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第六章:VS魔王国
45:加護剥がしの実証実験
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謁見の間を辞して、王族のプライベートスペースへと間を移す。急ぎ魔王国へ向かう必要がない以上、しっかりと事前準備に時間を取った方がいい。
「縁の精霊、ロンの力を使って闇の精霊と魔族との間にある加護の繋がりを絶つ。これが非常に重要な役割となる訳だけど、本当にその加護を剥がす事が可能なのかどうか実証する必要がある。
そこで、リュエ達に誰かへ加護を与えてもらい、その加護をキトリーに剥がしてみてもらおうと思うんだ」
精霊シスターズに、ここにいるアンヌ、アンジェル、イレーヌ、スラルの誰かに加護を与えてもらう。そしてその加護をキトリーに剥がしてもらう。
こうも簡単に加護を与えられたり剥がされたりするのはどうかと思うが、これも魔族の為、ひいてはメルヴィング王国の安寧の為だ。犠牲になってもらおう。いや、犠牲は言い過ぎか。被検体、かな?
「ちちう……、リュドヴィック様。是非ともその任務、私に任せて頂けないでしょうか」
スラル、あれ? スラルさんの事を無意識に呼び捨てにしている自分がいる事に気付く。めちゃくちゃ年上なんだから敬意を持って接しないと。
「スラルさん、それではお願いし」
「お待ちなさい」
そう言ってリュエ、シャン、クー、エスが姿を現す。エスが加わった訳だけど、精霊が5柱も揃う状況って何気にすごいんじゃないだろうか。神話級だと思う。いや、1柱だけで十分神話級か。何せ国王であるおじいちゃんですらその姿を見たのはこの間が初めてだった訳だし。
「スラルは風の精霊たるクーの加護を受けています。これはアンジェルも同じ事。
万が一その加護まで剥がれてしまっては、ドラゴンとしての本質を失う可能性がありますわ。
これは魔族にとっても同じ事ですが、スラルと魔族では事情が違います。被検体となるのであれば、全く加護を受けた事のない者が務めるのがよろしくてよ」
そうか、アンジェルはファフニールでスラルはヴィーヴィル。2人とも生まれながらに風の精霊であるクーから加護を受けている。生まれた時から闇の精霊であるフォンセの加護を受けている魔族と同じ条件である為、被検体としては好条件なんだけど。
「そもそも私達は一度与えた加護を剥がす、取り上げるという事をした事がないのですわ。正直に申し上げて、何が起こるか分かりかねますゆえ、慎重を期すべきかと」
う~ん……、リュエがここまで言うのならば、そうする方がいいだろう。
「であれば、私をお使い下さい。何が起こるか分からないと光の精霊様が仰る以上、アンヌにそのような事をさせる訳には参りません」
イレーヌが進んで手を挙げてくれた。確かに危険かも知れないと言われた以上、アンヌにお願いするのは気が引ける。それでもイレーヌとて貴族子女、それも伯爵家の人間だ。イレーヌなら問題ない、という訳ではないだろ。
「いや、危険かも知れない以上、イレーヌにもさせる訳にはいかない。何か起こってからでは遅いからね。
だからと言って誰でもいいと言う訳ではないし……」
貴族だからダメ、平民ならいいと言うつもりはないけれど、どうしたものか。学園都市まで戻り、マクシムに事情を話して協力してもらうか? マクシムであれば事情を打ち明けるのに躊躇いはないし、万が一何か起こってもその後の全ての面倒を見るつもりだ。
「リュドヴィック様、今から信用が出来る第三者に協力を仰ぐのはやや時間が掛かりますし、事情を全て話すにしても、当の本人がどう受け止めるか。
加護を与えられるという事は、勇者の条件を満たすという事。この場におらぬ者にはその任は重過ぎます。
是非とも私にお任せ下さい」
なるほど、この国において精霊の加護は即ち勇者の条件だ。僕とキトリーはその上位条件である契約を結んでいるゆえに忘れがちだけれど、イレーヌが言う事はもっともだ。
勇者の条件を得てすぐに失う。いたずらにしていい事ではないか。
「分かった。じゃあイレーヌにお願いしようか」
はい、と頷いてから、しずしずと僕の側へ来るイレーヌ。耳元に口を寄せる。
「無事に事が終わりましたら、何卒私にもお近付きの機会をお願いしたく……」
ん?
