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X+1回目のループ
拒絶
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(透ったらどこ行ったのよ~、せっかく私のモノに出来ると思ったのに……)
心音が夢子に連れられた屋上から自分の教室へと戻ろうとしていた道中、不穏な心の声が聞こえて来た。
心音は咄嗟にその声を漏らした人物の前に立ちはだかる。
「記代子ちゃんだ~、どうしたの? お弁当もう食べたの?」
夢子が記代子の姿を見て、焦りの表情を浮かべる。そして思わず、心で呟いてしまう。
(あ、心音だ、急いでるのに! 早く透の記憶を書き換えたいのに!)
「へぇ~、透君の記憶を書き換えるの? どうやって?」
(ヤバッ、心音も超能力者なんだ!? 考えちゃダメ、私の右手で相手のおでこに触れると記憶を書き換えられるなんて考えちゃダメ!!)
ふむふむと頷き、心音はさっと後ろに一歩下がる。
左手で自分のおでこを隠しながらスマホを操作し、夢子に繋げる。
『もしもしっ!? ちゅ、チューとかしてないんだからねっ!』
(ホントかなぁ~。でもまぁ、これで電話越しなら相手の心の声が聞こえない事は分かったから、よしとしてあげよう)
自分の能力について少しだけ理解が深まった事に満足しつつ、心音は手短に夢子へと忠告をする。
「そんな事はいいからよく聞いて。別の超能力者が透君を狙ってるから気を付けて。おでこに触れられると記憶を書き換えられる。
もしかしたらさっきの告白もなかった事にされてしまうかも知れない」
ビクッ! と目の前の記代子が跳ねるのを見つつ、夢子の返事を待たずに通話を終えた心音はスマホをポケットに仕舞い直す。
「ごめんね、やっと今日2人が両想いだって事が分かったんだ、透君達。
そっとしておいてあげたいんだよね~」
口調こそ柔らかい印象だが、心音の表情は真剣そのもの。絶対に2人の邪魔はさせないという強い意志が感じられる。
「……、分かったわ。はぁ、1回振られてるんだし。仕方ないか。
私の名前、出さないでくれてありがとう」
(今度こそきっぱりと諦めるしかないか、透は……)
トボトボと来た道を戻る記代子の背を見送り、心音も自分の教室へと足を進める。
(夢子と渡の間を取り持って、記代子ちゃんからすれば嫌なコを演じて……。時恵ちゃんはボクの心の声に耳を傾けてくれるかな?)
まだ昼休みも半ば。自分の身に起きた事、超能力の話をするだけの時間は残されている。心音は自分の教室へは戻らず、時恵がいるであろう教室へと向かって歩いて行く。
夢子と透、そして時恵の教室の前を通りかかり、開いている廊下側の窓越しにその姿を見つけた。
「時恵ちゃん、やっほ~」
心音が時恵に向かって手を振ると、時恵はガタッと勢いよく立ち上がり、まるで心音の超能力の有効範囲から出るかのように距離を取った。
右手には分厚いハードカバーの本、心音に対しての壁を作るように左手を伸ばしている。
「ごめんっ! 嫌だよね、これ以上近付かないから。
もしかして時恵ちゃんも何か出来るようになったの?」
ほんの一瞬浮かんだ淋しそうな表情の後に、時恵はさっと前髪で顔を隠すように俯いた。
心の声は聞こえずとも、眼鏡の奥の時恵の瞳から、何らかの不安やストレスを抱えているのが分かる。仲の良い友達……、だからこそ分かるその表情。
「そっか、もし話したくなったら電話して? 電話越しなら心の声は聞こえないみたいなんだっ」
仲が良いからこそすごく辛い。自分の超能力のせいで大好きな友達と距離を取らなければならない。
それでも心音は何でもないような振りをする。時恵に余計な気遣いをさせたくないからこそ。
何故だかは分からないが、時恵はすでに自分の超能力についてある程度の察しを付けている事に心音は気付いた。
自身が持つ超能力で、時恵の心の声を曝く事は出来る。しかし、その時点で今まで築いてきた信頼関係は崩れ去ってしまうかも知れないというリスクが伴う。
何よりも、心音は無理矢理時恵の秘密を曝くような事はしたくないと、そう思った。
心の声が聞こえるようになったが為に、今後は人と距離を取らなければならない。夢子は全く気にしていなかったが、それ以上に夢子は透との新たな展開に気を取られていたのだろう。これからはどうか分からない。
仲が良ければ良いほどに、友達と距離を取らなければならないかも知れない。
