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番外編:既成事実?
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サクリスはツェーザルとの関係に悩んでいた。
ゆっくりお互いを知っていけたら、と始めた二人の交流は恋人らしい進展もなく二年が過ぎていたのだ。
出掛けたいと声を掛ければ応じてくれるが、それだけ。
嫌々付き合ってくれているのかと申し訳なくなり、無理して誘いに乗ってくれなくて良いと言ってしまうほど。
「無理は…してない」
そう言うから期待して続けている関係に変化は…ない。
「…はぁ」
屋敷でレクロムとお茶の時間を過ごしていたサクリスは、無意識にツェーザルの事を考えてため息を吐く。
「悩んでいるの、サクリス」
レクロムに言われて初めて、自分がため息を吐いていたことに気づくサクリス。
「…ごめん」
「謝る事じゃない」
なんでも話し合って共有してきた二人だけれど、サクリスがツェーザルに恋をしてからは別々の時間が多くなった。
今では共に過ごす時間の方が少ない。
それでもレクロムにはサクリスの心が読めるようで、
「恋は辛い?やめたい?」
僅かに表情を曇らせながら聞く。
「やめたくない…でもよく分からなくなる」
断れない立場だと思って我慢してくれているのではないか。
そんな考えが浮かび、不安になるのだ。
「既成事実を作ればいいんじゃない」
レクロムがサラリと言った言葉に、サクリスは固まった。
「既成事実…?」
「そう。煮え切らない関係を変えたい、進めたいんだろう?なら、いっそのこと手を出して貰えばいい」
弟は何を言っているのか。
困惑するサクリスに構わず、レクロムは続ける。
「なにも最後まで事をしてもらう必要はないさ、キスの一つでもしてくれたら良し」
「でも…必要な時しか手も繋いでくれないのよ」
馬車から降りるときや、足場が悪かったりすれば手を取ってくれるけれど。
御者である彼は貴族のパーティーにも出られないため、ダンスの相手をしてもらう事もできない。
身体的な接触が必要最低限の状態で、どうやって触れてもらえと言うのか。
「あの男は自分のこととなると鈍感なようだ。ハッキリ言えば良いだけだと思うよ」
「恥ずかしいわ…」
「サクリスから押さないと、落とせないよ」
この二年間、サクリスの恋愛に口を挟まなかったレクロム。
初めての助言がなかなかに強引なもので驚きつつも、サクリスは勇気を出してみることに。
そして次のデートの時、思い切ってツェーザルに伝えたのだ。
「…きっ、キスして…欲しいです!」
「え…」
「わたくしは貴方のことが好きだから…何をされても良いの…」
顔を真っ赤にしてそんな事を言うサクリスに、ツェーザルは。
「…何されても良いとか言うもんじゃねえよ」
食われるぞ、と小さく呟くと同時に彼女の口を己の唇で塞ぐ。
唇はすぐに離れたけれど、その感触と目の前にあるツェーザルの顔、そしてペロリと舌舐めずりする仕草にサクリスは腰が抜けた。
「…!」
「男は狼、ってな。可愛い顔されたら止められなくなるんだよ」
可愛いなんて言われたのも初めてで。
「あんたが覚悟出来るまで待っててやるつもりだったのに。誰に吹き込まれた?」
少し怒った顔で聞かれ、レクロムの案だと暴露する。
「レクロムが…既成事実を作ればって…」
「…ふーん、既成事実、ねぇ」
ツェーザルはニヤリと笑い、サクリスの細い腰に手を回す。
「それ、意味わかってて言ってる?」
「あ、あの…わたくし…!」
ただ、少し進展したかっただけ。
そう言おうとしたサクリスだったが、再び口を塞がれて言葉にできない。
今度は深い口付けをされ、この日は自力で歩けなくなったのであった。
---その後はトントン拍子に話が進み、ツェーザルは侯爵家に婿入り。
双子の娘にも恵まれ、幸せに暮らしたという。
結婚報告の際、
