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Main story
寝落ち通話
しおりを挟む俺はテスト前だからといって日を跨いで深夜まで勉強を続けるタイプではない。
寝る時は寝る。だいたい普段からきっちり予習と復習をしておけば、必死こいて机にかじりつく必要なんてないのだ。
どうやら羽那子も美紀も俺と同じタイプらしく、ある程度の時間でみんな揃って勉強を切り上げた。
伊千香は一人慌ててもう止めるのかと喚いていたが、これはいつもの事だから別段気に掛ける必要はない。
伊千香においては十分頭に入っているはずなのに、これで大丈夫だという自信を持てない事から来る不安感と焦燥感で慌てるだけなのだ。
いざ本番になればすらすら解けるのに、直前まであわあわしているのはいつもの事だ。
「じゃ、お休みー」
いつも通り窓を開けてそこから出ていく羽那子。今さら何も言わん。
「お休みー」
しかしお前は別だ。
「羽那子の部屋に行くのはいいけど、ちゃんと玄関を通って外から行きなさい」
「でもはなちゃんはここ通ってるもん」
もん、じゃない。危ないから止めなさい。
ぶつくさ言いつつ階段を降りていく伊千香。いい子だ。
やっと一人になった。
少し前まで夜は静かに過ごしていたんだけどなぁ。
幼馴染というヤツはこんなにも騒がしいものなのか?
共鳴するように妹までもが騒がしくなり、美紀みたいなうるさい系関西人までくっ付いて来たからたまったもんではない。
先ほどまでの時間を思い出して一人ため息を吐き、パタンと横になる。リモコンで部屋の電気を消す。
もう寝る。寝るがその前にスマホを触る。
いつもチェックしているサイトを巡り、さぁそろそろ寝ようかというタイミングで着信。
「どうした?」
耳に当てるのが邪魔くさかったのでスピーカーで応答する。
『別に用事はないんやけど……、寝る前にちょっと喋りたいなて思って』
……止めろよそのドキッとする声のトーン。こっちが迷惑だって思ってないかなぁと不安がっているのとか、声が聴きたかっただけなんだけど素直に言えないよねみたいな雰囲気を匂わすかのような声量。
いや、単に俺の想像というか、妄想なのかもしれないが。
同い年の女の子と寝る前に通話とか、普通に生活してて俺が体験するとは思っていなかったからすごく緊張する。
「そうか」
そうか、くらいしか言う事なくね!? やべぇ、眠気が覚めた。
え、これって俺から話題出した方がいいのか? こういう時に頼りになる男アピールするべきなのか!?
『実はそうやねん。まさかそんな事になるとはうちも思ってへんかってんけどな』
「それは大変だな。いつ何が起こるか分からないものなんだな」
『せやろー。だから何事にも備えが大切やねんて。前からうちがうるさく言うてたやろ?』
「そうだったな。二言目には『備えよ、さらば救われん』って言って回ってたな。みんなが怪しい宗教だって警戒しても気にせず説いて回ってたな」
『ふぉふぉふぉっ。感じるな、よくよく考えよ』
何の中身もない会話。適当に話しているだけ。
だが、それだけでも楽しいし、次に何を喋るべきかなんて変な気を遣う必要もない。
そしてだんだんと眠気が増していく。
『……それでなー。えーっと、何やったけー?』
「あーすげぇ分かるわー」
目を閉じて布団に包まり、聞こえて来る声に対して返事をする。とても心地良い。
このまま眠ってしまおうとも思ったが、スマホを充電器に刺さなければならない事を思い出し、面倒だが目を開けてケーブルを探す。
『ありがとうなー』
美紀はあと少しで寝入りそうだ。いや、もう眠っている状態かもしれない。
変に声を掛けて覚醒させるのも申し訳ないので、そっと終話ボタンを押す。
『……好きやで』
そう聞こえたのは、多分俺の気のせいだと思う。
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