(こんな能力、いらないよ……)
超能力の発現によるデメリットに直面し1人寂しさを感じる心音。時恵が小さく頷くのを確認し、心音は時恵に背を向けて、また歩き出すのだった。
心音の後ろ姿を見送り、ふぅ……、と小さく息を吐く。
かつて共に時間を越えて力を合わせた仲間の1人。
今は仲の良い友達のうちの1人。だからこそ、心の声を読まれる事がないように距離を取らなければならない。
心音の優しさは嫌というほどに知り尽くしている。彼女のその優しさに何度助けられたか。
自分でも気付かぬ心の奥底の声を拾い上げ、励ましてくれた心音。心音が自分の事を想ってくれている事を知っているからこそ……。
立ち上がった際に倒してしまった椅子を戻し、時恵は再び席に着く。
(ごめんね、心音……)
時恵が能力を自覚したのは夜、寝入ってすぐの事だった。
時を巻き戻す力。ただし、巻き戻せる時間はたったの1日だけ。それも戻る時間の任意指定は出来ない。戻れるのは時恵がこの能力を自覚したその時間だけだ。
繰り返す時の中で、彼女は仲間を集めて共に世界の危機に立ち向かった。
仲間になった者以外の超能力者とも出会った。
超能力者達の超能力の発現のタイミングは、昨夜から今朝の明け方までの間。
それ以前から能力を有していたと話す人物に出会った事はない。
もしもあの時、あんな事にならなければ、今も繰り返す時を仲間達と共に過ごす事が出来ただろうに。
透、夢子、心音、そして……。
自分を支えて、共に繰り返してくれた仲間達は、そんな事すらなかったかのように平和な今日という日を過ごしている。
支えてくれた事、嬉しかった事、笑い合ったその笑顔。思い出さえも自分の心にしか存在しない。あんな事をした人物にさえ、辛く当たる事が出来ない。何故ならば、当の本人にその記憶がないのだから。
いや、した事実さえないのだ。記憶も事実さえも置き去りにして、自分は時を巻き戻している。
孤独だ。
虚無感に苛まれる。
苦しい。
明日を迎える事の出来ない閉塞感。
自らの意思で時を戻すけれども、それでもやらなければならない為に嫌々繰り返している。
辛い。
「はぁ……、待つ事しか出来ないなんて……」
思わず零した独り言。
小さな小さな時恵の心の叫びは、教室内に溶けていくかのように消えて行った。
この世界が明日を迎える事はない。
時恵の戦いが、終わるまでは……。
心音が夢子に連れられた屋上から自分の教室へと戻ろうとしていた道中、不穏な心の声が聞こえて来た。
心音は咄嗟にその声を漏らした人物の前に立ちはだかる。
「記代子ちゃんだ~、どうしたの? お弁当もう食べたの?」
夢子が記代子の姿を見て、焦りの表情を浮かべる。そして思わず、心で呟いてしまう。
(あ、心音だ、急いでるのに! 早く透の記憶を書き換えたいのに!)
「へぇ~、透君の記憶を書き換えるの? どうやって?」
(ヤバッ、心音も超能力者なんだ!? 考えちゃダメ、私の右手で相手のおでこに触れると記憶を書き換えられるなんて考えちゃダメ!!)
ふむふむと頷き、心音はさっと後ろに一歩下がる。
左手で自分のおでこを隠しながらスマホを操作し、夢子に繋げる。
『もしもしっ!? ちゅ、チューとかしてないんだからねっ!』
(ホントかなぁ~。でもまぁ、これで電話越しなら相手の心の声が聞こえない事は分かったから、よしとしてあげよう)
自分の能力について少しだけ理解が深まった事に満足しつつ、心音は手短に夢子へと忠告をする。
「そんな事はいいからよく聞いて。別の超能力者が透君を狙ってるから気を付けて。おでこに触れられると記憶を書き換えられる。
もしかしたらさっきの告白もなかった事にされてしまうかも知れない」
ビクッ! と目の前の記代子が跳ねるのを見つつ、夢子の返事を待たずに通話を終えた心音はスマホをポケットに仕舞い直す。
「ごめんね、やっと今日2人が両想いだって事が分かったんだ、透君達。
そっとしておいてあげたいんだよね~」
口調こそ柔らかい印象だが、心音の表情は真剣そのもの。絶対に2人の邪魔はさせないという強い意志が感じられる。
「……、分かったわ。はぁ、1回振られてるんだし。仕方ないか。
私の名前、出さないでくれてありがとう」
(今度こそきっぱりと諦めるしかないか、透は……)
トボトボと来た道を戻る記代子の背を見送り、心音も自分の教室へと足を進める。
(夢子と渡の間を取り持って、記代子ちゃんからすれば嫌なコを演じて……。時恵ちゃんはボクの心の声に耳を傾けてくれるかな?)
