隠し称号『追放されし者』が欲しい勇者はパーティーみんなに引き留められる(なおそんな称号はない)

なつのさんち

文字の大きさ
23 / 26

23:戦士VS勇者

しおりを挟む

 シオンが実家に戻った際、今までであれば滞在は一泊。朝食の後すぐに次の修行へ向けて旅立っていた。
 セーナとウィザリーは当然今回もそのような段取りであろうと思い、与えられた客室で準備をしていた。

(今回はもう一泊する事になりそうな気配ですが)

 レリックはテーヴァスから、シオンの母親であるマーテルがうるさいと愚痴を聞いているので、今回は滞在が少し伸びる可能性があると把握している。
 その事情を伝えていなかった事を思い出し、レリックはセーナとウィザリーの部屋へ行こうと廊下へ出ると、ちょうど侍女が二人の部屋をノックしているところだった。

「何かあったのですか?」

「シオン様が皆様をお呼びですので……」

 何とも歯切れの悪い伝え方。侍女も用件を具体的には聞いていない様子。シオンに頼まれてとりあえず呼びに来たという雰囲気だ。

「あいよ~、ん? レリック、どうしたんだ?」

「二人の部屋にお邪魔しようと思っていたところ、こちらの方が部屋の前におられましたので。
 どうやらシオンが私達に用があるとか」

 それを聞いたセーナ、そして室内にいたウィザリーが不思議そうな表情を浮かべる。何故侍女を? いつもであれば、シオン自ら部屋に来るだろうに。

「まぁいいか。行こうぜ」

 深く考えず、セーナが侍女を促して案内をさせる。それに続くレリックとウィザリー。
 侍女が三人を案内した先は庭。朝にシオンとアルジャンが稽古をしていた場所だ。シオンが木の剣を素振りして待っていた。

「おう、シオン。用事って何だ?」

 声を掛けたセーナへ、シオンが木の剣を投げて寄越す。それを片手で受け取るセーナ。

「どういうつもりだ?」

 怒るでなく、戸惑うでもなく、剣の重さを確認するように両手で握って問い掛けるセーナ。

「今日ね、僕に剣の稽古を付けてくれていたアルジャンを打ち負かしたんだ。それでね、僕はもうセーナより強くなったんじゃないかなって、思ったんだ」

(可愛い顔していても、やっぱり男だな。腕試しがしたいのか)

 セーナは口角をにぃ、と上げてシオンを見つめる。その力を見せてみろ、と。

「この模擬戦で僕が勝ったらセーナは不要。パーティーメンバーから抜けてもらうから」

「はぁ!? 稽古と実戦は別だろ? 稽古で負けたからって出て行くつもりはねぇぞ!」

「ダメだね、僕より弱い奴に背中は預けられないもん」

(これだけ言えば嫌われるよね)

 シオンはその言葉ではセーナを焚き付けているだけだと気付かない。セーナにとっては強さを認めさせればいいだけなのだから。
 シオンの支援スキルで自分の力が著しく向上している事を知っているセーナにとって、シオンに負ける訳がないと確信している。

「シオン、ちょっとだけ時間を下さい! セーナをパーティーから失う訳にはいきませんので」

 レリックがシオンに断りを入れ、セーナに近付く。

「何だよ、あたいがシオンに負ける訳ないだろ?」

「いえ、そうとも言えません。
 もしかしたら一時的にシオンの支援スキルが無効になる可能性があります。油断してはなりません」

 レリックは例え模擬戦であっても、シオンと相対する者はシオンの支援スキルの発動条件である“パーティーメンバー”という項目から外れる可能性を危惧した。
 万が一外れたとしてもセーナがシオンに負けるとは思いにくいが、その可能性に気付いているかいないかでは大きな差が生じる。

「なるほどな、じゃあ最初は防御に徹して様子を見た方がいいな」

「ええ、お願いします」

 シオンの目的とは別に、レリックとセーナは今回のシオンとの模擬戦で支援スキルの特性確認の機会にするようだ。

「レリック、もういい? 邪魔なんだけど」

 いつもなら見る事のないシオンの悪態をつく姿を見やり、セーナはやっと合点がいく。

「そうか、“追放されし者”か」

「ええ、そうでしょうね」

 シオンにとってこの模擬戦は、セーナに嫌われる為の手段なのだ。

(それにしては不器用すぎんだろ。いきなり斬りかかってくるとか、もっとやりようがあっただろうに)

 クククッ、と笑うセーナ。それを見てシオンが声を荒げる。

「もういいかって聞いてるんだけど!!」

「あぁ、いつでも来いよ。コテンパンにしてやるよ!」

 こうして戦士VS勇者の戦いが始まった。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

ゲームの悪役パパに転生したけど、勇者になる息子が親離れしないので完全に詰んでる

街風
ファンタジー
「お前を追放する!」 ゲームの悪役貴族に転生したルドルフは、シナリオ通りに息子のハイネ(後に世界を救う勇者)を追放した。 しかし、前世では子煩悩な父親だったルドルフのこれまでの人生は、ゲームのシナリオに大きく影響を与えていた。旅にでるはずだった勇者は旅に出ず、悪人になる人は善人になっていた。勇者でもないただの中年ルドルフは魔人から世界を救えるのか。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

召しませ、私の旦那さまっ!〜美醜逆転の世界でイケメン男性を召喚します〜

紗幸
恋愛
「醜い怪物」こそ、私の理想の旦那さま! 聖女ミリアは、魔王を倒す力を持つ「勇者」を召喚する大役を担う。だけど、ミリアの願いはただ一つ。日本基準の超絶イケメンを召喚し、魔王討伐の旅を通して結婚することだった。召喚されたゼインは、この国の美醜の基準では「醜悪な怪物」扱い。しかしミリアの目には、彼は完璧な最強イケメンに映っていた。ミリアは魔王討伐の旅を「イケメン旦那さまゲットのためのアピールタイム」と称し、ゼインの心を掴もうと画策する。しかし、ゼインは冷酷な仮面を崩さないまま、旅が終わる。 イケメン勇者と美少女聖女が織りなす、勘違いと愛が暴走する異世界ラブコメディ。果たして、二人の「愛の旅」は、最高の結末を迎えるのか? ※短編用に書いたのですが、少し長くなったので連載にしています ※この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...