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第8部 ぽんこつMy.HERO
第1話 俺の淫らな会長様
しおりを挟むリオのカーニバル並みにホットな9月が過ぎ、10月初頭。
狂ったような暑さもすっかり鳴りを潜め、秋というよりもはや冬! と言わんばかりに寒さが肌を刺す。
全国のぽっちゃり系の小中学生たちが、そろそろマラソン大会運営委員会を本気で襲撃するべく、緻密な計画を立て始めるこの時期。
そんなのお構いなしとばかりに、世はハロウィン一色に染まりつつあった。
アニメコスプレ緊縛上等な、恥と言う概念を父親のキンタマの中に忘れてきた、イケてるボーイ&ガールズたちが、楽しそうに「今年は何の服着る?」と、ハレンチな相談がそこらかしこから聞こえてくる。
そんな中、我ら森実高校は、世間の流行とは全く関係ないイベントで、大いに盛り上がろうとしていた。
そう、学校のビックボスを決める関ヶ原の戦い――またの名を【生徒会長選挙】である!
「――というわけで、今年の生徒会長選挙に、ウチのクラスから古羊が出馬することになった。はい、みんな拍手ぅ~」
我らが担任、ヤマキティーチャ―の合図と共に、わぁぁぁぁッ! と、校舎全体を揺らさんばかりの歓声が、教室中に響き渡る。
帰りのホームルームの時間。
ウチのクラスだけが、バカみたいに盛り上がる。
その盛り上がりの中心人物こと古羊芽衣さまは、檀上の上でニコッ♪ と儚い笑みを浮かべて、クラスメイトたちを見渡していた。
「みなさん、ありがとうございます! わたし、精一杯頑張りますね!」
グッ! と、ふっくら膨らんだ胸の前で拳を握る芽衣の姿に、クラスの男どもの鼻の下が天元突破。
そんな男達から視線を切り、俺は改めて檀上の上に立つ芽衣へと意識を向けた。
太陽の光を一身に受け止めたかのような、淡く輝く亜麻色の髪。
スッ! と、通った鼻筋。
ぷるん♪ と、潤んだ唇。
目尻に優しさが滲み出ている、紅玉のような瞳。
街を歩けば100人が100人とも振り返る、まさに規格外の容姿を誇る絶世の美少女。
……とは表向きの顔で、本当は粗野で粗暴で、乱暴なうえ、平胸盛――間違えた――平な胸を超パッドでギガ盛りしている、悪魔のような女なのだ。
「落ち着け、おまえらぁ~。うるさいぞ? 古羊も、もう席に戻っていいぞ」
「わかりました」
ふわっ♪ と、女神の微笑みを至近距離で受けたヤマキティーチャーの頬に、朱が差し込む。
芽衣はゆったりとした動作で、机と机の間を通って、自分の席へと戻ろうとする。
姿勢から歩き方まで、まるでトップモデルを彷彿とさせるかのようだ。
彼女が歩くだけで、この薄汚い教室が、一瞬でパリコレに早変わりしたかのような錯覚を覚える。
クラスメイト全員が、芽衣に見惚れる中、彼女は悠然と俺の隣にある自分の席へと腰をかけた。
そして俺の方に笑みを向けながら、桜の花びらを背後に散らせて、
「誰が平胸盛だって? 殺すぞ?」
「ナチュラルに思考盗聴しないでくれます?」
美少女に殺害予告を口にされる午後3時30分。
う~ん?
相変わらず猫を被っていないときは口が悪い。
つぅか、なんでコイツ、俺の考えていることが分かるんだよ?
普通に怖いんですけど?
「今回は気分がいいから許すけど、次に『鉄板』とか『ウォールマリア』とか『進撃の虚乳』とか言ったら……潰すわよ?」
「一言も言ってないよ?」
女神スマイル全開のまま、ドスを利かせた声音で脅してくる、我らが生徒会長。
途端に俺のマイペニーが『小さくなる』を使って、回避率を上げようと努力する。
おいおい?
ただでさえ寒さで縮こまっているのに、これ以上小さくなられたら、消滅しちゃうじゃねぇの?
「というかおまえ、また生徒会長になるつもりかよ? 物好きだなぁ」
「物好きなのは士狼の方でしょ? アンタ、この間ネットで『淫乱生徒会長~淫らな私に清き1票を!』ってタイトルのAV買ってたでしょ? 生徒会長を性的な目で見るんじゃないわよ」
「おい待て? なんでそのことを知っているんだ? 教えてないよね?」
「この間、蓮季さんとカフェでお茶しているときに、教えて貰ったのよ」
どうやら息子に人権はないらしい。
そろそろあのクソババァと、本気で腹を割って話す時なのかもしれない。
しかし、息子よりも息子のクラスメイトと仲のいい母親って、世間一般的に見て、どうなの?
