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獲物を追い詰める狼

デートごっこ

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 真智子が思っていたよりも手慣れた運転で、洋太は屋内駐車場へ車を進めた。
 狭いスラロープ、キュキュッと鳴るタイヤ、邪魔な三角コーン。運転を始めた頃の真智子にとっては恐怖でしかなかったのだが、洋太は何なくバックで駐車をしてしまった。

「まずは何を買う?」

 シートベルトを外しながら、そう言えば何が必要なのか聞いていなかったなと真智子は気付く。

「とりあえず服を。真智子さんのお見立てで」

「えー、私? そんなに詳しくないよ?」

 車外に出て店内入口の表示を探す。と、車が前を通過して行った。

「危ない」

 いつの間にか隣にいた洋太が、真智子の右手を掴んだ。

(そんなにスピード出てなかったけどな……)

「さ、行きましょう」

「えっ? このまま……!?」

 真智子は洋太が手を握ったまま歩き出した事に驚くが、洋太は気にせず店内入口へと向かって行く。
 手を引かれた状態の真智子は、洋太は歩く速度を自分に合わせてくれているし、手を繋ぐ力も決して強い訳ではない事に気付く。
 それでもその手をほどくきっかけがない以上、洋太の手を離す事なく握ったままの状態で歩かなくてはならないような気になってしまっている。

(強引じゃないのに、とっても強引な気がする……)

 真智子は自立した性格で、家事こそ母親にお願いしているが料理も掃除も自分でする能力はある。
 その分、一方的に物事を進めようとする男性と合わずに別れる事もあった。
 しかし洋太に対しては、拒否感がない。嫌だと思わない。手を引かれるがまま、店内に入ってエスカレーターへ2人横並びで乗る。

「男物の服って何階にありますか?」

「えっと、色んなショップがあるから何階にあるとは言えないんだけど」

「じゃあ真智子さんのお好みのブランドがあれば、そこに連れてって下さい」

 手を引いているのは洋太なのに、目的地は真智子に決めさせる。そして話し方は敬語のまま。
 真智子はどうしたものかと洋太の顔を見上げる。遠くにある案内表示を眺めているようだ。
 その頬が、洋太が初めて『真智子さん』と呼んだ時と同じように真っ赤に染まっているのに気付き、真智子は安心する。

(なるほど、背伸びをしたいお年頃って事なのかな。じゃあお姉さんがデートごっこに付き合ってやるか!)

 戸惑いはすでになく、真智子はお遊びに乗る事にした。しかし、洋太は決してごっこのつもりなどない事には気付いていない。
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