39 / 61
第五章 木曜日
6
就寝前、オレは里来の部屋を訪ねた。昼間の話し合いのことで彼に聞きたいことがあったのだ。既に眠りについていたのか彼は、パジャマ姿で目を擦りつつ扉を開けた。オレは思わず、
「里来さんだって簡単に殺されちゃいそうですね」
と軽口をたたいて彼の機嫌を損ねてしまった。それでも彼はオレを中に入れてくれ、欠伸を零しながらも話を聞いてくれる様子だった。オレは彼の厚意に甘えて話し出す。
「あの、昼間の件です。みんなの前で里来さんは『容疑者は絞れない』って言いましたけど、実は絞れてますよね?」
「ああ?」
「だって里来さんの推理じゃあ、東郷さんの煙草の銘柄を事前に知らなかったオレと伊織は犯人じゃないんでしょう? それで、里来さん自身も犯人じゃないとする……。杏子さんはあの夜ずっと機械室にいたみたいだし、そうしたら、残ってるのは二人だけじゃないですか」
「イズミとヒュウガか」
「はい。どうして絞れないなんて言ったんですか」
オレが詰め寄ると、里来は小さく唸って頭を掻いた。そして、
「絞れないと言ったのは、海底ケーブルを切った人物がチトセである可能性があるからだ」
「チトセ!?」
「ああ。チトセと幸一の死んだ順についてはまだ不明確だろう? 俺たちはあくまで歌の順に合うように、最初に殺されたのがチトセで次が幸一であると予想しているだけだ。幸一を殺してしまったチトセが通報されるのを恐れてケーブルを切り、その後、犯人によって冷凍室へ閉じ込められたことも考えられる」
里来は眠くて早く済ませたいのか、やや早口でそう語った。オレは妙に納得してしまい、頷く。
そういえば、チトセと幸一の死についてはまったく解明されていないのだった。死んだ順番も曖昧だ。もしかしたらチトセは、犯人に利用されて幸一を誤射するよう仕向けられたのかもしれないし、犯人に銃を奪われただけで、幸一を撃ったわけではないのかもしれない。
「いいか、そのへんがはっきりしない以上、下手に犯人を絞って揉めるのは得策じゃない。あの夜のアリバイに関しては、全員が立証できないわけだしな。機械室にいたっていう杏子のアリバイだって、文哉の証言が得られないのだから不確かだ」
「そうですね……」
オレはしばし思案のために黙る。すると、里来がまた欠伸をする。彼はそのあと伸びをし、オレが座っているのも気にせずベッドに転がった。背後で彼が身じろぎ、スプリングが軋む。
「里来さん?」
「ねみぃんだよ。部屋出るときに起こせ」
「何言ってるんですか。オレが犯人だったらどうするんです?」
「お前は違う。それよりお前こそ俺を疑えよ」
「そんな。里来さんは……」
「俺が犯人じゃない根拠があんのか」
「え……っと」
そう問われると困ってしまう。確かに里来が犯人である可能性はある。オレは彼ほど推理に頭が回らないから、彼がオレと伊織を犯人じゃないとしたような根拠を導き出すこともできない。けれど、なんというか……直感で彼は犯人じゃない気がするのだ。
「根拠はですね、あの……」
馬鹿らしいと一笑されるだろうが、言ってみる。
「オレが、あなたは犯人じゃないと、思うからです」
「……」
返ってくる言葉は無い。呆れられたかと思って黙っていると、聞こえてくるのは穏やかな呼吸音。
「里来さん?」
恐る恐る振り向く。彼はオレに背を向けたまま、すやすやと肩を上下させている。
「寝ちゃったんですか……?」
少しだけ身を乗り出して顔を覗き込む。いつもひそめられている眉がゆったりとほどけ、安らかな表情になっていた。そんな彼はますます無防備に見えて、オレは――
「オイてめぇ、ふざけんな。起こせっつったろうが」
オレは里来が心配で彼の部屋にとどまっているうちに寝てしまい、深夜、ベッドから蹴り落とされて目覚めることとなった。
