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43:借入金

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 小会議室から社長室へ戻ったが、社長はまだ工場での得意先の立ち会いが終わっていないようだった。
 あの後に何を質問すべきなのか、本当に社長が話を聞いてくれるか分からないが、俺が出来る事をするとしよう。

 机の上に置かれた資料の一番上、経理課から上がって来た借り入れについての資料に目を通す。
 まぁつい先日まで俺が作っていた資料なんだけど。

 現在のうちの会社の借入金の総額は八億二千万円。
 内訳は長期借入金残高がざっくり六億円。
 短期借入金がざっくり二億二千万円。

 長期借入金とは五年や七年など、期間を決めて毎月同じだけの金額を返済していく借り方。
 例えば五千万円を五年間借りるとなると、毎月八十三万三千円の返済と、それとは別に残金に対する利息を支払う事になる。

 短期借入金とは借入日の数日後から最長一年後に借りた金額を一括で返済するもので、主に毎月の返済がない代わりに、毎月満額に対する利息を支払う形を取る事が多い。

 利息の計算方法にも種類があり、大まかに分けると固定金利と変動金利での契約が選べる。
 選べるというか、銀行から提案を受ける事が出来る、という方が良いかもしれない。

 固定金利はそのままで、契約時に例えば金利は0.5%ですよと決めて、完済するまでずっと同じ金利分の利息を払い続けるもの。

 変動金利は基準金利となる短期プライムレートやTIBORタイボー(東京の銀行間取引金利)などを元に一ヶ月や三ヶ月ごとなどに金利が変動する。
 支払い月によって金利分の利息が変わるので、場合にもよるが固定金利よりも金利の支払い総額を低く抑える事が可能だ。
 変動金利の場合、一ヶ月TIBOR(仮に0.06%だとして)プラス0.3%というような形で契約する為、支払い金利としては0.36%となる。

 銀行は日銀やその他の銀行からお金をTIBORレートの0.06%で借りて企業にプラス0.3%オンして貸し出す、というイメージだ。

 しかしここで注目すべきはTIBORではなく普通預金金利である。
 現在の普通預金金利は0.001%。
 普通預金は個人や企業が銀行に預け入れている口座のお金。
 銀行は0.001%の金利を預金者に支払いながら、片方では住宅ローンの三十年固定金利であれば1.42%で貸し出している。

 この差は実に千四百二十倍!
 百万円を千円で借りて来て、一万四千二百円で貸すのだ。
 その差額は一万三千二百円。
 右から来た金を左に回してこの利益である!!!

 とはいえ、リスクもあるし見えない経費も無数にある。
 全額回収出来ない事も考えられるし、そもそもこのご時世、金を借りてまで家を買おうという需要も減っている。
 そしてマイナス金利。

 銀行が儲かる時代ではないのだ。

 そう、時代は仮想通貨相場!


 いやいや、もう手を出すつもりはないけど。
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