そんな裏設定知らないよ!? ~脇役だったはずの僕と悪役令嬢と~

なつのさんち

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第四章:勇者選定

37:今後の方針をどうするべきか

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 勇者として選定された翌日、おじいちゃんとお爺様は王都に向けて帰って行った。ドラゴン化したアンジェルに乗ればすぐに着くよと言うと、他国の姫君にそんな事させられないと辞退された。
 勇者として選ばれたとはいえ、僕が勇者であるという事実は当分伏せられる。それまでの間、宝珠の腕輪は再びシャルパンティエ家で保管される事となる。

 キトリーは公爵城のアンヌの部屋の隣に住む事となった。ちなみにアンジェルの部屋はアンヌの部屋を挟んだ反対隣。僕の部屋とは少しだけ離れている。婚約者とは言えど、という措置だ。
 12歳の子供に何が出来るというのかとも思うが、変に意見したりすると逆に疑われるので特に何も言わない。兄の婚約者が自分の部屋の隣にいるってのもどうかと思うけれど。
 ってか、実質3人とも僕の奥さん(?)候補な訳で、そんな事を意識し出すと公爵城が自分の家とはいえ身動きが取り辛い。そんな僕の心を知ってか知らずか、この3人はよく僕の部屋で集まる。
 僕の部屋にこの3人がいる時は、アンヌの側仕えであるイレーヌは僕の部屋の前で待機だ。入ればいいのに、「いえ、皆様でごゆるりと……」って分かっておりますみたいな顔をする。何だこれ。

「とりあえず、メルヴィング王国との国境にある魔王国の軍事施設を破壊して回ろうか。アンジェルさんに乗せてもらえば、1日で複数の塔や城を落とせると思うんだ。
 これは警告だよ、学園都市を二度も襲撃した事に対する報復でもある。力を持った人間が、ドラゴンに乗って離れた場所にある施設を次々に襲う。いつでも魔王城に攻め込めるぞという警告だね」

 女三人寄ればかしましいということわざが前世日本にあったけど、こちらでは女三人寄れば物々しい、のようだ。

「警告だね、じゃないですわ。そんな事をして向こうが本腰を入れて攻めて来たらどうするおつもりですの?
 だいたい向こうの戦力は把握出来ているのですか?」

 アンヌが冷静にキトリーを問いただす。
 イケイケドンドンな好戦的巫女ヒロインに、国の事を想う正統派ヒロインがストップを掛ける構図。
 アンヌがヒロインしているのを感慨深く見守りつつ、キトリーの案について考える。

 今さらケイオスワールドを持ち出すのもどうかとは思いつつ、仮に魔王軍がゲームと同じ戦力であれば数万の魔族や魔物が出張って来る事になる。
 さすがに数万を僕1人で相手するのは大変だと思う。無理ではないだろうけど、いつどこから来るか分からないのなら国境全体をカバーするしかない。それはさすがに無理だ。
 そう思っているところに、ワイルドカードヒロインからの提案。

「我がファフニール族をお使い下さい。数は多くありませんが、我が一族はスタニスラス様と共に魔族の侵攻を防いだ経験がございます。
 ブレスひと吹きで数百の魔族を蹴散らしたと、よく父が話しておりました」

 そうか、ハーパニエミ神国に身を置くドラゴン種ファフニール族に協力を要請する事も可能なのか。
 しかし……。

「そうなると、僕の一存では決められないな。そもそも勇者として選ばれたとはいえ、いきなり報復行動を取るのはマズイだろう。先に行動を起こしますよとおじいちゃんに、いや国王陛下にお伝えしないと。
 勇者が取る行動は、相手から見たら国が取った行動と捉えられるだろう。先に王国軍や国境周辺の貴族達に相談が必要じゃないかな」

 もちろんゲームではこんな細かい折衝や意思疎通など関係なく勇者は行動する訳だけど、僕にとってはこの世界こそが今の現実だ。僕の取る行動で各方面関係者、その他国民が犠牲になる可能性もある。

「へぇ、リューちゃんって広い視野で物事を考えられるんだね? まるで上の方から俯瞰的に世界を見ているようだよ」

 キトリーがニヤリと笑う。神秘的な雰囲気漂う美人さんなだけに、そんな事を言われると僕が転生者である事を知っているんじゃないかという不思議な感覚に陥ってしまう。
 う~ん、知られていて何か問題があるだろうか。ゲームの世界ではあるけれど、もうすでに運命シナリオとは関係ないこの世界だけの物語が進んでいる。
 ケイオスワールドの悪役令嬢は僕にとっての正統派ヒロインであり、選定の巫女は僕に言い寄って来る諜報機関の次期当主であり、シナリオの裏に隠れていたヒロインがメイドで王女で婚約者。
 そして勇者はマクシムではなく僕である。

「リュー様」

 おっと、キトリーの顔を見つめながら考え事をしてしまっていた。アンジェルが僕の顔を両手で包み、覗き込むように見つめて来る。

「アンヌ様がリュー様と呼ばれるならば、私は何とお呼びしましょうか」

 それ、今決める必要あるか?

