今更後悔しても追放したのはあなたです 冤罪で離縁された元王太子妃は辺境で溺愛される

佐倉伊織

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1巻

1-2

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「これ、少し重いんだが、持ってみてくれないか?」

 なにも考えずに受け取ると、シャープな見た目とは違いずっしりとしていて驚いた。とはいえ、問題なく片手で持てる。

「ちょっと重めね」
「ちょっと? 構えられるかい?」
「もちろん」

 フェリシアは昨日と同じように基本の型をやってみせた。すると、それを見た店主は目を見開きながら拍手をしてくれた。

「この剣を振り回せたのは、あんたが初めてだよ」
「は?」
「重いだろ?」
「まあ……」

 昨日購入した剣に比べたら重いけれど、振り回せないとはいったい……。店主が両手で抱えていたのは、高級品だからではなく重かったからなのだろうか。
 それなりに鍛えているので、その辺の男よりは力があると自負している。ただ、ほかに振り回せる者がいないほど重くはないと思うのだけれど……

「実はこの剣、貴族軍人が使っていたかなりいいものらしいんだけど、重いだろ? 使いこなせる人がいなくて」
「そう……」

 この鍛冶屋かじやを訪れる剣の使い手は、素人しろうとが多いのかもしれない。

「使われている金属が特殊なもののようだ。岩を叩き切っても刃こぼれしないとか」
「それはすごい……」

 フェリシアは鈍く光る剣先を見ながら感嘆のため息を漏らす。

「よかったら、持ってかないか?」

 意外なひと言に首を傾げる。

「私が?」
「そう。こんなすごい剣、使ってこそだ。でも、肝心の使い手がいなくてね。皆、振ると上体がぶれて使いこなせないんだ。その点、あんたなら大丈夫そうだし。まさかこれを女に薦めるときが来るとは思ってなかったけど」

 たしかに剣というものは、うまく扱えなければいくら破壊力があっても隙だらけになる。

「いいの?」
「ああ、持ってきな。一度近衛兵に薦めたことがあるんだけど、それでも無理だったんだよ。この先、あんた以上の人に出会えるとは思えない」
「近衛兵も無理だったの?」

 近衛兵であれば、それなりに鍛えているはずだ。フェリシアは驚き、尋ねる。

「そう。だから、もう扱える人間はいないと思っていたよ」
「へえ……」

 その近衛兵は本物なのだろうか。近衛兵を装った素人しろうとか、あるいは騎士団に入団したばかりで、まだ力のない兵士なのでは?
 とはいえ、そんなすごい剣をくれると言っているのに、断る理由がない。
 フェリシアは、まだ売っていなかったブローチと引き換えに、剣を手にした。
 鍛冶屋かじやの店主はいい人で、この街を出るにしても警察隊の目があるからと、国境近くまで行く知り合いの荷馬車にこっそり乗せてくれた。
 荷に挟まれての道中は少々乗り心地が悪いが、文句は言えない。
 無事に街を出たところで、幌からこっそり外を覗いてみた。

「あっ……」

 フェリシアの目に飛び込んできたのは、幼い頃に家族を失ってからしばらく過ごした修道院だった。いつか恩返しをしたかったけれど、国を追い出された身ではそれも叶いそうにない。
 人生は波乱万丈だ。明日はどうなるかなんて誰にもわからないのだから。


 辺境の地まで四日。
 荷馬車を降りたフェリシアは、うーんと大きく伸びをした。
 国境の高い山脈が間近に見えて空気がおいしく感じられるここは、自然豊か……と言いたいところだけれど、付近の草木が枯れている。
 どこまでも続く広大な畑が広がっているものの、野菜はまったく育っていない。近づいていくと、育っていないのではなく枯れてしまったのだとわかった。