まだ昼休みも半ば。自分の身に起きた事、超能力の話をするだけの時間は残されている。心音は自分の教室へは戻らず、時恵がいるであろう教室へと向かって歩いて行く。
夢子と透、そして時恵の教室の前を通りかかり、開いている廊下側の窓越しにその姿を見つけた。
「時恵ちゃん、やっほ~」
心音が時恵に向かって手を振ると、時恵はガタッと勢いよく立ち上がり、まるで心音の超能力の有効範囲から出るかのように距離を取った。
右手には分厚いハードカバーの本、心音に対しての壁を作るように左手を伸ばしている。
「ごめんっ! 嫌だよね、これ以上近付かないから。
もしかして時恵ちゃんも何か出来るようになったの?」
ほんの一瞬浮かんだ淋しそうな表情の後に、時恵はさっと前髪で顔を隠すように俯いた。
心の声は聞こえずとも、眼鏡の奥の時恵の瞳から、何らかの不安やストレスを抱えているのが分かる。仲の良い友達……、だからこそ分かるその表情。
「そっか、もし話したくなったら電話して? 電話越しなら心の声は聞こえないみたいなんだっ」
仲が良いからこそすごく辛い。自分の超能力のせいで大好きな友達と距離を取らなければならない。
それでも心音は何でもないような振りをする。時恵に余計な気遣いをさせたくないからこそ。
何故だかは分からないが、時恵はすでに自分の超能力についてある程度の察しを付けている事に心音は気付いた。
自身が持つ超能力で、時恵の心の声を曝く事は出来る。しかし、その時点で今まで築いてきた信頼関係は崩れ去ってしまうかも知れないというリスクが伴う。
何よりも、心音は無理矢理時恵の秘密を曝くような事はしたくないと、そう思った。
心の声が聞こえるようになったが為に、今後は人と距離を取らなければならない。夢子は全く気にしていなかったが、それ以上に夢子は透との新たな展開に気を取られていたのだろう。これからはどうか分からない。
仲が良ければ良いほどに、友達と距離を取らなければならないかも知れない。
(こんな能力、いらないよ……)
超能力の発現によるデメリットに直面し1人寂しさを感じる心音。時恵が小さく頷くのを確認し、心音は時恵に背を向けて、また歩き出すのだった。
心音の後ろ姿を見送り、ふぅ……、と小さく息を吐く。
かつて共に時間を越えて力を合わせた仲間の1人。
今は仲の良い友達のうちの1人。だからこそ、心の声を読まれる事がないように距離を取らなければならない。
心音の優しさは嫌というほどに知り尽くしている。彼女のその優しさに何度助けられたか。
自分でも気付かぬ心の奥底の声を拾い上げ、励ましてくれた心音。心音が自分の事を想ってくれている事を知っているからこそ……。
立ち上がった際に倒してしまった椅子を戻し、時恵は再び席に着く。
(ごめんね、心音……)
時恵が能力を自覚したのは夜、寝入ってすぐの事だった。
時を巻き戻す力。ただし、巻き戻せる時間はたったの1日だけ。それも戻る時間の任意指定は出来ない。戻れるのは時恵がこの能力を自覚したその時間だけだ。
繰り返す時の中で、彼女は仲間を集めて共に世界の危機に立ち向かった。
仲間になった者以外の超能力者とも出会った。
超能力者達の超能力の発現のタイミングは、昨夜から今朝の明け方までの間。
それ以前から能力を有していたと話す人物に出会った事はない。
もしもあの時、あんな事にならなければ、今も繰り返す時を仲間達と共に過ごす事が出来ただろうに。
透、夢子、心音、そして……。
自分を支えて、共に繰り返してくれた仲間達は、そんな事すらなかったかのように平和な今日という日を過ごしている。
支えてくれた事、嬉しかった事、笑い合ったその笑顔。思い出さえも自分の心にしか存在しない。あんな事をした人物にさえ、辛く当たる事が出来ない。何故ならば、当の本人にその記憶がないのだから。
いや、した事実さえないのだ。記憶も事実さえも置き去りにして、自分は時を巻き戻している。
孤独だ。
虚無感に苛まれる。
苦しい。
明日を迎える事の出来ない閉塞感。
自らの意思で時を戻すけれども、それでもやらなければならない為に嫌々繰り返している。
辛い。
「はぁ……、待つ事しか出来ないなんて……」
思わず零した独り言。
小さな小さな時恵の心の叫びは、教室内に溶けていくかのように消えて行った。
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