ちなみに俺も芽衣も、ホームルーム中だというのに結構喋っているが、まわりに気取られるようなヘマはしていない。
腹話術の要領で、唇をほとんど動かさず会話しているため、顔だけは真面目に担任の話を聞いているように、周りには見えているだろう。
「そもそもの話、士狼のコレクションは偏りが激しいのよ。なんであんな黒髪巨乳な女の子ばっかり集めてんのよ、アタシへのあてつけ?」
「なんでだよ……? いいだろ別に。俺は素朴でイイコが好きなんだよ」
「いや、素朴でイイコはAV女優にはならないでしょ?」
こ、この女!?
清純派AV女優の矛盾を的確についてきやがる!?
や、やめろよな!
画面の向こう側くらい、夢を見たっていいだろうが!
と俺が口を開くよりも速く、芽衣がギリギリ聞こえる声量で小さくつぶやいた。
「士狼はもう少しこう……なんて言うの? アタシみたいな……ンンッ! ンンンッ!? ……ほっそりとした、スレンダーな女の子にも目を向けた方がいいんじゃない?」
「はぁっ?」
「だ、だから! もう少し、モデル体型の女優にも目を向けなさいってことよ!」
チラッ! と横目で確認すると、うっすらと頬を赤くしている芽衣の姿が目に入った。
「……あによ?」
「いや、今おまえ『アタシみたいな』って言わなかった?」
「……はて? なんのことかしら?」
芽衣にしては珍しい、ワザとらしい惚け方だった。
そんな芽衣の態度に、何故か嗜虐心がムクムクと刺激されてしまった俺は、つい我慢できずに、煽るような調子で、
「言った! 絶対に言った! なんだ、おまえ? 俺のこと大好きかぁ? んん~?」
「『僕の淫らな生徒会長~あぁ、ダメですご主人様!? そんなところをグリグリしては!?』『俺の生徒会長がこんなにやらしいわけがない』『性徒会の一存』『異世界は性徒会長と共に』」
「すいません、自分調子に乗りました。だから俺のコレクションの中身を読みあげるのは、マジで勘弁してください。お願いします」
「ふふっ♪ 分かればいいんですよ、分かれば」
生徒会長モードのまま、上品に笑みを溢す。
なんでコイツ、俺のコレクションの中身を暗記してんだよ?
ムッツリスケベか?
やーい! やーい! このムッツリスケベめぇ~っ!
と、弄ってやろうかとも思ったが、後が怖いのでやめた。
決してビビったワケではない。
シロウ・オオカミという出来る男は、退くタイミングもわきまえている、ダンディでハードボイルドな男なのだ!
「つまり士狼は、もっと女の子に対して視野を広げるべきなの」
「う~ん? でもまだ『人妻』は早い気がするけどなぁ……」
「女の子だって言っているでしょうが……。なんでいきなり『人妻』チョイスなのよ……?」
ジトッ、とした横目が俺の肌を射抜く。
なんだよ、おまえが言ったんじゃねぇか?
そろそろ人妻も視野に捉える時期が来たんじゃないのか? って。
確かに人妻、それも黒髪清楚の若妻なんて、すっっっっごい魅力的だよ!
でも、流石に人様の家庭を壊すような、そんなマネは……。
いや待てよ?
黒髪美少女の娘と結婚すれば……みんな幸せになりつつ、夜はマイ・ワイフとお義母さんで、最高にエキサイティングな未来が訪れるんじゃないのか!?
「士狼。アンタ今、最高に下品なコトを考えてるでしょ?」
「っ!? か、考えてねぇよ! 日本の未来の事しか考えてねぇよ!」
「スケールが大きい嘘をつくんじゃないわよ。……まぁいいわ」
そんなことよりも、と春風のように心地よい、芽衣の囁くような声音が鼓膜を震わせた。
「今日の帰り、駅前のパン屋さんに寄りたいから、コレが終わったら、1時間ほど教室で待っていてくれない?」
「別にいいけど、なんで1時間? なんか用事でもあるわけ?」
「さっき先生が言ってたでしょうが……。生徒会長選挙の参加者説明会が、今日の放課後にあるから、ソレが終わるまで待っていてほしいの」
「そういや、そんなこと言っていたっけなぁ」
今日も今日とて、俺と芽衣は平常運転。
いつものように軽口の応酬を繰り広げながら、ホームルームが終わるまで、適当に駄弁っていた。
だが、このときの俺は、想像すらしていなかった。
まさか今この瞬間にも、我らが双子姫の妹君の体に、異変が起き続けているという事に。
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