そんな裏設定知らないよ!? ~脇役だったはずの僕と悪役令嬢と~

なつのさんち

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第六章:VS魔王国

48:魔族解放

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 さて、ここは魔王国は魔王城。勇者たる僕ことリュドヴィック・ドゥ・トルアゲデスであるが、魔王城を取り囲むように集まった魔族に頭を下げられている状況。
 当然総力戦を挑まれている訳ではなく、彼ら魔族に掛けられている闇の精霊からの加護、というか呪いを解除する為にここにいる。
 もっとも、実際に解除をするのは僕ではなくキトリーなんだけど。

 続々と集まって来る魔族を目にし、キトリーが全体を見渡せる方が呪いを解除する際にイメージがしやすいと言った為、魔王城の中庭に土魔法を使って地面をせり上げ、今は集まった魔族全員を見下ろす位置にいる。
 魔王であるディアーブルも、自身の姿を見せる事で皆を安心させられるから、と申し出て、現在せり上がった特設ステージには僕とキトリーとディアーブルの3人がいる。
 魔王の姿を見た魔族がざわざわし出した。あ、ディアーブルの呪いを先に解除した為、今は至って普通の人族の外見なんだった。

「皆の者、我の姿を見よ! 皆に先達って我の身体より呪いを解除して頂いた! もはや魔族であって魔族ではない!!
 皆も今からメルヴィング王国より遣わされた勇者殿らのお力により、闇の精霊よりもたらされた加護を解除して頂く。我と同じように人族の身へと戻るであろう。
 この国の歴史は古く、元はメルヴィング王国の伯爵領であった事を知る者もいるかと思う。此度の呪い解除が無事に終わり次第、我はメルヴィング王国へ領土を返還し、魔王の座を辞する事をここに宣言する。
 異論のある者は前へ出よ!」

 シーンと静まり変える魔王城とその周辺。
 いやいや、ってかまだあったの裏設定。魔王国が元々はメルヴィング王国の領土だったって? 聞いてませんよ。
 で? その何とか伯爵が治めていた頃に闇の精霊がやって来て、加護を与えた結果魔族が生まれたって事?
 ふ~ん、もう何も言わない。

「お待たせ致しました、ご主人様。後はよろしくお願い致します」

 ご主人様呼びは止めて、お願いします。

「ボクは何て呼ぼっかな~、アナタ?」

 止めて……。



 せり上げた特設ステージにて、解呪の儀を行う。キトリーを背中からギュッと抱き締め、魔力のブーストを掛ける為に身体を密着させる。その後ろから僕とキトリーを覆うようにディアーブルが抱き締めて来る。
 これって必要か?

「万が一、急進派の残党がいないとも限りませんので」

 あっそう。まぁいいけど。頭の後ろの感触がとても心地良い。

『…………………………』

 え、アンジェル特設ステージの真下にいるよね、その位置から見える!? 見えないよね!!?

「始めるよ」

 うん、始めようそうしよう。

「魔王さんの時は一瞬で終わっちゃったけど、これだけの人数だからどれくらい掛かるか分からないからね、力も始めから強めで行くよ。リューちゃんもその事を意識してね」

「分かった、最大出力で行こう」

 ブォン、と音がして、特設ステージを中心に薄緑の膜のような物が広がって行く。膜の内部は特に変わった空間という事もなく、キトリーの術の範囲内なんだろうな、と思う程度。その膜が見えなくなるくらい遠くまで広がった。
 と、至る所で角が地面に落ちる音と、それに驚いた声が次々に聞こえる。順調のようだ。

「この調子でどんどん行くけど、やっぱり一瞬で終わるって事はなさそう。もうしばらくお願いね」

「了解、喋る余裕があるんだな」

「そうだね、今も解除自体は続いてるよ。リューちゃんはもう気を抜いてくれても大丈夫かな。あ、離れたらダメだよ?」

 そうか、後はキトリーに頑張ってもらうとして。

「ディアーブル、元々ここがメルヴィング王国の伯爵領だったって最初から知ってたのか?」

「ええ、代々魔王から魔王へと口伝で受け継がれているものです。いつかメルヴィング王国を滅ぼし、逆に併呑へいどんしてしまおうと野心を募らせる者もおれば、私のように闇の精霊から逃れて王国へ返還したいと願う者もおりました。
 どちらにしても、これで魔王国の歴史は終わります。次々に人族の姿に戻って行く同胞を目にする事が出来、感無量でございます」

