お坊ちゃまはシャウトしたい ~歌声に魔力を乗せて無双する~

なつのさんち

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お坊ちゃまと副官

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 ここは男が最前線に立って戦う世界じゃない。
 それは分かっている。
 でも、せっかく魔法があるこの世界に生まれ変わったんだ。
 この世界の魔法は転移魔法や時間を支配するような分かりやすいものではないが、自分の力を試してみたいじゃないか。
 母上の了承は得ている。
 当主であり辺境伯軍の最高責任者が良いって言ってるんだ、大丈夫大丈夫。

「若様、全部隊整列完了致しました。
 ……皆にお坊ちゃまのお声をお聞かせ下さい」

 騎乗した副官が俺を呼びに来た。
 彼女は武官だから俺の事をお坊ちゃまと呼ぶ機会などない。
 立場的には俺の副官、だが戦場での経験で言えば俺は彼女の足元にも及ばない。
 だからあえて俺の事をお坊ちゃまと呼び直したのだろう。
 普通に考えると、貴族の子供、それも十四歳のお坊ちゃまが場違いにノコノコ戦場に出て来やがって、総大将なんぞ務められるのか? と舐める意図を含めたセリフだろう。
 が、彼女から伝わる感情は違う。

 期待。
 恐らく俺の話を母上から聞いているのだろう。
 今回は俺の初陣になる。
 彼女も俺の母上が何の根拠もなく息子を最前線に立たせるような愚行を犯す訳がないと信じているはずだ。
 だから、お坊ちゃまと呼んでみせたのは煽り。
 さぁ見せてくれ、と。
 次期当主である長女ではなく、十三歳になったばかりの末娘でもなく、お坊ちゃまのアルティスラがこの場に立っている意味を見せつけてくれ、と。

 良いだろう、とくと見せてやろう。

「うむ、皆に声を掛けよう」

「では私の後ろへお乗り下さい」

 副官が俺へ向けて手を伸ばすが、丁重にお断りする。
 今から兵士達へ声を掛けるというのに、女性の後ろに乗せてもらうなんて格好悪いじゃないか。
 侍女が俺の馬を牽いて来たのでさらりと騎乗する。
 馬に乗る練習もちゃんとしたからな。
 こういうのは何事も人に見られている事を意識しなければならない。
 人に与える印象というものはとても重要だ。
 魔法の掛かり具合が変わる。

 副官の先導で陣形の前、中央へ進む。
 俺は生前の地球の戦争や陣の形にはあまり詳しくないが、辺境伯軍は横一線を幾重にも列をなしている形で待機している。
 俺が皆の前に出て行くと、兵士達が色めき立った。
 この場にいる武官達とは何度も訓練を共にしているが、大部分の兵士達とは合同で訓練した事はない。
 若様が実戦に出るんですか? 皆がそう言いたげな表情を見せる。
 この世界では武官も一般兵も、戦の主力は女性だ。
 男性は食料を運んで調理したり、鍛冶をしたりの裏方である事が多い。

 彼女達にとって、俺がこの場にいる状況は当たり前と映らない。
 不安そうな顔、訝しげな表情、そして陰口。
 今にその表情を変えてみせるさ。
 俺がこの場にいる意味を、しっかり意識に叩き込んでやる。

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