「その……、魔王国とのいざこざが終わりましたら、どうか私を側室の1人にでも……」
イレーヌ、恐ろしい子! 被検体になるから側室にしろという取引か!?
「か、考えておくよ……」
「是非に」
こういう時だけ紅炎の魔女っぽい表情されてもなぁ!!
「さて、じゃあイレーヌへと加護を与えてもらおうか。リュエ、一応一番影響が少ないであろう精霊を選んでくれる?」
「そうですわね……、一瞬の事とはいえ影響があるかも知れませんものね。ではシャンにお願い致しますわ」
「任せろなの」
シャンがイレーヌの前へと歩み寄る。ちょいちょいと手でイレーヌへしゃがむよう伝え、耳元に口をやる。
「リューちーに取り入る為に精霊からの加護を条件にするなんて、なかなかやるの。褒めてあげるの」
ニコニコとしているシャンではあるが、その声色は小さく、そして鋭い。何か良からぬ事を企んでそうな雰囲気。ちょっと怖い。
「お褒めに与かり光栄です」
シャンが両手でイレームの頬を包む。コツンと額をくっ付けて、
「加護を与えたの」
シャンがイレーヌから離れた。さて、ここからが本番だ。
「キトリー、頼んだ」
「了解。ではロン様、参りましょう。いやいやいや、そんな事を仰らず!
えっ!? でもその……」
また念話でロンがキトリーにだけ聞こえる毒を吐いているのか。5歳児の見た目にも関わらず性格は悪いらしい。性格の悪い縁結びの神様、もとい精霊様ってすごく不安。
「キトリー、何とか頼む。この国の安寧はキトリーに掛かっていると言ってもいい」
「リューちゃん、その……」
おずおずと僕へ歩み寄るキトリー。ん? この展開覚えがあるな……。
キトリーが耳元に口をやり、
「ま、魔王国とのいざこざが終わったら……」
「分かった分かった! 分かったからちゃっちゃとやってよ!!」
ロンが言わせたな!? もう何でもいいから早くしてくれ、緊張感も何もないな!!
「じゃあ始めるね、んっ……」
イレーヌに向けて両手を掲げるキトリー。前世日本のテレビで見た、気功を放っている達人のような雰囲気。キトリーの表情に苦渋が浮かぶ。思ったようにあっさりと加護を剥がす事は出来ないようだ。
イレーヌの加護剥がしを始めて10分程経っただろうか。ふぅ、と一息吐いてキトリーが両手を下げる。
「終わったよ。イレーヌの魂からシャン様の加護を引き剥がした。
これは骨だね、1人につきこれだけの時間が掛かるのと、ボク自身の魔力、そして何より集中力が保ちそうにないね。1ヶ月あれば、と思っていたけどこれは現実的な方法ではないかも知れないねぇ」
心底疲れたような表情のキトリー。縁の精霊たるロンと契約をしてもなお、難しい作業のようだ。加護を与える際は一瞬なのに、剥がすとなると手間が掛かる。精霊がなす事と、その精霊がなしたモノを契約者とはいえ人族が剥がすからであろうか。
さて、どうしたものか……。
「簡単な話なの、リューちーに抱かれればいいの」
ん?
「そうですわね、リュー君と契りを結べば、魔力の受け渡しも出来るようになりますし、身体に触れた状態であれば魔力放出量も上がるでしょう」
ん??
