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X+1回目のループ
「止まる訳ないってぇのっ!!」
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減速せずに交差点へ進入したそのオートバイは、クラクションを鳴らし続けながら赤い高級車へと向かって走る。時恵と記代子が乗る車へと吸い込まれるように迫ってくる。
時恵はバックミラーを睨み付けながら急ブレーキを踏み、シフトをバックへ入れてからアクセルをベタ踏みした。一瞬タイヤがキュルキュルと音を立てて空転した後、2人の身体を引っ張るように後ろへと急発進する。
「ああああぁぁぁぁっ!?」
記代子の声など気にもせず、その勢いのままハンドルを素早く回して車体をぐるりと回転させる時恵。引っ張られる力が遠心力へと変わる。再びドライブへとシフト、急加速。そしてそのまま革張りのシートへと記代子の身体が押さえ付けられる。
「何なのよぉぉぉっ!?」
「舌噛まないように気を付けなさいっ!!」
突然のUターンにライダーも驚いたのか、フラつきつつも何とか体勢を整えながら時恵の運転に追い縋る。クラクションを鳴らし続けながら後を追うオートバイ。
「うるっさいわねぇ……」
舌打ちししつつも、時恵はそれほど焦りやイラ立ちの表情を見せていない。ハンドルを右手だけで操作し、左手は肘掛けに置いている。
「もしかして、クラクションは制止させる目的じゃなくて仲間に位置を知らせてる為なんじゃ……」
記代子の呟きに頷いてみせる時恵。
時恵はバイクのライダーがあのフルフェイスの中で耳にBluetoothのインカムをしているのを知っている。超能力者を探索出来る能力者、イタコさんがオートバイの集団全体にグループ通話で指示を出している事を知っている。そして、イタコさんの指示が明確ではない事も把握している。
イタコさんはだいたいどちらの方向に超能力者がいる、という程度しか指示を出せない。イタコさん自身が直接赤い高級車を追跡している訳ではないから余計に指示が通りにくい。
「あっ!? 他のバイクが集まって来た!!」
左右の路地からそれぞれオートバイが合流、計4台のオートバイに追跡される状況になってしまった。奇しくも2人が乗る車は大通りへと差し掛かる。4車線のうち右折ライン以外は車がいない。
今が攻め時と判断したのか、4台のバイクはけたたましい排気音を上げながら急加速を見せる。1つ左の車線に1台、そして反対車線を逆走する形で右側に1台。時恵の運転する車を両サイドから挟み込む形。このままさらに加速して、前方へと躍り出て減速させるつもりだろう。
「どうすんの!? 前走られたら止まるしかないじゃん!!」
スピードで言えば車はオートバイには勝てない。相手が大型のリッターバイクであればなおさらである。記代子は恐怖に駆られ、両サイドからゆっくりと迫り出してくるバイクを見る事が出来ない。
またも急ブレーキを踏ませない為にか、残りの2台のバイクが車間距離をぴったりと詰めて張り付いて来る。
時恵はハンドルを両手で握り直し、ギュッと力を入れる。
「記代、あんた頭引っ込めときなさい」
「えっ……?」
「早くっ!!」
時恵の怒声に記代子が慌てて従う。飛行機が運航中に緊急事態が起こった際、キャビンアテンダントが乗客に叫ぶ身体を伏せての状態を取る記代子。
バックミラーと両サイドミラー、そして最後に進行方向を確認した時恵がタイミングを測る。
「止まれってさぁ、言われてもさぁ、止まる訳ないってぇのっ!!」
直後、左へと切られるハンドル。キャキャッ! とタイヤの滑る音を鳴らして車体が移動し、ガシャン! 左サイドから前へ躍り出ようとしていたオートバイが派手な音を立てて転倒した。
転倒しかけているオートバイから跳ぶように空中を舞い、脚から着地してそのままの勢いで走って車を追おうとするライダー。
(良かった、今回もあのライダーだった)
時恵はライダーのうちの1人が身体能力強化系の超能力者がいる事を知っていた。転倒させたとしても大きな怪我を負う事はないだろうと予想した上で車をオートバイへぶつけたのだ。
そしてその人間を超越した身体能力で車に張り付かれるという経験もしている為、車を急加速させて引き離す。いくら超能力で脚力をブーストさせたとしても、限界があるのでアクセル全開の車に追いつける訳がない。
時恵がオートバイを転倒させた事に驚いたのか、その他の3台もブレーキを掛けて減速。結果、4台のオートバイを振り切る事に成功した。
「何ナニなんなのっ!? 何したのっ!? もぉ訳分かんないよっ!!」
記代子は事態が把握出来ず混乱状態。頭を伏せたまま動けないでいる。
「とりあえずもう追いかけて来ないわ。頭上げて、後ろ見てみなさい」
