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23:戦士VS勇者
しおりを挟むシオンが実家に戻った際、今までであれば滞在は一泊。朝食の後すぐに次の修行へ向けて旅立っていた。
セーナとウィザリーは当然今回もそのような段取りであろうと思い、与えられた客室で準備をしていた。
(今回はもう一泊する事になりそうな気配ですが)
レリックはテーヴァスから、シオンの母親であるマーテルがうるさいと愚痴を聞いているので、今回は滞在が少し伸びる可能性があると把握している。
その事情を伝えていなかった事を思い出し、レリックはセーナとウィザリーの部屋へ行こうと廊下へ出ると、ちょうど侍女が二人の部屋をノックしているところだった。
「何かあったのですか?」
「シオン様が皆様をお呼びですので……」
何とも歯切れの悪い伝え方。侍女も用件を具体的には聞いていない様子。シオンに頼まれてとりあえず呼びに来たという雰囲気だ。
「あいよ~、ん? レリック、どうしたんだ?」
「二人の部屋にお邪魔しようと思っていたところ、こちらの方が部屋の前におられましたので。
どうやらシオンが私達に用があるとか」
それを聞いたセーナ、そして室内にいたウィザリーが不思議そうな表情を浮かべる。何故侍女を? いつもであれば、シオン自ら部屋に来るだろうに。
「まぁいいか。行こうぜ」
深く考えず、セーナが侍女を促して案内をさせる。それに続くレリックとウィザリー。
侍女が三人を案内した先は庭。朝にシオンとアルジャンが稽古をしていた場所だ。シオンが木の剣を素振りして待っていた。
「おう、シオン。用事って何だ?」
声を掛けたセーナへ、シオンが木の剣を投げて寄越す。それを片手で受け取るセーナ。
「どういうつもりだ?」
怒るでなく、戸惑うでもなく、剣の重さを確認するように両手で握って問い掛けるセーナ。
「今日ね、僕に剣の稽古を付けてくれていたアルジャンを打ち負かしたんだ。それでね、僕はもうセーナより強くなったんじゃないかなって、思ったんだ」
(可愛い顔していても、やっぱり男だな。腕試しがしたいのか)
セーナは口角をにぃ、と上げてシオンを見つめる。その力を見せてみろ、と。
「この模擬戦で僕が勝ったらセーナは不要。パーティーメンバーから抜けてもらうから」
「はぁ!? 稽古と実戦は別だろ? 稽古で負けたからって出て行くつもりはねぇぞ!」
「ダメだね、僕より弱い奴に背中は預けられないもん」
(これだけ言えば嫌われるよね)
シオンはその言葉ではセーナを焚き付けているだけだと気付かない。セーナにとっては強さを認めさせればいいだけなのだから。
シオンの支援スキルで自分の力が著しく向上している事を知っているセーナにとって、シオンに負ける訳がないと確信している。
「シオン、ちょっとだけ時間を下さい! セーナをパーティーから失う訳にはいきませんので」
レリックがシオンに断りを入れ、セーナに近付く。
「何だよ、あたいがシオンに負ける訳ないだろ?」
「いえ、そうとも言えません。
もしかしたら一時的にシオンの支援スキルが無効になる可能性があります。油断してはなりません」
レリックは例え模擬戦であっても、シオンと相対する者はシオンの支援スキルの発動条件である“パーティーメンバー”という項目から外れる可能性を危惧した。
万が一外れたとしてもセーナがシオンに負けるとは思いにくいが、その可能性に気付いているかいないかでは大きな差が生じる。
「なるほどな、じゃあ最初は防御に徹して様子を見た方がいいな」
「ええ、お願いします」
シオンの目的とは別に、レリックとセーナは今回のシオンとの模擬戦で支援スキルの特性確認の機会にするようだ。
「レリック、もういい? 邪魔なんだけど」
いつもなら見る事のないシオンの悪態をつく姿を見やり、セーナはやっと合点がいく。
「そうか、“追放されし者”か」
「ええ、そうでしょうね」
シオンにとってこの模擬戦は、セーナに嫌われる為の手段なのだ。
(それにしては不器用すぎんだろ。いきなり斬りかかってくるとか、もっとやりようがあっただろうに)
クククッ、と笑うセーナ。それを見てシオンが声を荒げる。
「もういいかって聞いてるんだけど!!」
「あぁ、いつでも来いよ。コテンパンにしてやるよ!」
こうして戦士VS勇者の戦いが始まった。
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