内島ナイトと孤島の館 ※七日間生き残れ※

8ツーらO太!

文字の大きさ
3 / 61
第一章 日曜日

1

 丸二日の船旅が、ようやく終わりを告げる。その豪華絢爛さに不釣り合いな若者たちを乗せた客船は、目的地〝灰島〟の船着場に、今まさに船体を沿わせようとしていた。

 オレはデッキの手摺から身を乗り出すようにして島を眺める。島の南東に突き出た船着場の辺りから島全体を見渡すと、まず北側の最奥にそびえる火山に目を奪われる。そこから徐々に目線を下げていくと次に見えるのは深緑の木々が茂る裾野、その手前には丈の短い草地が広がり、最後にそこから繋がるように海へ伸びる銀色の砂浜。

「なんか、〝アドベンチャー〟って感じだ」

 驚きと期待に駆られて呟くと、半歩後ろに立っていた幼馴染が隣に並び、海風に横からかき混ぜられるさらさらの金髪を抑えながら笑った。

「無人(ないと)が好きそうな雰囲気だよね」

「ハワイと魔界がくっついたみたいな島だな」

「なにその例え」

 幼馴染はこちらにちらりと楽しげな視線を寄越し、手摺に両腕を乗せて躰をもたせ掛ける。小さく漏れた吐息は憂いを帯びていた。オレはその原因を知っている。

 島を見つめながら彼――木塚伊織(きづかいおり)は足元の海に落っこちそうなほど力無い声で、

「幸一(こういち)の傷が癒えればいいな」

「またそれかよ。お前が悩んでても仕方ないだろ」

「それはそうだけど。この旅行の初めから、僕にはどうも幸一が無理して笑ってるように見えて」

「なら無理に笑わせとけって。あいつが『来る』って言ったんだ。オレたちが無理強いしたわけじゃない。それに失恋っていっても、一か月も前の話だろ」

 話題の当人がデッキに上がってこないか、入り口の方に聞き耳を立てながらオレは早口で言い切った。伊織は非難がましくじっとりとこちらを見つめ、また溜息を零す。

「まぁ、無人はそう言うよね」

「伊織が気を使いすぎなんだ。湿っぽくしてるよりいっそ、この一週間で幸一に彼女つくらせる勢いでいこうぜ」

 横目にこっそり伊織を見ると、彼は半ば賛成とばかりに緩く笑みを浮かべていた。その様子にほっとする。

 一か月前、幸一は、オレと伊織の幼馴染である翼葉理絵(よくばりえ)――認めたくないが、なかなかの美女だ――に告白し、振られた。それは確かに気の毒なことである。だが、今回の旅は彼の傷心旅行ではない。しんみりと京都の寺でも巡るのならいざしらず、自分たちはこの南国の島に、バカンスに来たのだ。だというのにどうにも、今一つノリが足りない。この旅行、自分たちにとってまたと無い幸運だというのに。

 大学生の身分ではおよそ手の出ない、豪華すぎるプランである。この灰島の所有者が大学生を対象として一組三名、四組限定の無料招待プランを発表したのは三か月前のこと。発表と言ってもマイナーな旅行サイトに載っていただけなのだが、応募者は数千人という話だった。その中から選ばれた一組として、今オレたちは、この下ろしたてのブランドTシャツが、それでも恥ずかしくなるくらいの高級旅客船の上に立っている。

「無人、桟橋に階段が下りたよ。そろそろ荷物を持って準備しないと」

「そうだな……なぁ、別に心配じゃないけどさ、幸一のやつ一度もデッキに上がってこないな」

「幸一ならきっとまだ荷物をまとめてる」

「なにをそんなに持ってきたんだ」

「考え事しながらだと、手が止まっちゃうものだよ。僕たちも戻ろう」

 言うなり歩いてゆく伊織の白いポロシャツの背を追う。金髪の中で陽光が乱反射している。木の板に艶やかなニスを塗ったデッキの照り返しも、いよいよ目に痛い。海鳥が高く鳴きながら頭上を過ぎてゆく。

 そういえば、

「建物……」

 オレはもう一度島を振り返った。島中に視線を這わせる。建物が一切見当たらない。宿泊場所はどこだろうか。事前に聞いていた話では、島の所有者が建てた〝館〟なのだという。

 きっとあの鬱蒼とした裾野に埋もれているのだろう、と結論づける。ここから見られないのは残念であった。ハワイと魔界のくっついた島に館なんぞ建っていればさぞ異質で面白いコントラストだったろうに。

「あ、幸一。見てごらんよ、すごいから」

 ふと背後に明るい伊織の声が響く。振り向くと、デッキの入り口の前に軽井(かるい)幸一が立っており、伊織の示す前方の島に、目を丸くしていた。

 ここ一カ月でやつれた長身は、吹きつける海風によろけ、やけに不健康に見えた。ツーブロックの上の部分だけ茶色に染めた短髪が、ばさばさと煽られて鳥の巣のように跳ねている。なんとなく漂う哀愁はあれど、振られた直後ほどの悲壮感は窺えない。開いてしまった穴は、今日からのバカンスで埋めればいい。

 自分を鼓舞するかのような鮮やかなオレンジ色のアロハシャツを着た幸一に歩み寄り、オレはその両肩をぐっと掴んだ。

「よし、行くぞ幸一」

「なんだよ、いきなり」

「一週間楽しもうぜ」

 伊織が寄ってきて、幸一の肩を掴むオレの手に片手を添えた。

「そうだね。僕もわくわくしてきた」

「ダイビングは絶対だぞ。あと、ウェイクボード」

「魚釣りもできるんだよね?」

「釣ったやつでバーベキューだな」

「ね、幸一はなにがしたい?」

 伊織と二人して捲し立てると、幸一は一瞬ふっと表情を和らげて、それを隠すように俯きがちにオレと伊織の背に腕を回した。

「男ならまずは水泳で勝負だろ。オレが当て馬じゃなくてイルカだってことをお前らに教えてやるよ」
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
鍛えられた肉体、高潔な魂―― それは選ばれし“供物”の条件。 山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。 見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。 誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。 心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。