時恵の声を受けて頭を上げて、そっと後ろを振り返る記代子。時恵が転倒させたオートバイの悲惨な状況を想像していたが、記代子が目にしたのは思いもかけない光景だった。
「えっ!? 何してるのあの人!!?」
黒いオープンカーの助手席から立ち上がり、バサバサとお祓いをするかのように大麻を振る巫女装束の女性。
見た目は30代くらいの綺麗な顔。しかし長い髪の毛を振り乱してまるでお祓いではなく呪いを掛けているような形相をしている為、より記代子の恐怖心を煽る。
何を言っているのかは全く聞こえないが、何かしら叫んでいる事だけは分かる。
「巫女さん!? 何か紙の付いた棒を振り回してるんだけど!!?」
「それがイタコさんよ」
「あれがっ!?」
「痛いでしょ?」
(あ、そっちなんだ……)
イタコさんを乗せたオープンカーは転倒したオートバイのせいでそれ以上進めずに停車した。そのお蔭で時恵達は難を逃れる事となった。
「振り切れたけど、もうしばらく小さめの道を通って様子を見るわ」
ふぅ……、と一息吐く。時恵はまた左手を肘掛けに置いた。
イタコさんはあくまでこちらの位置を把握出来るだけであり、行き先がバレた訳ではない。この場さえやり過ごす事が出来ればいい。探索範囲外へ出れば、後は目的地へ安全運転で向かえる。
「つ、捕まる訳にはいかないからって、何も車ごとぶつけなくても……」
衝撃的なイタコさんの姿を目にし、時恵がバイクを転倒させたという事実が霞んでしまっていた。しかし、記代子は時恵に言わずにはいられなかった。
「ちゃんと加減はしてるわ。轢かないように気を付けたし、本人もピンピンしてたわよ」
それと合わせて、時恵はエアバッグが展開しないギリギリの衝撃に留まるように加減してハンドルを切っていた。エアバッグが出てしまうと運転出来なくなるし、最悪の場合エアバッグ展開の衝撃で時恵が気を失う可能性もある。
「でもっ!!」
バッ! と顔を上げ、記代子がバックミラー越しに時恵を批難する。自分達が捕まったらどうなるか想像するよりも、時恵が起こした非日常的な行動の方が怖いと感じたのだ。
「いいでしょ? どうせ時間を戻すんだから」
(えっ…………!?)
ゴミをしっかりと捨てた事と、問答無用でオートバイを転倒させた事。2つの行動のあまりの違いに、記代子は言葉が出ない。
「時と場合によるのよ。死なないように加減はするけど、死んだとしても責任を取るつもりはないし、相手が死んだ事すらなかった事になるんだから」
時恵は振り返らない。前だけを見て車を走らせ続ける。
記代子はこれから先、自分も同じような考えに至るのだろうかと想像し、ぎゅっと手を握り締めた。
時恵はバックミラーを睨み付けながら急ブレーキを踏み、シフトをバックへ入れてからアクセルをベタ踏みした。一瞬タイヤがキュルキュルと音を立てて空転した後、2人の身体を引っ張るように後ろへと急発進する。
「ああああぁぁぁぁっ!?」
記代子の声など気にもせず、その勢いのままハンドルを素早く回して車体をぐるりと回転させる時恵。引っ張られる力が遠心力へと変わる。再びドライブへとシフト、急加速。そしてそのまま革張りのシートへと記代子の身体が押さえ付けられる。
「何なのよぉぉぉっ!?」
「舌噛まないように気を付けなさいっ!!」
突然のUターンにライダーも驚いたのか、フラつきつつも何とか体勢を整えながら時恵の運転に追い縋る。クラクションを鳴らし続けながら後を追うオートバイ。
「うるっさいわねぇ……」
舌打ちししつつも、時恵はそれほど焦りやイラ立ちの表情を見せていない。ハンドルを右手だけで操作し、左手は肘掛けに置いている。
「もしかして、クラクションは制止させる目的じゃなくて仲間に位置を知らせてる為なんじゃ……」
記代子の呟きに頷いてみせる時恵。
時恵はバイクのライダーがあのフルフェイスの中で耳にBluetoothのインカムをしているのを知っている。超能力者を探索出来る能力者、イタコさんがオートバイの集団全体にグループ通話で指示を出している事を知っている。そして、イタコさんの指示が明確ではない事も把握している。
イタコさんはだいたいどちらの方向に超能力者がいる、という程度しか指示を出せない。イタコさん自身が直接赤い高級車を追跡している訳ではないから余計に指示が通りにくい。
「あっ!? 他のバイクが集まって来た!!」
左右の路地からそれぞれオートバイが合流、計4台のオートバイに追跡される状況になってしまった。奇しくも2人が乗る車は大通りへと差し掛かる。4車線のうち右折ライン以外は車がいない。
今が攻め時と判断したのか、4台のバイクはけたたましい排気音を上げながら急加速を見せる。1つ左の車線に1台、そして反対車線を逆走する形で右側に1台。時恵の運転する車を両サイドから挟み込む形。このままさらに加速して、前方へと躍り出て減速させるつもりだろう。