 あ~、それで急進派と穏健派に分かれていたのかな。立場上言えなかったにしても、僕に教えて欲しかったな。おじいちゃん、もとい国王陛下は知ってるんだろうか。……、知ってそうだな。それも国王に口伝で受け継がれてそうだ。
 これを知ったからには次の国王はお前だっ!! なんてならないだろうか……。
 あっ、おじさん、もとい王太子殿下には僕が知ったって秘密にしておかないと。




 それから数時間後、見渡す限りの魔族が人族の姿へ変化した。まさか1日で終わるとは思わなかったけれど、何とかなるもんだ。
 皆が特設ステージに向けて感謝の祈りのようなものを捧げている。ディアーブルを使って止めさせ、それぞれの家へと戻るよう指示を出す。パレードなんか望んでないからね。それに、これからが本番だ。

 闇の精霊フォンセ、そして僕の前々世らしいスタニスラス。この2人との最終決戦が待っている。



 魔王城玉座の間。フォンセとスタニスラスが封印されている空間は異空間へと飛ばされているので視認出来ない。こう、空間を歪ませて、さらに落とし込み潜らせて捩じっているらしい(エスによる説明)ので、目には見えない真っ暗な場所が墓標のあった場所だ。
 その真っ暗な場所をエスの手で解除してもらい、墓標を再び呼び戻す。相変わらず妖しく光っている石柱が姿を現す。光、大地、風の力によって封印されているこの石柱を解放する。
 サァーッと石柱が砂へと変わって、サラサラと床に崩れ落ちて行く。その中心に、フォンセをお姫様抱っこしたスタニスラスがいた。

「よくも我らをよく分からない場所へ飛ばしてくれましたね! もう滅茶苦茶怖かったんですからねっ!!」

 あれ? フォンセってこんな口調だったっけ? よく見れば目に涙を溜めている。本当に怖かったみたいだ。精霊でも怖くて泣くとかあるんだな。

『リュー様、命の精霊様より加護を受けた私の力を使って、スタニスラス様に残された魂の欠片をリュー様へとお戻しします。
 ですので、キトリー様の時のように私を後ろから抱き締めて頂けませんでしょうか』

 そうか、アンジェルにも僕のブーストが有効であると。何にしても試してみよう。
 スタニスラスは自ら何かするでもない様子だし、自我もないんじゃないだろうかと疑っている。フォンセ専用のアンドロイド、いや人形のような雰囲気。あれが本当に僕の前々世なのだとしたら、とても気分が悪い。いい加減返してもらおう。
 アンジェルの後ろに回って、抱き締めてっと。抱き締めると言っても背丈が違うから、アンジェルの背中に顔をうずめるような恰好だ。ただ単に甘えているようにしか見えないだろうな。

「突然イチャ付くんじゃないわよ! こっちはずっと何も見えない場所に閉じ込められてたんだからね!! とっても暗かったんだから、ちょっとくらい謝ってもいいんじゃないかしら!!!」

 闇の精霊でしょ? 何も見えないからって怖いもんなの? それって闇を司る精霊としてどうなの?

「ちょっ、何したの? ねぇ何したのよっ!?」

 うるさいなぁ、何だって言うんだよ。

「リュー様、お手を離して頂いて、私の前へと回って来てもらえませんか?」

 え? ブーストはもういいんだろうか。アンジェルのお腹に置いていた手を離し、前に回り込んで向かい合う。アンジェルが何かを大事そうに両手で包んでいる。眩しいくらいの光がその両手から漏れて見える。

「では、リュー様へとお返し致します」

 その両手を、そっと僕の胸へと押し当てて来た。スッと何かが身体に沁み込んで来る感覚。暖かい、懐かしいような感覚。血管を通じて全身に沁み渡り、馴染んで行くのが分かる。
 あぁ、これはスタニスラスに残されていた魂の欠片か。馴染んで行くと共に、スタニスラスの記憶が少しだけ、ほんの少しだけ呼び起される。


