四人の聖女に囲まれて身も心もボロボロです

なつのさんち

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脱走! 逃げろ聖女の里から

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 朝と昼と同じく、夕食を持ってテレスが現れた。
 どの程度テレスが俺の心を読めるのか分からないが、出来るだけ無心でいるよう努めた。
 瞼に映る光が弱くなった。日が暮れたのだろう。
 いつまで経っても起きない俺にしびれを切らしたのか、テレスはトレイをテーブルに残したまま部屋を出て行った。
 この里を脱出するつもりであると、テレスに知られているかどうか確認は出来ない。
 しかしどちらにしても俺がここから逃げたいという気持ちは変わらない。
 もしかしたらすんなり逃げられるかもしれないし、ここを脱出出来れば孤児院のあるあの街に戻り、冒険者になろう。

 夕食には手を付けず、さらに夜が更けるのを待つ。そろそろいいだろうか。
 とりあえずこの屋敷から離れ、山へは入らずに一晩を過ごそう。
 日が昇ればだいたいの方角は分かる。後は歩くだけだ。
 静かにベッドを抜け出し、ゆっくりと扉を開ける。廊下から物音は聞こえない。
 足音を立てないよう擦り足で、慎重に進んでいく。
 無事玄関に到着。鍵は掛かっていないようだ。不用心だが、俺が出て行く際に鍵を掛けようがないのだから同じ事か。
 ドアノブに手を掛け、息を止めてそっと捻る。音は鳴らなかった。
 よしっ、後は扉を押し開き、外に出る!
 玄関を開けたすぐ正面に、四人の聖女が待機していた。

「さぁ夜の鍛錬を始めようか」

「あ、結構です!」

 バタンっ、扉を閉めて裏口の方へ走る。やはりテレスに心を読まれていたか。
 でも甘いな、四人で待ち構えてるなんて。こういう可能性も考えて、心づもりしていて良かった。
 裏口の扉を開けると、そこにはマルスが待ち構えていた。
 あれ? さっき玄関でお会いしましたよね……?

「マルスの身体能力までは計算に入っていなかったようね」

「くっ、テレス! やっぱり俺の心を読んで……」

「まぁそれもあるけど、一番はププルの受けたお告げね。
 今朝からあなたが脱走するであろう事は分かっていたわ」

 神様に告げ口された!? 

「と、言う訳だから。明日も明後日もその次も、毎日私達と鍛錬しような!」

 バンッ! とマルスが俺の両肩を叩いた。明らかに骨が折れる音が聞こえた。

「はいはい、ぶちゅーっと」

 あぁ、酒臭い……。
 何が聖女だよ、何が勇者だよ、何が神様だよ!!

「俺は逃げる、ぞ……」

 ルヴァンが俺から離れた瞬間に駆け出そうとすると、それよりも早くマルスが俺の腹を殴りやがった。
 床にうずくまる俺。呼吸をするだけで胸が痛い。また骨が折れたようだ。

「諦めなさいって。今夜のところはもう鍛錬はなしにしておくけど、明日からはしっかりちゃーんと付き合ってもらうからね?」

 それは俺を毎日ボコボコにしてやるぞ、そのたびに酒臭いキスをお見舞いするぞと言っているのか?

「今日は初日だったから特に辛かったでしょうね。
 知ってる? 折れた骨って、くっ付いた後の方がより頑丈になるのよ」

 ……、だから?

「折れては治し、また折れては治しを繰り返せば、そのうち折れなくなるって事よ。
 それと慣れればそもそも避けられるようになるだろうし、反撃する余裕も出て来るはずよ?」

 それまでどれだけの時間が必要なんだ?
 ププルは神様から聞いてないのか?

「聞いているわ。半年よ。
 半年この鍛錬を続けるの。いい?半年よ」

 半年。たった一日でも死ぬほど辛かったのに、これを半年も続けろと?

「そう、半年なんてあっと言う間よ。
 それに鍛錬するのはあなただけじゃない。ププルだって、ルヴァンだってそれぞれ鍛錬してるの。
 みんなで一緒に頑張りましょう」

 みんなで、一緒に……。

「もういいかい? はい、ぶちゅーっと」

 こいつ、流れ作業のようにキスしやがって!

「ルヴァン、もうちょっとムードを大切にしてほしいってさ」

「そういう意味じゃない!!」


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