勇者として旅に出るまで、スキルの存在を確認出来なかった。
実はシオンが侯爵家の嫡男であると認められたのは、このスキルが確認された以降である。
この嫡男認定についての判断基準は歴代の当主にのみ伝わる勇者侯爵家の秘密。
対外的にはスキルがあろうとなかろうと、シオンが嫡男として相応しいと判断したという事になっている。
ここで問題になるのは、直系の子供が誰もスキルを持って生まれて来なかった場合はどうするのか、という点である。
しかしその問題についての解決方法は簡単。数打ちゃ当たる、である。
フォルツァ侯爵家現当主テーヴァスには、子供が無数に存在する。中には数人のスキル保持者も確認されている。
もしテーヴァスとマーテルの間に生まれた三人の子供にスキル所持者が確認されなかったらその者が次代の当主となったであろう。
テーヴァス、そしてその父親のヴァーデュルはそれぞれ正妻の子であったが、親子三代揃って正妻の子であった方がフォルツァ侯爵家の歴史上珍しい事なのだ。
ここでサラの役割へと話は戻る。
フォルツァ侯爵家はレオーネ王国において勇者という抑止力を担う家だ。
勇者という称号自体は時と共に形骸化し、お飾りの宝剣のような扱いに変わってしまった。
しかしフォルツァ侯爵家の本当の役割はスキルという特別な力を継承して行く事なのである。
その為、子供は一人でも多く必要。サラにおいても、スーにおいても、もちろんシオンにおいても。
もしサラなりスーなりが他家に嫁いで子供をもうけ、その子供にスキルが確認されれば、その子供はすぐさまフォルツァ侯爵家の養子として迎え入れられる。
これは国家安全保障の問題としての重要な案件である為、王家を中心として勇者侯爵家とその婚家との三者間の取り決めとされる。
ここまで詳しく聞かされている訳ではないが、長子であるサラはフォルツァ侯爵家の娘として、子を成す事こそが自分の役割であると自覚していた。
「私も着いて行きたいです! 精霊様のお話は分かりにくくて難しいのです。
自分の目で見るのが一番分かりやすいのです!」
行きたい行きたい! と父親におねだりをする可愛らしい女の子、スー。
スーはフォルツァ侯爵家の存在意義である、スキルを持って生まれた。
お喋りが出来るようになった二歳頃。スーはたびたびその場にはいないはずの誰かについて話すようになった。
それがスーのいう精霊様である。
この世には精霊という存在がおり、空にふわふわ浮いていて色んなお話をしてくれる。
見えるのはスーだけだが精霊信仰である国教、レリヒー教会に伝わる精霊の特徴と一致し、テーヴァスは精霊を見る力はスキルであると認定した。
シオンのスキルが確認されるまではスーを嫡女とし、次期当主に据える予定であった。
シオンは勇者としての役割を、スーは次期侯爵としての役割を任されるはずだった。
「精霊様はお兄様の事、ちゃんと見守って下さっているの! いつもお話して下さるの!!」
「そうなんだ、それは嬉しいな。僕の代わりにありがとうって伝えてくれる?」
「うん、いいよ!」
父も祖父も持っているスキル。自分は持っていない。しかし、妹は持っている。
シオンのスキルコンプレックスの一番の原因は、スーの存在なのだ。
テーヴァスから向かって右側にマーテル。その奥に長女サラ。
マーテルの向かい側、テーヴァスから見て左側にシオン。そしてその奥にスーが座っている。
夕食を終えて、今は食後のティータイムだ。
「ドラゴン!? すごいわお兄様!」
「ドラゴンと言ってもウォータードラゴンという種類で、ドラゴンの中では比較的弱いんだけどね」
「どれでもドラゴンはドラゴンよ。そこらのゴブリンとは比べ物にならないのでしょうね」
シオンの冒険譚にサラとスーは興味津々だ。
「私も着いて行ければ良いのだけど」
「そうね、サラ。でも貴女には貴女の役割があるのよ?」
「分かっております。ですが……」
マーテルがサラに言わんとする事。それは侯爵家令嬢として他家へと嫁ぎ、子を成すという役割についてだ。
フォルツァ侯爵家の直系にはスキルを持って生まれて来る事がある。それは確実なものではない。
現にシオンは勇者として旅に出るまで、スキルの存在を確認出来なかった。
実はシオンが侯爵家の嫡男であると認められたのは、このスキルが確認された以降である。
この嫡男認定についての判断基準は歴代の当主にのみ伝わる勇者侯爵家の秘密。
対外的にはスキルがあろうとなかろうと、シオンが嫡男として相応しいと判断したという事になっている。
ここで問題になるのは、直系の子供が誰もスキルを持って生まれて来なかった場合はどうするのか、という点である。
しかしその問題についての解決方法は簡単。数打ちゃ当たる、である。
フォルツァ侯爵家現当主テーヴァスには、子供が無数に存在する。中には数人のスキル保持者も確認されている。
もしテーヴァスとマーテルの間に生まれた三人の子供にスキル所持者が確認されなかったらその者が次代の当主となったであろう。
テーヴァス、そしてその父親のヴァーデュルはそれぞれ正妻の子であったが、親子三代揃って正妻の子であった方がフォルツァ侯爵家の歴史上珍しい事なのだ。
ここでサラの役割へと話は戻る。
フォルツァ侯爵家はレオーネ王国において勇者という抑止力を担う家だ。
勇者という称号自体は時と共に形骸化し、お飾りの宝剣のような扱いに変わってしまった。
しかしフォルツァ侯爵家の本当の役割はスキルという特別な力を継承して行く事なのである。
その為、子供は一人でも多く必要。サラにおいても、スーにおいても、もちろんシオンにおいても。
もしサラなりスーなりが他家に嫁いで子供をもうけ、その子供にスキルが確認されれば、その子供はすぐさまフォルツァ侯爵家の養子として迎え入れられる。
これは国家安全保障の問題としての重要な案件である為、王家を中心として勇者侯爵家とその婚家との三者間の取り決めとされる。
ここまで詳しく聞かされている訳ではないが、長子であるサラはフォルツァ侯爵家の娘として、子を成す事こそが自分の役割であると自覚していた。
「私も着いて行きたいです! 精霊様のお話は分かりにくくて難しいのです。
自分の目で見るのが一番分かりやすいのです!」
行きたい行きたい! と父親におねだりをする可愛らしい女の子、スー。
スーはフォルツァ侯爵家の存在意義である、スキルを持って生まれた。
お喋りが出来るようになった二歳頃。スーはたびたびその場にはいないはずの誰かについて話すようになった。
それがスーのいう精霊様である。
この世には精霊という存在がおり、空にふわふわ浮いていて色んなお話をしてくれる。
見えるのはスーだけだが精霊信仰である国教、レリヒー教会に伝わる精霊の特徴と一致し、テーヴァスは精霊を見る力はスキルであると認定した。
シオンのスキルが確認されるまではスーを嫡女とし、次期当主に据える予定であった。
シオンは勇者としての役割を、スーは次期侯爵としての役割を任されるはずだった。
「精霊様はお兄様の事、ちゃんと見守って下さっているの! いつもお話して下さるの!!」
「そうなんだ、それは嬉しいな。僕の代わりにありがとうって伝えてくれる?」
「うん、いいよ!」
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シオンのスキルコンプレックスの一番の原因は、スーの存在なのだ。
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