「魔力保有量を上げるだけではなく、放出量も上がるからの。対象人物を複数に指定出来るじゃろうし、かなり広範囲に渡っての加護剥がしが出来るじゃろて」
ん、ん~。
「それな面倒も必要ない、魔族を皆殺しにすれば事は済むであろう」
いやいやエスよ、それは僕の夢見が悪くなるからナシで。って言ってる場合じゃない!
え~っと、僕とキトリーが身体を合わせる事によって? 魔力保有量も上がって? 放出量、つまり出力も上がっるって? またこの世界の裏設定かよっ!? 僕の身体はあれか、魔力的なブースターか何かか!!?
あ、このノリ何か久し振りだなぁ~……。
「リュー様」
ゾクッとするような冷たい声により、現実へと引き戻される。ギギギッ、という脳内擬音を感じながら、僕は首をアンヌの方へと向ける。
アンヌだけでなく、アンジェルもまた、懐疑的な目線でこちらに訴え掛けて来る。どうするの? そう問い詰めるような瞳。ひぇっ!!
「「リュー様?」」
怖いです、止めて下さいお願いします。僕のせいじゃないんです、僕が望んだ訳ではないんです……。
しかし僕の婚約者2名にしてみれば同じ事。婚約者たる私達よりも先に別な女、それも愛人で良いと言っていた者と肌を重ねるのですか?
決して僕の名前以上の言葉は発さずに、僕の出方を窺っているようだ。
「……、リューちゃん……」
申し訳なさそうなキトリー。いや、キトリーのせいでもなく、そしてもちろん僕のせいでもなく何が悪いかと言えばや闇の精霊フォンセである。
で、あるけれどもそんな論理的思考で解決する問題ではないのはよくよく分かっている。僕が逆の立場で、アンヌが魔王を打ち倒す為に人柱に選ばれたとして、僕が納得するはずがない。
ケイオスワールド、そのゲーム内でのアンヌの役割は、魔王国へと寝返った王国貴族の手によって攫われ、魔王の花嫁として差し出される事だった。
何度プレイしようが、どんなルートを選択しようがこのイベントだけは変わらず、勇者マクシムへの想いを内に秘めたまま生贄として捧げられる。魔王の懐に抱かれるその瞬間を狙い魔法の詠唱を試みるが叶わず、魔王の手によって無残に打ち捨てられる。
ケイオスワールドで一番の悲劇のヒロインであるアンヌ。僕はこの世界に転生した際に決意した。決してこのアンヌにはそのような目には合わさないと。
いや、結局はアラサー女子っぽい女魔王だったんですけどね?
「リュー様、キトリー様と契りを結ばれる前に、どうかワタクシと契りを結んで頂きたく」
「あ、アンヌ? 意味は分かって言ってる?」
「もちろんですわ、ワタクシはリュー様の婚約者にございます。夫婦になる者の営みについては、ひと通り学んでおります」
いつの間に……、全然知らなかった。でも、だ。アンヌはまだ10歳。前世日本ならばいざ知らず、この世界において10歳の子供が初潮を迎えているかどうかも分からないんだけれども。
『あら、女は受け入れる方だからさ、リュー君にさえ精通が来ていれば問題ないよ? ま、私達は当然リュー君に精通が来ている事を知っているんだけどさ~』
うん、お前らちょっと黙ってろ。
「リュー様、私も婚約者としてお願い致します。アンヌ様の次で結構ですので、契りを」
アンジェル、お前もか。
「必要に迫られての情交をなさる前に、どうか愛する者との営みをお済ませ頂きたく存じます」
「愛する者との……? ボクの事を愛してくれればいいんじゃないかな?」
キトリー、ちょっと待っててくれないかな? 話をややこしくしないでくれたまえ。
「ワタクシとアンジェルお姉さまはリュー様の婚約者。妾は立場を弁えなさい」
アンヌぅ~!! これ以上掻き回すのはヤメよ? ね、ヤメよ!? こんな時にだけ悪役令嬢っぽい事言う必要ないから!! アンヌはもう十分正統派ヒロインだから!!!!