「どうしたんだろう、これ。仕事を放棄した?」

 キルタンス王国の税は高く、地方の農村は支払いに悲鳴をあげているそうだ。働いても働いても暮らしが向上せず、絶望のあまり仕事を放り出してしまったのだろうか。
 王宮はあんなにきらびやかで、毎日のように厚いステーキとふんだんな野菜や果物が出てくるのに、作物を育てている人たち自身が食えないなんて、完全に政策の失敗だろう。
 比較的裕福な王都にいても、国王の統治がうまくいっているとは思えなかったが、辺境の地は想像以上だった。
 荷馬車のおじさんに聞いたところでは、この一帯はチェルダムと呼ばれる領地らしい。一本道を少し歩いていくと、このあたりでもっとも大きな街に入るのだとか。
 空腹を覚えたフェリシアは、食べ物を調達するために街に行ってみることにした。
 商店らしき建物が並ぶ広場に到着したものの、どこもかしこも閉まっており、あたりは閑散としている。

「一番大きな街って言ってたわよね……」

 王室に入る前にフェリシアが暮らしていた街は、さほど大きくはなかったものの、もっと活気があった。ただ、国境近くまで来たのは初めてなので、こんなものなのだろうかとも思う。
 しかし、昔見た光景を思い出して背筋が凍った。

「まさか……」

 先ほどの畑は、瘴気のせいで荒れたのかもしれない。だとしたら、人々も病に侵されている可能性がある。
 フェリシアは走りだした。一刻も早く原因を見つけなければ。

「井戸はどこ?」

 フェリシアが聖女であると周囲に知られたのは、以前住んでいた街の井戸水が瘴気に侵され、それを浄化したからだ。
 そのときと同じことが起こっているのではないかと考えた。
 おそらく、街の人々が共同で使う井戸があるはず。それを見つけたいのに、人影がなくて聞くこともできない。
 さらに進んでいくと、二階建てのレンガ造りの住居がずらりと並んでおり、石畳みの小道が突然開けて別の広場が現れた。
 その先に、詰襟の赤の上衣に黒のズボンという軍服姿の兵たちが多数おり、黒色の髪を持つ背の高い男がなにやら指示を出している。
 彼だけは黒い上衣に金色のブレードが印象的な肋骨服を着ており、肩章からも位が高いとわかった。

「第一部隊は東側、第二部隊は西の地域だ。被害を把握して、すぐに伝えろ。第三部隊は瘴気の源を探れ」
「はい」

 兵たちのそろった声が聞こえてきて、ピリッと緊張が走る。
 やはり、瘴気に侵されているようだ。

「あの……」

 フェリシアは思いきって騎士団長らしき男に声をかけた。

「すまないが、今は忙しい。陳情はまたあとで聞く」

 フェリシアより、五つ六つ年上だろうか。申し訳なさそうに眉をひそめる彼は、長めの前髪から覗く切れ長の青い目と通った鼻筋を持つ、凛々しい男性だった。
 どこかで会ったことがあるような気がするが、思い出せない。王宮でだろうか。

「待ってください。陳情ではないんです。もしかして、瘴気にやられているんですか?」

 去っていきそうな男に慌てて尋ねると、彼はうなずいた。

「君は?」
「私は別の街から参りました旅人です」

 フェリシアは追放された身であることを隠して、そう答えた。

「そうだ。瘴気にやられている。畑はだめになり、人々は病に苦しんでいる。だが、瘴気の源がわからず……。わかったところで、自然と消えるまで近づかないようにすることくらいしかできないのだが」

 彼は悔しそうに唇を噛みしめた。
 実はこの瘴気は、なぜ生じるのかよくわかっていない。時折湧いては、人々を困らせる。
 次第に濃くなっていくもその後は薄くなっていき、何カ月かしたら消失する。しかし、その間に瘴気の影響を受けた草木や農作物は枯れ、人は健康をむしばまれ……最悪の場合死に至る。
 瘴気の前では屈強な騎士団も歯が立たず、聖女の浄化がそれをすぐに消すことができる唯一の手段なのだ。
 そのため、フェリシアが浄化に携わっていた王都周辺の街は平穏だった。その一方、辺境の地がこれほどひどく侵されているとは……
 現在キルタンス王国にいる聖女はフェリシアとジュリーのみ。しかもジュリーは目の前の小さな瘴気を消せる程度の力しかなく、フェリシアひとりで王国の隅々まで走り回って浄化するわけにはいかないのが現実だった。