「どうすんの!? 前走られたら止まるしかないじゃん!!」
スピードで言えば車はオートバイには勝てない。相手が大型のリッターバイクであればなおさらである。記代子は恐怖に駆られ、両サイドからゆっくりと迫り出してくるバイクを見る事が出来ない。
またも急ブレーキを踏ませない為にか、残りの2台のバイクが車間距離をぴったりと詰めて張り付いて来る。
時恵はハンドルを両手で握り直し、ギュッと力を入れる。
「記代、あんた頭引っ込めときなさい」
「えっ……?」
「早くっ!!」
時恵の怒声に記代子が慌てて従う。飛行機が運航中に緊急事態が起こった際、キャビンアテンダントが乗客に叫ぶ身体を伏せての状態を取る記代子。
バックミラーと両サイドミラー、そして最後に進行方向を確認した時恵がタイミングを測る。
「止まれってさぁ、言われてもさぁ、止まる訳ないってぇのっ!!」
直後、左へと切られるハンドル。キャキャッ! とタイヤの滑る音を鳴らして車体が移動し、ガシャン! 左サイドから前へ躍り出ようとしていたオートバイが派手な音を立てて転倒した。
転倒しかけているオートバイから跳ぶように空中を舞い、脚から着地してそのままの勢いで走って車を追おうとするライダー。
(良かった、今回もあのライダーだった)
時恵はライダーのうちの1人が身体能力強化系の超能力者がいる事を知っていた。転倒させたとしても大きな怪我を負う事はないだろうと予想した上で車をオートバイへぶつけたのだ。
そしてその人間を超越した身体能力で車に張り付かれるという経験もしている為、車を急加速させて引き離す。いくら超能力で脚力をブーストさせたとしても、限界があるのでアクセル全開の車に追いつける訳がない。
時恵がオートバイを転倒させた事に驚いたのか、その他の3台もブレーキを掛けて減速。結果、4台のオートバイを振り切る事に成功した。
「何ナニなんなのっ!? 何したのっ!? もぉ訳分かんないよっ!!」
記代子は事態が把握出来ず混乱状態。頭を伏せたまま動けないでいる。
「とりあえずもう追いかけて来ないわ。頭上げて、後ろ見てみなさい」
時恵の声を受けて頭を上げて、そっと後ろを振り返る記代子。時恵が転倒させたオートバイの悲惨な状況を想像していたが、記代子が目にしたのは思いもかけない光景だった。
「えっ!? 何してるのあの人!!?」
黒いオープンカーの助手席から立ち上がり、バサバサとお祓いをするかのように大麻を振る巫女装束の女性。
見た目は30代くらいの綺麗な顔。しかし長い髪の毛を振り乱してまるでお祓いではなく呪いを掛けているような形相をしている為、より記代子の恐怖心を煽る。
何を言っているのかは全く聞こえないが、何かしら叫んでいる事だけは分かる。
「巫女さん!? 何か紙の付いた棒を振り回してるんだけど!!?」
「それがイタコさんよ」
「あれがっ!?」
「痛いでしょ?」
(あ、そっちなんだ……)
イタコさんを乗せたオープンカーは転倒したオートバイのせいでそれ以上進めずに停車した。そのお蔭で時恵達は難を逃れる事となった。
「振り切れたけど、もうしばらく小さめの道を通って様子を見るわ」
ふぅ……、と一息吐く。時恵はまた左手を肘掛けに置いた。
イタコさんはあくまでこちらの位置を把握出来るだけであり、行き先がバレた訳ではない。この場さえやり過ごす事が出来ればいい。探索範囲外へ出れば、後は目的地へ安全運転で向かえる。
「つ、捕まる訳にはいかないからって、何も車ごとぶつけなくても……」
衝撃的なイタコさんの姿を目にし、時恵がバイクを転倒させたという事実が霞んでしまっていた。しかし、記代子は時恵に言わずにはいられなかった。
「ちゃんと加減はしてるわ。轢かないように気を付けたし、本人もピンピンしてたわよ」
それと合わせて、時恵はエアバッグが展開しないギリギリの衝撃に留まるように加減してハンドルを切っていた。エアバッグが出てしまうと運転出来なくなるし、最悪の場合エアバッグ展開の衝撃で時恵が気を失う可能性もある。
「でもっ!!」
バッ! と顔を上げ、記代子がバックミラー越しに時恵を批難する。自分達が捕まったらどうなるか想像するよりも、時恵が起こした非日常的な行動の方が怖いと感じたのだ。
「いいでしょ? どうせ時間を戻すんだから」
(えっ…………!?)
ゴミをしっかりと捨てた事と、問答無用でオートバイを転倒させた事。2つの行動のあまりの違いに、記代子は言葉が出ない。
「時と場合によるのよ。死なないように加減はするけど、死んだとしても責任を取るつもりはないし、相手が死んだ事すらなかった事になるんだから」
時恵は振り返らない。前だけを見て車を走らせ続ける。
記代子はこれから先、自分も同じような考えに至るのだろうかと想像し、ぎゅっと手を握り締めた。
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