『お兄ちゃん、こうなったら3人纏めて愛してやるぜぇ! って言ってあげればいいじゃん☆』
『爆発』
「分かった分かった!!! アンヌが1番でアンジェルは2番! キトリーは後日!! 以上解散!!!」
「縁の精霊、ロンの力を使って闇の精霊と魔族との間にある加護の繋がりを絶つ。これが非常に重要な役割となる訳だけど、本当にその加護を剥がす事が可能なのかどうか実証する必要がある。
そこで、リュエ達に誰かへ加護を与えてもらい、その加護をキトリーに剥がしてみてもらおうと思うんだ」
精霊シスターズに、ここにいるアンヌ、アンジェル、イレーヌ、スラルの誰かに加護を与えてもらう。そしてその加護をキトリーに剥がしてもらう。
こうも簡単に加護を与えられたり剥がされたりするのはどうかと思うが、これも魔族の為、ひいてはメルヴィング王国の安寧の為だ。犠牲になってもらおう。いや、犠牲は言い過ぎか。被検体、かな?
「ちちう……、リュドヴィック様。是非ともその任務、私に任せて頂けないでしょうか」
スラル、あれ? スラルさんの事を無意識に呼び捨てにしている自分がいる事に気付く。めちゃくちゃ年上なんだから敬意を持って接しないと。
「スラルさん、それではお願いし」
「お待ちなさい」
そう言ってリュエ、シャン、クー、エスが姿を現す。エスが加わった訳だけど、精霊が5柱も揃う状況って何気にすごいんじゃないだろうか。神話級だと思う。いや、1柱だけで十分神話級か。何せ国王であるおじいちゃんですらその姿を見たのはこの間が初めてだった訳だし。
「スラルは風の精霊たるクーの加護を受けています。これはアンジェルも同じ事。
万が一その加護まで剥がれてしまっては、ドラゴンとしての本質を失う可能性がありますわ。
これは魔族にとっても同じ事ですが、スラルと魔族では事情が違います。被検体となるのであれば、全く加護を受けた事のない者が務めるのがよろしくてよ」
そうか、アンジェルはファフニールでスラルはヴィーヴィル。2人とも生まれながらに風の精霊であるクーから加護を受けている。生まれた時から闇の精霊であるフォンセの加護を受けている魔族と同じ条件である為、被検体としては好条件なんだけど。
「そもそも私達は一度与えた加護を剥がす、取り上げるという事をした事がないのですわ。正直に申し上げて、何が起こるか分かりかねますゆえ、慎重を期すべきかと」
う~ん……、リュエがここまで言うのならば、そうする方がいいだろう。
「であれば、私をお使い下さい。何が起こるか分からないと光の精霊様が仰る以上、アンヌにそのような事をさせる訳には参りません」
イレーヌが進んで手を挙げてくれた。確かに危険かも知れないと言われた以上、アンヌにお願いするのは気が引ける。それでもイレーヌとて貴族子女、それも伯爵家の人間だ。イレーヌなら問題ない、という訳ではないだろ。
「いや、危険かも知れない以上、イレーヌにもさせる訳にはいかない。何か起こってからでは遅いからね。
だからと言って誰でもいいと言う訳ではないし……」
貴族だからダメ、平民ならいいと言うつもりはないけれど、どうしたものか。学園都市まで戻り、マクシムに事情を話して協力してもらうか? マクシムであれば事情を打ち明けるのに躊躇いはないし、万が一何か起こってもその後の全ての面倒を見るつもりだ。
「リュドヴィック様、今から信用が出来る第三者に協力を仰ぐのはやや時間が掛かりますし、事情を全て話すにしても、当の本人がどう受け止めるか。
加護を与えられるという事は、勇者の条件を満たすという事。この場におらぬ者にはその任は重過ぎます。
是非とも私にお任せ下さい」
なるほど、この国において精霊の加護は即ち勇者の条件だ。僕とキトリーはその上位条件である契約を結んでいるゆえに忘れがちだけれど、イレーヌが言う事はもっともだ。
勇者の条件を得てすぐに失う。いたずらにしていい事ではないか。
「分かった。じゃあイレーヌにお願いしようか」
はい、と頷いてから、しずしずと僕の側へ来るイレーヌ。耳元に口を寄せる。
「無事に事が終わりましたら、何卒私にもお近付きの機会をお願いしたく……」
ん?