「リュドヴィック様ですから、リュディなんてどうでしょう」

「それは止めよう! 何か色々とダメな気がする」

 見つめながら手を離さないアンジェル。心なしか目が据わっているような、怒っているような?

「アンジェル、どうした?」

「リュー様はアンヌ様への想いを告げられた際、抱き締めてキスをされました。私とはキスどころかハグすらございません。これは婚約者差別です」

「あらあら、普段は婚約者に付き従うアンジェル王女殿下も、その恋心を隠していただけなんだね」

 キトリーが何か言っているが、構わずアンジェルを抱き締める。これだけではアンヌが一人ぼっちになってしまうので、左手でアンヌを引き寄せて2人とも抱き締める。

「アンヌともアンジェルとも長い付き合いだから、婚約者として……、女性として見るのはまだまだ恥ずかしいんだ。徐々に慣れて行くと思うから、長い目で付き合ってよ」

 返事を待たずアンジェル、そしてアンヌへと口づけをする。今は子供のようなキスでいい。これからはずっと一緒なのだから。

「ボクは? ねぇボクには?」

「うちの妻達に相談しないと決められないよ」

「今決めてよ、3人とも揃ってるじゃないか!」

 赤い顔でぽーっとしているアンヌ。ニコニコと満足そうな表情のアンジェル。恋愛経験のない僕でも、今話すべきでない事くらい分かる。

「とりあえず、お友達からお願いします」





「とりあえず、お前は王太子として必要になるであろう教養を身に付けろ」

「いやいやいや、お待ち下さい! 私はそのようなお話、聞いておりませんが」

「だから今話している」


 王都、王城は謁見の間。シルヴェスト父上ルとロミリオお父様との兄上、伯父上との面会。その名もエクトル・ドゥ・メルヴィング。メルヴィング王国の王太子であらせられる。
 アンジェルに乗ってひとっ飛び、アンヌとキトリー、そしてイレーヌも含めて5人で王都を訪れ、キトリーの実家であるコンスタンタン家経由で国王陛下との謁見を望む旨伝えてもらった。キトリーの母親である女伯爵は王城で何やら会議に参加しているとの事で、お会い出来ていない。
 先触れも何も出さず突然来たので何日か待たされるかもと思っていたところ、コンスタンタン家に迎えの馬車が来たので乗った。乗ったら王城で待ってたのは王太子殿下だった。
 

「ロミリオがジュリエッタを連れて逃げたせいで俺は今ここに座っている。お前に分かるか? 弟よりも魔力量が少ないと知りつつも、次期国王として俺に接して来る周りの目。しんどい」

 えらくフランクだな、この人。

「本当ならば今頃、ロミリオがこの椅子に座っていたはずだ。そして、ジュリエッタは正妻ではないにしてもロミリオとの子供を産んだだろう。そしたらお前も生まれるはずだ。な?」

 いやいや、な? じゃないが。
 謁見の間には僕1人だけ通され、残りの4人は別室にて待機中だ。2人きりで王太子のぶっちゃけ話を聞かされ中。まぁ、フランクだから居心地は悪くないけど。

「つまり本当ならば今頃、お前は王太子の息子だったはずだ。あのヤンチャなロミリオと、お転婆なジュリエッタの三男とはいえ、王宮の教育係に掛かればそれなりに立派に育っただろう。まぁ、今も貴族子女としては立派に見えるが」

 それって何でお父様がヤンチャに育ったのか説明出来ないよね? 矛盾してるよねそれ。

「今はシルヴェストルの息子なんだろ? 国王の三男の息子として生まれて、次男の息子になって、さぁ次は長男の息子だ! どうだ、この素敵なサクセスストーリーは!!」

「どうだじゃないですよ、殿下もご子息がおられるでしょう」

 王太子殿下には確か2人の息子がいるはずだ。年齢は僕の1つ下と3つ下。

「殿下って言うな! 息子達に同じ思いをさせたくないんだよ。国とは力ある者が継ぐべきだ。
 次期公爵の予定が次期国王に変わるだけだろ? いいじゃん」

 よくないよ。

「殿下、困りますわ。我が家への客人を勝手に連れ出されるなど……」

 ツカツカとこちらへ歩いてくるのがキトリーの母上であると、遠目でもすぐに分かった。
 腰まで伸ばされたプラチナブロンドの髪の毛、神秘的な雰囲気を身に纏った妙齢の女性。コンスタンタン女伯爵だ。

「ナタリー、もうしばし待て。あと少しで説得出来るから」

「待ちませんし出来ません。このお方には国よりも大事なお仕事がございますゆえ、お連れさせて頂きますわ。
 ささ、参りましょうか、リュドヴィック様。陛下は明日ならば時間が取れるとの事ですから、本日は我が家でお泊り頂きます」

 慣れた感じで王太子殿下の話をいなして流して、ナタリーさんは僕を連れ出してくれた。別に会話は苦痛ではなかったけど、あの調子だと頷くまで諦めなさそうだったので助かった。

「また明日な~」

 やっぱフランクだわ、あのおじさん。
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