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無口な大学生

この街に

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 洋太のいる居間と真智子がご飯を食べる食卓とは敷居で隔たってはいるが、ほぼ同じ空間と言って良い。
 母親が用意してくれたがっつり系の夕飯。恐らく年頃の洋太の為に作ったメニューなのだろう。
 居間から聞こえる祖母と両親の声、そして時々聞こえる洋太の返事をBGMにゆっくりと食事をする真智子。

(ごちそうさまでしたー、と言ってすんなり部屋に戻れるとは思えないな)

 座り位置的に洋太の背中しか見えないが、背筋をピンと伸ばしてやや硬いイメージ。
 にこにこ微笑む祖母は良いとしても、両親が洋太の存在を持て余している様子が伝わって来る。
 姿形は変わっても、8歳の頃と扱いがそう変わらない関係である。
 あれ以来交流が一切なかった事が大きな原因だが、何故大学進学を機に一人暮らしをせず、この家からの通学を選んだのだろうか。

(とっかかりの話題としてはぴったりね)

「ごちそうさまでしたー」

 自分で食べた物は自分で下げるのがこの家の家訓である。
 真智子は椅子から立ち上がりテーブルの食器をまとめ、流しへ持って行く。
 食器を洗うのは母親の役割。その分真智子はしっかりと家計にお金を入れている。

(さて、自然に自然に)

 食卓から居間へ移動し、祖母の隣へと腰掛ける。真智子は祖母の顔越しに洋太へと声を掛ける。

「洋太は何でこっちの大学に進もうと思ったの? 地元で一人暮らしの方が自由が利いたんじゃない?」

 洋太の住んでいた街は真智子が住む街よりも都会で、若者が住むにはこの上ない環境だ。
 真智子も都会に憧れを持つ若者の一人として、不思議に思っている点である。

「……この街にまた来たかったっス」

 少し遠慮気味、でもしっかりと真智子の目を見て返事をした洋太。
 その瞳に見つめられ、真智子の背中がぞわりと粟立った。
 それはまるで、小さな男の子の手で背中をペタペタと触られた時のような感覚だった。
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