「悪いが、今旅人をもてなす余裕がこの街にはない。君も瘴気に侵される前に、ここをったほうがいい」

 騎士団長はそう告げると、再び歩きだす。
 自分ならこの状況から救えるかもしれない。
 そう考えたフェリシアは、彼の前に回り込んで口を開いた。

「フェリシア・ルブランと申します。私、お手伝いできます」
「手伝う?」
「はい。瘴気を消せるんです」

 フェリシアの発言に、彼は驚いて目を見開く。

「瘴気を? そのようなことができるはずもない。……いや、もしかして聖女さまなのですか?」

 なんとかしなければと勢いで彼を止めたが、瘴気を消せるのは聖女だけだと皆知っている。疑問を持たれるのは当然だ。
 聖女だと知られたくない。追放された王太子妃だということも。もうなににも縛られず、自由に生きていきたいのだ。
 とはいえ、この瞬間にも誰かの命が尽きるかもしれないのに、見て見ぬ振りはどうしてもできなかった。

「聖女、ではないのですが……。一度私に試させていただけないでしょうか? ほかに手立てがないのなら、どうかお願いします」

 苦し紛れにそう言うと、騎士団長はいきなりフェリシアの手を握る。

「クリストフ・アンドレ・モントブールと申します。どうかお願いです。我がチェルダムの民のために、力を貸してください。報酬はいくらでも望むままにお支払いしますから」

 たわごとなど聞いていられないと切り捨てられるかと思いきや、信じてくれたようだ。
 しかもフェリシアを散々こき使い、民などどうでもよく、悠々自適に過ごしていたマチアスとはまるで違う彼の態度に感銘を受ける。

「かしこまりました。瘴気の排除が終わるまで、水を使わないでください。人間にも多くの被害が出ているということは、井戸の水が侵されている可能性が……」

 畑だけが被害を受けているのであれば、単に瘴気がその場所で増殖したのだろう。しかし瘴気が原因で、同時に多くの人間が倒れることはまずない。瘴気には流行風邪のように人から人へ伝染する性質はなく、瘴気を間近で浴びた人のみ苦しむはずだからだ。
 本来黒いもやとして見える瘴気は、水に溶けてしまうと気づきにくくなる。味は変わらないので汚染に気づかず飲んでしまい、同じ井戸を使った住民たちが次々と倒れていく羽目になる。

「井戸……そうか」

 フェリシアの言葉を信じてくれたクリストフは、近くにいた兵士に水の使用禁止命令を出し、人々に伝達するように促した。
 あまりに迅速な対応に感心しながら、フェリシアはトランクを置き、背に担いでいた剣も外して、早速瘴気の浄化に取りかかろうとする。

「すぐに井戸にご案内します」
「いえ、ここで大丈夫です。この街全体の瘴気を消します」

 こうした広範囲の浄化はとてつもない力が必要なので、まずやらない。しかし、この瞬間にも誰かが命を落とすかもしれないと思ったら、やらないという選択肢はなかった。

「なにか必要なものは?」
「なにもいりません。集中したいので、しばらく話しかけないでください」

 ごつごつした石畳の広場に膝をついたフェリシアは、手を胸の前で組み、大きく深呼吸する。そして目を閉じた。

『天に与えられしみなぎる力よ。邪悪な存在を排除し、我らに幸福を』

 神経を研ぎ澄まして念じると、体からあふれる力が円を描くように四方八方に広がっていくのを感じる。
 この力はどこまでも届くわけではないけれど、フェリシアの能力をもってすれば、この街ひとつくらいなら造作ぞうさもない。

