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お坊ちゃまと侍女
しおりを挟む陣幕から外へ出る。広い草原に吹き抜ける強風で髪の毛が激しく揺れる。
今日の為にわざわざ短めに切らせたのだが、思っていたよりも周りの反発が強くてこれ以上短くする事が出来なかった。
前世で言うところのボブカットくらいの長さだろうか。
元々は背中まで届くくらいの長さで非常に鬱陶しかった。
俺は男の娘じゃない。
本当は丸刈りにしたかったくらいだ。
それなのに侍女が言う事を聞かないから……。
「お坊ちゃま」
俺は自分の髪の毛が好きではない。
さらさらストレートなのはいい。
貴族は男女問わず髪の毛を伸ばすという風潮も、まぁいいだろう。
郷に入っては郷に従えと言うしな。
けどこの色だけは本当に嫌だ。
どうして母上の燃えるような髪色か、もしくは父上の月を思わせるような銀髪のどちらか100パーセントを受け継がなかったのだろう。
きっちり50:50の配合でキラキラピンク。
そんなのないよ!
カミソリで剃ってやろうかと思ったが、俺が持っていたカミソリを取り上げて自分の首筋に当てやがるんだもん、こいつ。
自分の命よりも俺の髪の毛の方が大事かよ。
「お坊ちゃま」
「この場でその呼び方は止めろ」
乱れた俺の髪型を直そうと、懐から櫛を出した侍女の手を払いのける。
戦場までこのような侍女を連れて来るものではないな。
甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのは屋敷の中だけで良い。
今の俺はあくまで指揮官としてこの場にいるのだ。
末端の兵士がこの光景を見れば、うちの指揮官大丈夫か、と不安に思うだろう。
父上がどうしても連れて行けと言うから連れて来たんだが、この戦いの成果で次からは不要になるだろう。
「ですがお坊ちゃま」
手櫛なら良い、という問題じゃない。
俺の髪の毛を触ろうとするな。
これから戦が始まるというのに身だしなみなんぞに気を取られている場合か。
「皆の士気に関わる、お前も分かっているはずだろう」
「あくまでも前線に立たれるおつもりですか?
後方から魔法で支援するという手もございます」
俺を見つめる金髪碧眼の少女。
表情は努めて無に近く、俺を案じている心中が少し漏れているのみ。
いや、わざと伝わるようにちょっと出しているのだろう。
感情の制御が上手い。
「もちろんだ、何を今さら。
もうすでに前線がぶつかり睨み合っている状況だぞ。
あとはどちらかの指揮官が名乗りを上げ、口上を述べるだけで戦が始まる」
「……分かりました。
ですが、もしも敗戦が濃厚であると私が判断致しましたら、速やかに後退して頂きます」
後退して頂きます、ね。
前線指揮から引き摺り下ろして馬に乗せて連れ帰ります、という意味だろう。
そんな事にはなり得ない。
この初陣で、俺は戦える男である事を証明してみせるつもりだ。
女に守られて生きていくのが当たり前。
そんなこの世界の常識を打ち破ってやる!
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