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第六章 金曜日
7
夕暮れの西空。薄い雲の中に、七色の橋が浮かび上がる。
濡れた草のきらきら光る小道を、館から西へ向かってのぼる。オレンジ色の空を映した水溜りを避け、手に鍵を握りしめた彼を追う。独りで、独りぼっちでどんどん進んでいく彼を、オレは、小走りで、追いかけた。
「里来さん」
隣に並ぶ。自分より幾分背の低い彼の顔を覗き込む。
「なんだ」
「あの、オレも一緒に……」
「そうか」
彼の声が、静かに耳を抜けてゆく。心地良いような、もどかしいような、絶妙な感覚をオレの中に残して。
やがて崖に辿りつく。柵の無い場所から、里来は一本だけの鍵を、虹に向かって放り投げる。高く飛び、虹を越え、輝く西日に溶け込んで、銀色の鍵は見えなくなった。
里来はオレを振り返る。逆光が、彼の表情を隠してしまう。
「人間なんざ、脆いもんだ」
「そうですね。でも……だから、生きてるうちは精一杯生きたいですね」
「それも今日までな気がしてきたな。俺も、すぐに死ぬんだろ?」
オレは彼に歩み寄り、鍵を投げた手を掴む。
「死にません」
「どうしてそう言える?」
「もしもオレが犯人だとしたら、あなたを殺すのはやめるからです」
近づいたせいで逆光でも顔が見える。里来はオレの言葉に困ったように首を傾げ、そのあと曖昧に笑って言った。
「じゃあもしもお前が――」
「犯人じゃなかったら、オレは、必ずあなたを守り抜くと、約束します」
少しの沈黙。オレの手を払い、彼が背を向ける。
「くさい台詞だ。どこの恋愛小説から引っ張ってきた」
「生憎オレはあまり本を読まなくて。……だから、即興なんです」
ひゅお、と吹いた海風の中に、続く彼の声が溶ける。その言葉はごくごく小さくて、けれどオレの耳にしっかりと染みついた。
気障なヒーローだな、馬鹿ナイト。……ありがとう。
濡れた草のきらきら光る小道を、館から西へ向かってのぼる。オレンジ色の空を映した水溜りを避け、手に鍵を握りしめた彼を追う。独りで、独りぼっちでどんどん進んでいく彼を、オレは、小走りで、追いかけた。
「里来さん」
隣に並ぶ。自分より幾分背の低い彼の顔を覗き込む。
「なんだ」
「あの、オレも一緒に……」
「そうか」
彼の声が、静かに耳を抜けてゆく。心地良いような、もどかしいような、絶妙な感覚をオレの中に残して。
やがて崖に辿りつく。柵の無い場所から、里来は一本だけの鍵を、虹に向かって放り投げる。高く飛び、虹を越え、輝く西日に溶け込んで、銀色の鍵は見えなくなった。
里来はオレを振り返る。逆光が、彼の表情を隠してしまう。
「人間なんざ、脆いもんだ」
「そうですね。でも……だから、生きてるうちは精一杯生きたいですね」
「それも今日までな気がしてきたな。俺も、すぐに死ぬんだろ?」
オレは彼に歩み寄り、鍵を投げた手を掴む。
「死にません」
「どうしてそう言える?」
「もしもオレが犯人だとしたら、あなたを殺すのはやめるからです」
近づいたせいで逆光でも顔が見える。里来はオレの言葉に困ったように首を傾げ、そのあと曖昧に笑って言った。
「じゃあもしもお前が――」
「犯人じゃなかったら、オレは、必ずあなたを守り抜くと、約束します」
少しの沈黙。オレの手を払い、彼が背を向ける。
「くさい台詞だ。どこの恋愛小説から引っ張ってきた」
「生憎オレはあまり本を読まなくて。……だから、即興なんです」
ひゅお、と吹いた海風の中に、続く彼の声が溶ける。その言葉はごくごく小さくて、けれどオレの耳にしっかりと染みついた。
気障なヒーローだな、馬鹿ナイト。……ありがとう。
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