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第14話:時は流れて30年
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ヴィンセントの婚姻から三十年、即位から数えると三十五年の時が経った。
子供が産まれた時など、度々手紙は届いていたが会うことはなく。
国も平和な時を過ごし、疲弊していた姿はすっかり過去のことになっている。
ヴィンセントの事をあまり思い出すこともなくなっていたトゥリアの元に、彼の来訪の知らせが届いたのは良く晴れた日のこと。
使い魔が知らせに来たとき、トゥリアは一瞬迷った。
しかし気づけば三十年、彼は約束を守り会いに来る事なく立派に国を収めている。
そろそろ会ってもいいかと外へ出ると、森の木々が騒めいた。
『来たよ、あのニンゲンが来たよ』
『我らの愛し子トゥリア、ヒトの子が来たよ』
「久しぶりに会ってみることにするよ」
彼を招くよう使い魔に伝え、お茶にするためのハーブを積むとトゥリアは屋敷へ戻る。
しばらくして、戸を叩く音が。
「…お久しぶりです、トゥリアさん」
そこには50歳を迎えたヴィンセントがいた。
白髪が増え、以前より更に背が伸びている。
「おや、少し大きくなったかい」
「はい、あの後まだ伸びました」
ヴィンセントは歳をとったけれど、トゥリアの姿は以前のまま。
変わらぬ美しさにヴィンセントの胸は高まる。
「相変わらずお美しい…」
「それが取り柄だからね。ところで、会いに来るには早くないかい?」
初老と呼ぶにはまだ早い、鍛えているヴィンセントはまだまだ若々しく見えた。
「どうしても会いたくて…まだ早い、ですか」
切なそうなヴィンセントの顔を見ると何も言えなくなってしまうトゥリア。
苦笑いを浮かべ、詰みたてのハーブをお茶にした。
「トゥリアさんが入れてくれるお茶は、いつ飲んでも落ち着きます」
「そうかい」
「貴女は変わりませんね」
愛する人の変わらぬ姿に目を細めるヴィンセント。
二人は空白の時間を埋めるように言葉を交わし合う。
「子供はいくつになったんだったかね」
「上から27、23、20歳ですね」
「三人の子宝に恵まれるなんてよかったじゃないか」
「良き妻をもらえたと思っていますよ、王妃としても国母としても立派に勤めてくれています」
「大事にしてやらないと。あたしに会いに来て良かったのかい?」
三十年間、ヴィンセントからの近況報告に対してトゥリアは無難な返事を返すのみ。
そんな手紙のやりとりだけだったのに、
「僕が愛しているのは、今も昔も貴女ですよ。王妃も知っていることです」
ヴィンセントの心にはトゥリアへの愛があり続けていたのだ。
しかも王妃公認だという。
「王というものは、政略結婚も覚悟の上。だから彼女を娶ったけれど、愛しているのはトゥリアさんだけです」
「…子供まで儲けたのに?」
「彼女は全て納得の上です」
王妃は以前からヴィンセントを慕っていたそうだが、彼の心が他にあり、その相手が魔女である事を知った上で自分を選んで欲しいと言ったらしい。
心の中では一番になれなくても形式上最も近くにいるのは自分でありたいと願う彼女を、トゥリアに振られたヴィンセントは受け入れることにしたのだ。
子宝にも恵まれ、時が流れ。
今日トゥリアに会いに行く事も知っている、と。
「…あんたって子は」
さすがのトゥリアも呆れて言葉を失う。
トゥリアへの愛が諦めきれず、しかし果たさなくてはならない役目があるヴィンセントはやるべき事を終えて会いに来たのだ。
子供が産まれた時など、度々手紙は届いていたが会うことはなく。
国も平和な時を過ごし、疲弊していた姿はすっかり過去のことになっている。
ヴィンセントの事をあまり思い出すこともなくなっていたトゥリアの元に、彼の来訪の知らせが届いたのは良く晴れた日のこと。
使い魔が知らせに来たとき、トゥリアは一瞬迷った。
しかし気づけば三十年、彼は約束を守り会いに来る事なく立派に国を収めている。
そろそろ会ってもいいかと外へ出ると、森の木々が騒めいた。
『来たよ、あのニンゲンが来たよ』
『我らの愛し子トゥリア、ヒトの子が来たよ』
「久しぶりに会ってみることにするよ」
彼を招くよう使い魔に伝え、お茶にするためのハーブを積むとトゥリアは屋敷へ戻る。
しばらくして、戸を叩く音が。
「…お久しぶりです、トゥリアさん」
そこには50歳を迎えたヴィンセントがいた。
白髪が増え、以前より更に背が伸びている。
「おや、少し大きくなったかい」
「はい、あの後まだ伸びました」
ヴィンセントは歳をとったけれど、トゥリアの姿は以前のまま。
変わらぬ美しさにヴィンセントの胸は高まる。
「相変わらずお美しい…」
「それが取り柄だからね。ところで、会いに来るには早くないかい?」
初老と呼ぶにはまだ早い、鍛えているヴィンセントはまだまだ若々しく見えた。
「どうしても会いたくて…まだ早い、ですか」
切なそうなヴィンセントの顔を見ると何も言えなくなってしまうトゥリア。
苦笑いを浮かべ、詰みたてのハーブをお茶にした。
「トゥリアさんが入れてくれるお茶は、いつ飲んでも落ち着きます」
「そうかい」
「貴女は変わりませんね」
愛する人の変わらぬ姿に目を細めるヴィンセント。
二人は空白の時間を埋めるように言葉を交わし合う。
「子供はいくつになったんだったかね」
「上から27、23、20歳ですね」
「三人の子宝に恵まれるなんてよかったじゃないか」
「良き妻をもらえたと思っていますよ、王妃としても国母としても立派に勤めてくれています」
「大事にしてやらないと。あたしに会いに来て良かったのかい?」
三十年間、ヴィンセントからの近況報告に対してトゥリアは無難な返事を返すのみ。
そんな手紙のやりとりだけだったのに、
「僕が愛しているのは、今も昔も貴女ですよ。王妃も知っていることです」
ヴィンセントの心にはトゥリアへの愛があり続けていたのだ。
しかも王妃公認だという。
「王というものは、政略結婚も覚悟の上。だから彼女を娶ったけれど、愛しているのはトゥリアさんだけです」
「…子供まで儲けたのに?」
「彼女は全て納得の上です」
王妃は以前からヴィンセントを慕っていたそうだが、彼の心が他にあり、その相手が魔女である事を知った上で自分を選んで欲しいと言ったらしい。
心の中では一番になれなくても形式上最も近くにいるのは自分でありたいと願う彼女を、トゥリアに振られたヴィンセントは受け入れることにしたのだ。
子宝にも恵まれ、時が流れ。
今日トゥリアに会いに行く事も知っている、と。
「…あんたって子は」
さすがのトゥリアも呆れて言葉を失う。
トゥリアへの愛が諦めきれず、しかし果たさなくてはならない役目があるヴィンセントはやるべき事を終えて会いに来たのだ。
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