【完結】六文銭の渡し方

九時せんり

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早朝

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毎朝5時、お弁当と朝食の準備をしに八重子は目を覚ます。
顔を洗い、髪をとかし、エプロンを着けて仕度を始める。
娘の菜摘の弁当はキャラ弁、弟佑の弁当は肉を欠かさない。
夫の弁当を作らなくなって何年経つだろう。
最初は少しずつプチトマトを残したり、ブロッコリーがかじりかけだったり、その程度のものだった。
それがある日突然、お弁当そのものを持っていかなくなった。
お昼はどうしてるの?と聞くと、
「社食で済ませてる。」
と、八重子の目を見ずに答える。私が何かしてしまったのかと不安で何度も問いかけるが、付き合いで、社食を使うようになったとしか答えない。彼は嘘を付く時、一瞬下を向く。本人も気づいてないのだろう。
最初の頃は八重子は泣いた。それでも子どもたちの弁当は作らなければいけない。
菜摘が起きてきて、お米をよそっていく。
最近は卵かけご飯ばかりでウインナーなどを食べないのでお皿の端にさっと乗せる。
嫌いではないのだろう。菜摘は文句も言わずウインナーを食べる。もしかするとお弁当のおかずが減るからだと思っているのだろうか。
主人が起きてきて新聞を広げて味噌汁に口をつける。
今朝はぶなしめじの味噌汁だ。うちではじゃがいもの味噌汁などは出ない。味噌汁は豆腐かきのこかわかめだ。
「八重子さん。今日は味噌が薄いね。」
主人はそう言って笑う。夫婦仲は悪くない。八重子はそう思って笑顔を造る。
「健康診断ちょっと引っ掛かりましたからね。」
「引っ掛かったって言っても、たった1だよ。」
そう言って八重子は佑を起こしに行く。
佑は学年トップを親友の棚田君と競い合っていていつも夜遅くまで勉強する。
そんな息子を見ながら主人は結構、結構と笑う。
作業服の主人はやはりどこかキリリとした印象で、責任者の貫禄がある。
佑がリビングにやってきて味噌汁を飲んで、
「あー豆腐が良かったなぁ…。」
とぶつぶつ文句をいう。
「母さん、弁当さぁ…。」
「弁当がなに?」
「カツオとかマグロに出来ない?」
「いつも肉って言うじゃない?」
「DHAとかEPAとか増やせば棚田に勝てる気がするんだよ。」
「どうせ佑は万年2番だよ。」
そう言って菜摘は笑う。
「考えておくわ。早く食べないと遅刻するわよ。」
そう言って八重子は3人を送り出した。
いつも通り、いつも通り。
そう自分に言い聞かせる。
食器を洗って洗濯と掃除を始める。洗濯物を裏返すと、ポケットから小銭が出てきた。こういう時はリビングにある豚の貯金箱にいれる。
貯まったら家族のことに使う、そう決まっている。
八重子は少し気が重かったものの洗濯と掃除が済んだら買い物に出かけた。
豆腐にカツオか…そう思ってスーパーへの道のりへと歩を進めた。
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