「その……、魔王国とのいざこざが終わりましたら、どうか私を側室の1人にでも……」
イレーヌ、恐ろしい子! 被検体になるから側室にしろという取引か!?
「か、考えておくよ……」
「是非に」
こういう時だけ紅炎の魔女っぽい表情されてもなぁ!!
「さて、じゃあイレーヌへと加護を与えてもらおうか。リュエ、一応一番影響が少ないであろう精霊を選んでくれる?」
「そうですわね……、一瞬の事とはいえ影響があるかも知れませんものね。ではシャンにお願い致しますわ」
「任せろなの」
シャンがイレーヌの前へと歩み寄る。ちょいちょいと手でイレーヌへしゃがむよう伝え、耳元に口をやる。
「リューちーに取り入る為に精霊からの加護を条件にするなんて、なかなかやるの。褒めてあげるの」
ニコニコとしているシャンではあるが、その声色は小さく、そして鋭い。何か良からぬ事を企んでそうな雰囲気。ちょっと怖い。
「お褒めに与かり光栄です」
シャンが両手でイレームの頬を包む。コツンと額をくっ付けて、
「加護を与えたの」
シャンがイレーヌから離れた。さて、ここからが本番だ。
「キトリー、頼んだ」
「了解。ではロン様、参りましょう。いやいやいや、そんな事を仰らず!
えっ!? でもその……」
また念話でロンがキトリーにだけ聞こえる毒を吐いているのか。5歳児の見た目にも関わらず性格は悪いらしい。性格の悪い縁結びの神様、もとい精霊様ってすごく不安。
「キトリー、何とか頼む。この国の安寧はキトリーに掛かっていると言ってもいい」
「リューちゃん、その……」
おずおずと僕へ歩み寄るキトリー。ん? この展開覚えがあるな……。
キトリーが耳元に口をやり、
「ま、魔王国とのいざこざが終わったら……」
「分かった分かった! 分かったからちゃっちゃとやってよ!!」
ロンが言わせたな!? もう何でもいいから早くしてくれ、緊張感も何もないな!!
「じゃあ始めるね、んっ……」
イレーヌに向けて両手を掲げるキトリー。前世日本のテレビで見た、気功を放っている達人のような雰囲気。キトリーの表情に苦渋が浮かぶ。思ったようにあっさりと加護を剥がす事は出来ないようだ。
イレーヌの加護剥がしを始めて10分程経っただろうか。ふぅ、と一息吐いてキトリーが両手を下げる。
「終わったよ。イレーヌの魂からシャン様の加護を引き剥がした。
これは骨だね、1人につきこれだけの時間が掛かるのと、ボク自身の魔力、そして何より集中力が保ちそうにないね。1ヶ月あれば、と思っていたけどこれは現実的な方法ではないかも知れないねぇ」
心底疲れたような表情のキトリー。縁の精霊たるロンと契約をしてもなお、難しい作業のようだ。加護を与える際は一瞬なのに、剥がすとなると手間が掛かる。精霊がなす事と、その精霊がなしたモノを契約者とはいえ人族が剥がすからであろうか。
さて、どうしたものか……。
「簡単な話なの、リューちーに抱かれればいいの」
ん?
「そうですわね、リュー君と契りを結べば、魔力の受け渡しも出来るようになりますし、身体に触れた状態であれば魔力放出量も上がるでしょう」
ん??
「魔力保有量を上げるだけではなく、放出量も上がるからの。対象人物を複数に指定出来るじゃろうし、かなり広範囲に渡っての加護剥がしが出来るじゃろて」
ん、ん~。
「それな面倒も必要ない、魔族を皆殺しにすれば事は済むであろう」
いやいやエスよ、それは僕の夢見が悪くなるからナシで。って言ってる場合じゃない!
