後悔

さたひろ

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後悔

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ついカッとなって幼い娘を叩いてしまった。
仕事で疲れていたのか、つい叩いてしまった。
大泣きした娘を妻が抱きしめて、何も言わず私を見る。
私は疲れていると自分に言い聞かせた。

高校生の頃、じいちゃんの髪をバリカンで刈るという話があった。
じいちゃんは、私に髪を刈ってもらうのを楽しみにしているという事だった。
次行ったらバリカンでじいちゃんの髪を刈ってあげようと思った。
ある日、じいちゃんは具合が悪くなって入院した。
じいちゃんは病気ですぐに死んだ。
タイミングが悪かったのだと自分に言い聞かせた。

小学生の時、集会所で書道の習い事をしていた。
その日は雲行きが怪しく、集会所に入って少しして大雨が降り出した。
すぐにやむだろうと思っていたが一向にやむ気配はない。
ふと、窓の外を見ると大雨の中傘を持った老婆がびしょ濡れになって歩いていた。
生徒の1人がそれに気付いて大笑いした。
他の生徒もみんな笑いだした。
あれは私の婆ちゃんだ。
婆ちゃんは、私が雨に濡れてはいけないと思い、わざわざ傘を届けに来てくれたのだ。
私は恥ずかしくなって婆ちゃんに暴言を吐いた。
「早く帰れ!そんな傘いらねーよ!!」
私はいつか謝ろうと思っていたが、それをせず婆ちゃんが死んだ。
そんな古い話、もういいよと自分に言い聞かせた。

もう1人の婆ちゃんが、介護が必要になって施設に入った。
婆ちゃんは私と血が繋がっていない。
母親やおばさんとも、あまり良い関係ではないようだ。
幼い頃から、どこか私によそよそしさがあった。
でも、私を可愛がってくれた。
そんな婆ちゃんと私の関係が、母親は嫌なように見えた。
婆ちゃんは血の繋がっていない私の事をどう思っていたのだろうか。
私は妻になる彼女を婆ちゃんの施設に連れて行って挨拶させた。
別れ際、婆ちゃんは大泣きしていた。
血が繋がっていなくても関係ねーよ!って言いたかったが言えなかった。婆ちゃんの涙が何なのか分からなかったからだ。
しばらく経って婆ちゃんは死んだ。
私の事を血が繋がっていなくても可愛い孫だと言いたかったのだと、私は自分に言い聞かせた。

余命宣告された父と仕事について話した。
もう父もすぐに死ぬと分かっているようだ。
私はそれを知らないフリして、仕事について話した。
父は私に何か言いたそうだ。
私は父が嫌いだったが、そんなに弱っている姿を見たくなくて、何も言わせないように仕事について話した。
父は私に何を言いたかったのだろう。
私は今、父と同じ立場になった。
それでも、私に何を言いたかったのか分からない。
私も死ぬ前になったら、父の言いたかった事が分かるのだろうか。
いつか分かるだろうと、私は自分に言い聞かせた。

いくら自分に言い聞かせても記憶から消えないのは何故だろう。
もう古い話なのに、ふと思い出して「後悔」することがある。
ついこの間5歳の娘が悪さをした。
私に謝りたそうだが意地を張って謝らない。
明日私が死んだら、娘も「後悔」するのだろうか。
私は娘と一生懸命会話した。
まだ5歳だから理解できない部分もあったが、とにかくたくさん会話した。
これから私も妻も娘もみんな色々な「後悔」をするのだろう。
今日もきっと寝る前に何かの「後悔」を思い出すのだろう。
後悔のない生き方をしよう、きっと今日も寝る前に私は自分にそう言い聞かせるのだろう。
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