「クリストフ卿! 井戸を使用禁止に――」
「静かに」

 報告に来た兵士の声で集中力が途切れそうになったが、クリストフが黙らせてくれたため、そのまま続ける。

『人々と大地に命の恵みを』

 フェリシアは別の言葉を心の中でつぶやいた。
 聖女は……いや、フェリシアは、瘴気に対して〝浄化〟の力しか持たぬと思われているが、実は違う。汚染された人の体や大地を元通りにする〝再生〟の力も持っている。
 王太子妃として聖女の役割を果たしていたときは、再生の力を一度も使わなかった。というのも、瘴気による汚染がひどくなる前に浄化できたため、あまり必要ではなかったのだ。
 聖女としての力が弱いジュリーはこの力を有しておらず、再生については誰も知らないはず。
 こうした力があることを知られれば、悪用して私利私欲を満たそうと考えるよこしまな人間が寄ってこないとも限らない。だから本当は隠しておきたかった。
 けれど、人々が元気を取り戻しても畑が壊滅的な被害を受けていては、税を払うどころか食うに困るだろう。瘴気で命を落とさずに済んでも、飢えてしまう。
 そう考えて、再生の力を使うことにしたのだ。
 ただし、この力を行使するには、強い精神力とさらなる体力が必要になる。
 ――頑張りなさい、私。
 息苦しさを感じたフェリシアは、自分を鼓舞してできるだけ遠くまで力が届くよう全身に力を込めて、ひたすら念じ続ける。
 地面についた膝に小石が突き刺さり痛みを感じるものの、やめられない。膝のけがなどすぐに治る。それより、チェルダムの民の命だ。

「……はっ」
「危ない」

 力を使い果たしたせいで、その場に突っ伏しそうになったフェリシアを支えてくれたのはクリストフだった。
 筋肉質な腕で抱きかかえてくれる彼の青い目に自分の顔が映っていることに気づいて、どきりとした。

「すみません」

 離れようとしたものの、力が抜けて立ち上がることもできず、座り込んだまま口を開く。

「もう水を使っても大丈夫です。皆さんの健康も畑の野菜も、もとに戻っていると思います」
「畑まで?」

 とにかく安心させなければと思いそう伝えると、クリストフはひどく驚いている。

「辺境伯さま! つい先ほどまで高熱で唸っていた子供が、突然元気を取り戻しまして……」

 西の方角から兵士が駆けてきた。ひどく慌てている彼は、目の前で再生の力を目撃して驚いたのだろう。
 ――クリストフさまは、辺境伯だったのね。そのような高貴な身分の人間がみずから先頭に立って事態の収束を図ろうとするとは、素晴らしい。
 マチアスはフェリシアに丸投げして、瘴気が発生した場所に近づこうとはしなかった。邪魔なので、いないほうが助かったけれど。

「このお方が救ってくださったのだ」
「えっ……?」
「か、枯れた小麦が元通りに……」

 今度は別の兵士がそう報告してきた。
 どうやら浄化も再生も成功したらしい。

「よかった……」

 安堵して、声が漏れる。

「先ほど畑とおっしゃいましたが、まさか小麦もあなたが?」
「ええ。お役に立てたなら幸いです」

 笑顔で答えるとクリストフは優しい表情でうなずき、こうべを垂れる。

「なんという力だ……。本当にありがとうございます」

 辺境伯であれば、王室主催の晩餐会ばんさんかいにも呼ばれているはず。聖女ではないと苦し紛れの嘘をついたけれど、フェリシアが王太子妃だったことに気づかれてしまうのではないかと心配だった。
 しかし、そんな素振りはない。常に仮面をつけていたので顔は割れていないはずだし、辺境の地に王太子妃が来るとは思ってもいないのかもしれない。
 冷たい地面に座ったままなのも……と思い立ち上がったけれど、やはり力が入らずよろけてしまうありさま。すかさず抱きとめてくれるクリストフは、スマートだ。

「すみません。ちょっと頑張りすぎたみたいで……」

 長時間剣を振り回せるほど体力には自信があったのに。広範囲にわたる再生は、少しばかりきつかったようだ。

「失礼いたします」
「え……?」

 いきなりクリストフに抱き上げられて、目をぱちくりさせる。

「どちらに行かれる予定だったのですか?」

 動揺するフェリシアとは対照的に平然としたクリストフは、大きなトランクを見て言った。

「……えーっと、別の国に行こうと思っておりまして」

 国外追放になったなんて明かしたらややこしいことになりそうなので、ごまかしておく。するとクリストフの表情が一瞬曇った。
 なにかまずいことを言っただろうか。

「そうでしたか。今晩の宿はお決まりで?」
「まだなんです。食事をしたくて街に来てみたら、様子がおかしくて……」

 そう言ったのと同時に、ググググーゥと腹が大きな音を立てたので、顔から火を噴きそうだ。

「す、すみません」
「あはは。体は正直だ。よろしければ我が屋敷にお泊りになりませんか? 野菜がとれなくて困っておりましたが、元通りにしていただけたならすぐに取り寄せて食事も用意させます。できれば、あなたのお力についてくわしくお聞きしたく……」