 リュエ、シャン、クー、3柱が取り囲む中での何かの儀式。俺は、スタニスラスは真ん中で座っている。
 何故かフォンセはいない。
 いや、いないのではなくスタニスラスの身体の中に隠れている。しかし精霊シスターズは気付いていない様子。いや、気にしていないのか? どちらなのかは分からない。
 スタニスラスの身体が光り、胸から眩い何かが飛び出した。突如現れた新たな精霊がその何かを大事そうに抱えている。
 あれは命の精霊か? 他の精霊達とは違ってかなりの歳取ってるんだな。おばあちゃんじゃない?
 あ、めっちゃ睨まれた。え、これってリアルタイムの出来事じゃないよね?
 こちらを睨みつつ光る何か、恐らく魂にふぅ~っと息を吹き掛ける命の精霊。すぅ~っと魂が霧散して行く。
 あ、あれが俺の前世、日本に転生する事になる魂な訳か。
 そしてスタニスラスの目で見ているのが、残された魂の欠片であると。
 さっき睨んだよな? こっちに魂が残ってんの、気付いてんじゃん。
 もしかして、魂を残したのってわざとか?
 魂が霧散すると当時に、スタニスラスの身体がバタリと床へ倒れた。

「フハハハハ、これでスタニスラスの身体は我の物! なっ、何!? 身体が自由に動かせん!!」

 あ~、フォンセに乗っ取られるのを防ぐ為に残しておいたと。
 で、スタニスラスの身体ごと石柱に入れて、封印しましょうと。
 お? スタニスラスの記憶が徐々に思い出せるようになって来た。
 スタニスラスもこの封印には同意していた、と。
 レティシア、グレル様、アンジェル、スラル、大切な人達との記憶が少しだけ、ほんの少しだけ戻って来た。
 そして、この後どうすればいいのかも。


 魂が身体に馴染むのを待ち、目を開ける。アンジェルの少し心配そうにしている顔に対して微笑み、大丈夫だと安心させる。髪の毛をワシャワシャと撫でる。
 振り向くと、そこにはスタニスラスの姿はなく、床に尻もちを付いた状態のフォンセのみ。あの、見えてるけど大丈夫か? 闇の精霊なのに明るい色が好みなんだな。


「す、スタニスラスの身体が灰になるとは……、あの者の身体が使えんとなると、お前の身体を貰うしかあるまい!!」

 フォンセがふわりと浮いて俺の身体へ憑り付こうとするが、見えない壁に阻まれて進めない。

「な、何をした!?」

 何って、空間を切り離しただけだが。俺がエスと契約しているのを知ってるだろうに。

「さて、フォンセ。お前には3つの選択肢をやろう。
 1つ、消えて無くなる。
 1つ、異空間へ永遠と封印される。
 1つ、俺の従位契約者として従属する。
 さぁ、どれか1つ選べ」

「馬鹿な! 闇を司る我がいなくなれば、この世から闇がなくなるぞ!!」

「フォンセがいなくなれば、次の闇を司る精霊を用意してやればいい。お前でなければならぬ理由はないな」

「くっ……」

 殺せとは言わないんだな。フォンセはチラチラとリュエ達精霊シスターズの様子を窺っている。精霊同士で何かやり取りしているんだろうか。
 やり取りが終わったらしい、フォンセが俺の前で跪いた。

「……、リュドヴィック様に服従致します」

 そう言って俺の足元に顔をやるが、ストップストップ。そんな趣味はない。
 結局、俺の右手の甲へとキスをさせる事で契約が成立。俺が上位でフォンセは従位。闇の精霊を使役する立場になった。
 これで精霊シスターズが5柱に。契約者以外には見えなく出来るとはいえ、俺の目には常に見えている訳で。絶えずウロウロされるのも気になるもんだ。まぁいいか、慣れるしかなさそうだ。


「リューちゃん……、その……」

「何だキトリー、はっきり言ってくれないと分からん」

「えっとね、その……、リューちゃんの雰囲気がちょっと変わって、自分の事を僕から俺って言い方に変わってるからさ、人格が変わっちゃったのかなって心配だったんだ」

 あ、そう言えば俺に変わってるな、意識してないから分からんかった。

「キトリー様、大丈夫です。リュー様はあくまでリュドヴィック様です。魂が完全体になったとはいえ、スタニスラス様になった訳ではないのですよ」

 そうだな、俺はあくまでリュドヴィックであり、スタニスラスである訳ではない。日本での記憶もあるし、スタニスラスとしての記憶もある。まぁスタニスラスの記憶が完全ではないんだが、そこまで気にする必要はあるまい。
 ただ、少ないながらも残っているスタニスラスの記憶が、さらに俺の身に起こっていた謎に気付かせる。


 ケイオスワールドとは一体何だったのか、と。
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