「あの可愛さは卑怯だよなー。しかも惚れていいときたもんだ。そりゃ手ぇ出すだろ」
ジークハルトにそう話した---
ゆっくりお互いを知っていけたら、と始めた二人の交流は恋人らしい進展もなく二年が過ぎていたのだ。
出掛けたいと声を掛ければ応じてくれるが、それだけ。
嫌々付き合ってくれているのかと申し訳なくなり、無理して誘いに乗ってくれなくて良いと言ってしまうほど。
「無理は…してない」
そう言うから期待して続けている関係に変化は…ない。
「…はぁ」
屋敷でレクロムとお茶の時間を過ごしていたサクリスは、無意識にツェーザルの事を考えてため息を吐く。
「悩んでいるの、サクリス」
レクロムに言われて初めて、自分がため息を吐いていたことに気づくサクリス。
「…ごめん」
「謝る事じゃない」
なんでも話し合って共有してきた二人だけれど、サクリスがツェーザルに恋をしてからは別々の時間が多くなった。
今では共に過ごす時間の方が少ない。
それでもレクロムにはサクリスの心が読めるようで、
「恋は辛い?やめたい?」
僅かに表情を曇らせながら聞く。
「やめたくない…でもよく分からなくなる」
断れない立場だと思って我慢してくれているのではないか。
そんな考えが浮かび、不安になるのだ。
「既成事実を作ればいいんじゃない」
レクロムがサラリと言った言葉に、サクリスは固まった。
「既成事実…?」
「そう。煮え切らない関係を変えたい、進めたいんだろう?なら、いっそのこと手を出して貰えばいい」
弟は何を言っているのか。
困惑するサクリスに構わず、レクロムは続ける。
「なにも最後まで事をしてもらう必要はないさ、キスの一つでもしてくれたら良し」
「でも…必要な時しか手も繋いでくれないのよ」
馬車から降りるときや、足場が悪かったりすれば手を取ってくれるけれど。
御者である彼は貴族のパーティーにも出られないため、ダンスの相手をしてもらう事もできない。
身体的な接触が必要最低限の状態で、どうやって触れてもらえと言うのか。
「あの男は自分のこととなると鈍感なようだ。ハッキリ言えば良いだけだと思うよ」
「恥ずかしいわ…」
「サクリスから押さないと、落とせないよ」
この二年間、サクリスの恋愛に口を挟まなかったレクロム。
初めての助言がなかなかに強引なもので驚きつつも、サクリスは勇気を出してみることに。
そして次のデートの時、思い切ってツェーザルに伝えたのだ。
「…きっ、キスして…欲しいです!」
「え…」
「わたくしは貴方のことが好きだから…何をされても良いの…」
顔を真っ赤にしてそんな事を言うサクリスに、ツェーザルは。
「…何されても良いとか言うもんじゃねえよ」
食われるぞ、と小さく呟くと同時に彼女の口を己の唇で塞ぐ。
唇はすぐに離れたけれど、その感触と目の前にあるツェーザルの顔、そしてペロリと舌舐めずりする仕草にサクリスは腰が抜けた。
「…!」
「男は狼、ってな。可愛い顔されたら止められなくなるんだよ」
可愛いなんて言われたのも初めてで。
「あんたが覚悟出来るまで待っててやるつもりだったのに。誰に吹き込まれた?」
少し怒った顔で聞かれ、レクロムの案だと暴露する。
「レクロムが…既成事実を作ればって…」
「…ふーん、既成事実、ねぇ」
ツェーザルはニヤリと笑い、サクリスの細い腰に手を回す。
「それ、意味わかってて言ってる?」
「あ、あの…わたくし…!」
ただ、少し進展したかっただけ。
そう言おうとしたサクリスだったが、再び口を塞がれて言葉にできない。
今度は深い口付けをされ、この日は自力で歩けなくなったのであった。
---その後はトントン拍子に話が進み、ツェーザルは侯爵家に婿入り。
双子の娘にも恵まれ、幸せに暮らしたという。
結婚報告の際、
「あの可愛さは卑怯だよなー。しかも惚れていいときたもんだ。そりゃ手ぇ出すだろ」
ジークハルトにそう話した---
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