え~っと、僕とキトリーが身体を合わせる事によって? 魔力保有量も上がって? 放出量、つまり出力も上がっるって? またこの世界の裏設定かよっ!? 僕の身体はあれか、魔力的なブースターか何かか!!?
あ、このノリ何か久し振りだなぁ~……。
「リュー様」
ゾクッとするような冷たい声により、現実へと引き戻される。ギギギッ、という脳内擬音を感じながら、僕は首をアンヌの方へと向ける。
アンヌだけでなく、アンジェルもまた、懐疑的な目線でこちらに訴え掛けて来る。どうするの? そう問い詰めるような瞳。ひぇっ!!
「「リュー様?」」
怖いです、止めて下さいお願いします。僕のせいじゃないんです、僕が望んだ訳ではないんです……。
しかし僕の婚約者2名にしてみれば同じ事。婚約者たる私達よりも先に別な女、それも愛人で良いと言っていた者と肌を重ねるのですか?
決して僕の名前以上の言葉は発さずに、僕の出方を窺っているようだ。
「……、リューちゃん……」
申し訳なさそうなキトリー。いや、キトリーのせいでもなく、そしてもちろん僕のせいでもなく何が悪いかと言えばや闇の精霊フォンセである。
で、あるけれどもそんな論理的思考で解決する問題ではないのはよくよく分かっている。僕が逆の立場で、アンヌが魔王を打ち倒す為に人柱に選ばれたとして、僕が納得するはずがない。
ケイオスワールド、そのゲーム内でのアンヌの役割は、魔王国へと寝返った王国貴族の手によって攫われ、魔王の花嫁として差し出される事だった。
何度プレイしようが、どんなルートを選択しようがこのイベントだけは変わらず、勇者マクシムへの想いを内に秘めたまま生贄として捧げられる。魔王の懐に抱かれるその瞬間を狙い魔法の詠唱を試みるが叶わず、魔王の手によって無残に打ち捨てられる。
ケイオスワールドで一番の悲劇のヒロインであるアンヌ。僕はこの世界に転生した際に決意した。決してこのアンヌにはそのような目には合わさないと。
いや、結局はアラサー女子っぽい女魔王だったんですけどね?
「リュー様、キトリー様と契りを結ばれる前に、どうかワタクシと契りを結んで頂きたく」
「あ、アンヌ? 意味は分かって言ってる?」
「もちろんですわ、ワタクシはリュー様の婚約者にございます。夫婦になる者の営みについては、ひと通り学んでおります」
いつの間に……、全然知らなかった。でも、だ。アンヌはまだ10歳。前世日本ならばいざ知らず、この世界において10歳の子供が初潮を迎えているかどうかも分からないんだけれども。
『あら、女は受け入れる方だからさ、リュー君にさえ精通が来ていれば問題ないよ? ま、私達は当然リュー君に精通が来ている事を知っているんだけどさ~』
うん、お前らちょっと黙ってろ。
「リュー様、私も婚約者としてお願い致します。アンヌ様の次で結構ですので、契りを」
アンジェル、お前もか。
「必要に迫られての情交をなさる前に、どうか愛する者との営みをお済ませ頂きたく存じます」
「愛する者との……? ボクの事を愛してくれればいいんじゃないかな?」
キトリー、ちょっと待っててくれないかな? 話をややこしくしないでくれたまえ。
「ワタクシとアンジェルお姉さまはリュー様の婚約者。妾は立場を弁えなさい」
アンヌぅ~!! これ以上掻き回すのはヤメよ? ね、ヤメよ!? こんな時にだけ悪役令嬢っぽい事言う必要ないから!! アンヌはもう十分正統派ヒロインだから!!!!
『お兄ちゃん、こうなったら3人纏めて愛してやるぜぇ! って言ってあげればいいじゃん☆』
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