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第9話:拳闘士聖女爆誕

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神官達は顔を見合わせ小声で話し合う。


「どうする…聖女候補が拳闘士など、前代未聞だぞ」

「まずは適性を調べないことにはなんとも…」

「そうだな、浄化の力がどれほどか分からんしな」


リリーナの前に神殿を訪れた候補者達は、皆力が足りずに聖女として認定されなかった。

魔物の出現が相次いでいる今、一刻も早く聖女を立てて神殿のシンボルになってもらはなくてはならないのに。

焦る神官達は、ひとまずリリーナにも浄化の力を見せてもらうことにする。


「では、リリーナ。君の能力を見せて貰いたいから祈りの間に来てくれ」


そして祈りの間に案内されたリリーナ。

この世界の神グラシアの像が置かれた神聖な空間、ここで能力を測るのだという。

どうやって調べるのだろうかと思っていると、神官長が大きな水晶玉のようなものを持ってきた。


「リリーナ、これに手をかざしてみてくれ」

「はい」


よく分からない…半信半疑で手を近づけるリリーナ。

すると透明だった球体が金色に光出す。


「な、これは…!」

「なんと眩い…これほどの光は初めてだ!」


眩しさに目を瞑ってしまったリリーナは、何が起きているのか分からなかった。


「リリーナよ、離れて良いぞ」


神官長の言葉に頷き、リリーナは手を下ろして後ろに下がる。

ようやく目を開けると、周囲にいた神官達が驚愕の表情を浮かべていることに気づいた。


(なにかしら、変なことした?)


なにかやらかしてしまったのだろうか。

目を凝らして見るが、球体にヒビが入ったりはしていない。


(壊してないわよね)


そんなことを考えていたリリーナに、神官達は告げた。


「リリーナ…いや、リリーナ様。貴女こそ我々が探し求めていた聖女様です」

「…へ?」

「本日この瞬間より、貴女様はこのグラスフィア大神殿の聖女様となります」


一斉に頭を下げる神官達を前に、リリーナは。


「え、お断りします」


まさかの辞退宣言。

唖然とする神官達にリリーナはキッパリと言った。


「どうして選ばれたのか分かりませんが、私は何もしておりませんし。呼び出しに応じなければ罰を受けると言われたので来ただけです、ルナの村に帰ります」


世話になっているシスター・マリーナに迷惑をかけたくないから渋々ここまで来ただけ。

聖女に選ばれてここに縛られてしまったら、もうマリーナや孤児院の兄弟たちに会えなくなってしまうのではないか。

そんなのは御免だと思い、任命を断るリリーナ。

これに慌てたのは神官達だ。

神殿に属するものにとって最高の名誉の一つであるはずの聖女に選ばれたというのに、まさか断られるとは。

想定外の事態である。


「ば、馬鹿な…聖女に選ばれたのだぞ!?」

「考え直してくれ、君ほど神聖な力を持つものはいないのだ!」

「何でも願いを聞こう、だから頼む!!」


泣いて縋る神官達にドン引きしたリリーナは、条件付きで引き受けることにした。


条件その一、ここで大人しくするのではなく自由に行動する権利。もちろん故郷の人達との面会も自由。

条件そのニ、拳闘士の肩書きはそのままで。


リリーナを逃したくない神官達は、その条件を飲んだ。

世界初、前代未聞の拳闘士兼聖女が爆誕した瞬間である。
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