内島ナイトと孤島の館 ※七日間生き残れ※

8ツーらO太!

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第一章 日曜日

3

 客室階である地下二階。ここは階の中央を、地下三階へ続く巨大階段が横切っており、六つの客室を南北に二分している。

 客室はそれぞれ完全に独立しており、隣り合う客室間を細い廊下が隔てている。これはイズミによれば、かつて――一世紀近く前――の名残りなのだそうだ。

 また、各部屋はそれぞれ入り口の場所も異なれば、内装も異なる。こちらは、現在の館の主人の趣向だという。

 オレたちには南側の三部屋が与えられた。北側の部屋は、西から里来、東郷、杏子がそれぞれ使用しているらしい。話し合いの結果、部屋割りは、西からオレ、伊織、幸一となった。

 オレたちは三十分後に廊下で落ち合うこととし、それぞれ分かれた。

 伊織の部屋との間の廊下、その最も手前寄りにオレの部屋の入り口はある。イズミから受け取った鍵で扉を開け、中へ足を踏み入れる。廊下からの明かりを頼りに照明スイッチを押すと、たちまちシャンデリアが室内を暖色に照らし出す。

 扉の鍵は両面シリンダーになっていた。内側からも鍵が無いと開けられない構造である。客室にしては珍しいと思いつつ内側から施錠し、照明スイッチの下に見えたキーフックに鍵を掛けた。

 窓が一切無いというのに、不思議と息苦しさは感じなかった。白いシーツの敷かれた大きめのベッド、木造りのデスクとワードローブ、うるさくない程度に壁に描かれた草木・花々の絵、その中に、まるで白雪姫を妬んだ妃が使っていたような、枠の凝った楕円の姿見がはまっている。左手奥の扉は、夢の世界へいざないそうな形をしていながら、その実はトイレとバスルームへの入り口だろう。

 オレはボストンバッグをデスクに下ろし、ベッドに仰向けにダイブした。質の良いスプリングが衝撃をまろやかに包み込む。

 豪華客船とはいっても、慣れない船旅はしらずしらず躰を疲労させていた。少し、気疲れもある。幸一のことと、彼を心配する伊織のこと。

 幼馴染の理絵が幸一を振った最大の理由は、オレの存在だ。自惚れじゃなく、理絵はオレに惚れている。現にこの歳(二十一歳)になるまで過去何度も告白されてきた。そのたびにオレは振ってきたのだ。幼い頃には〝鬱陶しくて〟、小学校に入学し同じクラスになった幸一が理絵に惚れているのだと気付いてからは〝今の関係を壊したくなくて〟。オレは理絵とも幸一とも、もちろん伊織とも、いつまでも親友でいたかった。

「はぁ」

 独りになると、うっかり溜息が洩れる。船のデッキで伊織には湿っぽくするなと言ったが、いつまでもうじうじ悩んでいるのは自分も同じだった。

「あーあ、やめだやめだ」

 胸中の薄靄を振り払うべく、オレは勢いよく起き上がった。ベッドを下り、デスクの上のボストンバッグからビーチサンダルと海水パンツを取り出す。この旅のために新調したものだ。

 携帯で時間を確認し、画面右上の〝圏外〟という文字を新鮮な気分で眺める。

 そうだ、ここは本土の喧騒から解放された絶海の孤島。今は日常など忘れ、バカンスを楽しめばいい。悩む時間は帰ってからも、たっぷりある。

 携帯の電源を落とし、バッグの底に押し込む。ついでに手に触れた着替えを取り出し、皺になりそうなものはデスクの横のワードローブに掛けた。

 海水パンツの上から膝丈のハーフパンツを履き、上半身には素肌に半袖パーカーを羽織る。最後にビーチサンダルに履き替え、廊下へ出ると、伊織と幸一は既にオレと似たようないでたちで待っていた。

「悪い、二人とも」

「三人だよ」

 巨大階段を見下ろす北側の手摺に粋な様子で凭れていた杏子が片手を上げた。彼女は今は、眼鏡をしていない。

「さっそくだけど、ダイビングしないかい。潜れるときに潜っといた方がいいよ、明日は天気悪いみたいだから」

「無人、杏子さんが絶景ポイントへ連れてってくれるって。行かない?」

 伊織がオレに承諾を求める。オレはそれに二つ返事で頷く。杏子がよっしゃ、と拳を握る。

「あー、でももう一人要るな。ダイビングボートをねー……」

 がちゃり、と音がして、オレの部屋の向かいの部屋の扉が開いた。部屋の主、革張りの分厚い本を小脇に抱えた男は、巨大階段の手すりに杏子の姿を発見すると、あからさまに嫌そうな顔をした。

「おおっ、ちょうどいいところに」

 杏子はけらけらと大胆に笑いながら大股で男との距離を詰めてゆく。男は意味ありげな杏子の視線を避けようと、こちらに顔を背けた。

「りィーくゥー、あのね、本よりももっとエキサイティングな過ごし方が」

 里来の半開きの口から今にも、盛大な舌打ちがフロアにこだましそうだった。
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