 クリストフが親切なのは間違いなさそうではあるけれど、おそらくフェリシアの正体を知りたいという気持ちのほうが大きいだろう。瘴気を浄化した見知らぬ旅人が気になるのはあたり前だ。
 ――宿と食事はありがたいけど、聖女の力について明かしたくないのに……
 散々王室に利用されて、挙げ句あっさり追放されたフェリシアにしてみれば、もう余計な厄介ごとに巻き込まれるのはごめんだ。
 自分の力が役に立つのであればいくらでも使いたいけれど、都合のいいようにこの力を搾取されるのは避けたかった。
 マチアスがそうだったから。彼はフェリシアをこき使い、手柄は自分のものとした。

「いえ、あの……」

 断ろうとしたものの、ふらつく体ではまともに宿も探せない。最悪野宿でも……と思ったけれど、今回のことで注目を浴びてしまったため、こっそりと、とはいかなそうだ。

「もしかして、そのお力については明かされたくないのでしょうか?」

 なんと察しがいいのだろう。クリストフにずばり問われて、素直にうなずいた。

「興味本位で気軽にお聞きしてしまい、申し訳ございません。もちろん、お話しにならなくても結構です。ですが、私たちの恩人をこのままお見送りするわけにはいかないのです。どうか、ささやかな恩返しをさせてください」

 紳士的なクリストフに驚く。
 マチアスの妃となってからフェリシアの周囲にはまともな人間がおらず、親切な言葉をかけられたのも久しぶりだった。

「それでは、お言葉に甘えさせてください。ですが……下ろしていただければ。そろそろ歩けるかと」

 周囲の兵士の視線が集まっており、恥ずかしい。

「それはできません。恩返しをさせていただくと申しましたよね」

 すぐに了承してもらえると思ったのに拒否されて、瞬きを繰り返す。整った顔でじっと見つめられては、鼓動が速まり制御できなくなるのに。
 マチアスの妻であったとはいえ、聖女の力を利用するためだけの白い結婚。そもそも女癖が悪く、胸の大きな女性ばかりを好むマチアスの目には、まな板とまではいかないが小ぶりな胸のフェリシアは映ってもいなかった。
 そのため、一度は結婚を経験しているとはいえ男性に免疫がなく、顔が真っ赤になっている自覚があった。

「馬車を待つよりこのまま歩いていったほうが早い。行きましょう」
「えっ、このまま?」
「はい、このまま。荷は運ばせますので、ご心配なく」

 クリストフはにっこり笑う。

「フェリシアさまの荷を運んでくれ」

 クリストフが近くにいた兵士に指示を出すと、筋骨隆々の男がトランクを持ち、そのあと剣にも手を伸ばす。

「なんだこれ……」
「どうした?」

 兵士の声に反応したクリストフは、尋ねた。

「こちらの剣が、重くて……。そのようなか細い体でお持ちになられるのですか?」

 兵士は剣とフェリシアを交互に見て、目を丸くしている。

「そんなに重くはないかと……」

 鍛冶屋かじやの店主も盛んに重いと話したけれど、ほかの剣に比べれば多少……という程度なのに。
 ――まさか、筋肉ムキムキの兵士より力があるのかしら、私。
 兄より剣術を極めてしまったフェリシアだけれど、さすがに腕力では兄に敵わなかった。彼は兄より鍛えているように見えるのだけれど……見せかけだけ?
 フェリシアが首を傾げていると、もうひとりの兵士も剣を手にしている。

「本当だ、重い」

 鍛冶屋かじやの店主だけならまだしも、何人もがそう言うのだから、やはり重いのかもしれない。

「お前たち、鍛え方が足りないのでは? 持てないほどではないのだろう?」
「はい、もちろん」

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