「里来さんだって簡単に殺されちゃいそうですね」
と軽口をたたいて彼の機嫌を損ねてしまった。それでも彼はオレを中に入れてくれ、欠伸を零しながらも話を聞いてくれる様子だった。オレは彼の厚意に甘えて話し出す。
「あの、昼間の件です。みんなの前で里来さんは『容疑者は絞れない』って言いましたけど、実は絞れてますよね?」
「ああ?」
「だって里来さんの推理じゃあ、東郷さんの煙草の銘柄を事前に知らなかったオレと伊織は犯人じゃないんでしょう? それで、里来さん自身も犯人じゃないとする……。杏子さんはあの夜ずっと機械室にいたみたいだし、そうしたら、残ってるのは二人だけじゃないですか」
「イズミとヒュウガか」
「はい。どうして絞れないなんて言ったんですか」
オレが詰め寄ると、里来は小さく唸って頭を掻いた。そして、
「絞れないと言ったのは、海底ケーブルを切った人物がチトセである可能性があるからだ」
「チトセ!?」
「ああ。チトセと幸一の死んだ順についてはまだ不明確だろう? 俺たちはあくまで歌の順に合うように、最初に殺されたのがチトセで次が幸一であると予想しているだけだ。幸一を殺してしまったチトセが通報されるのを恐れてケーブルを切り、その後、犯人によって冷凍室へ閉じ込められたことも考えられる」
里来は眠くて早く済ませたいのか、やや早口でそう語った。オレは妙に納得してしまい、頷く。
そういえば、チトセと幸一の死についてはまったく解明されていないのだった。死んだ順番も曖昧だ。もしかしたらチトセは、犯人に利用されて幸一を誤射するよう仕向けられたのかもしれないし、犯人に銃を奪われただけで、幸一を撃ったわけではないのかもしれない。
「いいか、そのへんがはっきりしない以上、下手に犯人を絞って揉めるのは得策じゃない。あの夜のアリバイに関しては、全員が立証できないわけだしな。機械室にいたっていう杏子のアリバイだって、文哉の証言が得られないのだから不確かだ」
「そうですね……」
オレはしばし思案のために黙る。すると、里来がまた欠伸をする。彼はそのあと伸びをし、オレが座っているのも気にせずベッドに転がった。背後で彼が身じろぎ、スプリングが軋む。
「里来さん?」
「ねみぃんだよ。部屋出るときに起こせ」
「何言ってるんですか。オレが犯人だったらどうするんです?」
「お前は違う。それよりお前こそ俺を疑えよ」
「そんな。里来さんは……」
「俺が犯人じゃない根拠があんのか」
「え……っと」
そう問われると困ってしまう。確かに里来が犯人である可能性はある。オレは彼ほど推理に頭が回らないから、彼がオレと伊織を犯人じゃないとしたような根拠を導き出すこともできない。けれど、なんというか……直感で彼は犯人じゃない気がするのだ。
「根拠はですね、あの……」
馬鹿らしいと一笑されるだろうが、言ってみる。
「オレが、あなたは犯人じゃないと、思うからです」
「……」
返ってくる言葉は無い。呆れられたかと思って黙っていると、聞こえてくるのは穏やかな呼吸音。
「里来さん?」
恐る恐る振り向く。彼はオレに背を向けたまま、すやすやと肩を上下させている。
「寝ちゃったんですか……?」
少しだけ身を乗り出して顔を覗き込む。いつもひそめられている眉がゆったりとほどけ、安らかな表情になっていた。そんな彼はますます無防備に見えて、オレは――
「オイてめぇ、ふざけんな。起こせっつったろうが」
オレは里来が心配で彼の部屋にとどまっているうちに寝てしまい、深夜、ベッドから蹴り落とされて目覚めることとなった。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。