魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉

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5.女神様に胃袋をつかまれました

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 最近の日課となりつつある一ノ瀬との夕食。
 あれから一週間、結局毎日、一ノ瀬の世話になっていた。夕食後のコーヒーは二人ともブラック派だ。

「なぁ、一ノ瀬?」
「なぁに?」
「俺としては、美味いご飯が食べられてありがたいんだが……その、いいのか?」
「ん?夕食のこと?」

 完全に胃袋を掴まれつつある、というか掴まれた俺が言うのもあれだが……恋人同士でもない関係で、毎日のように夕食を作ってくれる同級生というのは、いかがなものかと思う。
 この状態を学校の連中に知られでもしたら、一ノ瀬にとっても良くない噂が流れるかもしれない。
 今まで自分の分だけだった食事を、俺の分まで余分に作っていることで、負担も増えているだろうに。

「……相沢君は迷惑かな?」
「いや、そんなことはない。めちゃ助かってる。俺一人ならほぼコンビニ弁当だからな」

 それに関しては間違いないだろう。自慢じゃないがもの凄く自信ある。あ、時期的にコンビニ弁当がコンビニおでんに代わることがあるくらいか。

「じゃあ、いいじゃない」
「でもなぁ、正直お前の負担が増え過ぎてないか?」
「そんなことないわ。料理って一人前をキッチリ作るより、二人前とか三人前作った方が材料も無駄なく使えるし、作りやすいの……それに、いつも一人で食べるのって寂しいし、相沢君は残さず美味しそうに食べてくれるから、作ってる側としても嬉しいのよ。料理すること自体も好きだしね」

 なるほど、そういうものなのか?俺は全く料理しないからその感覚はわからないが、一ノ瀬が言うならそうなんだろう。

「そうか……だが一ノ瀬よ、一人暮らしの男の部屋に毎晩来るのはどうかと…一応俺も男だし、何かあったらとか考えないのか?」
「それなんだけど、相沢君ってさ……私に興味ないでしょ?」

 一ノ瀬から返ってきた返事は予想していたものとは違った。これってどう答えるのが正しいんだ?答えに詰まっていると、砕いて言い直してくれた。

「……相沢君って、私を恋愛対象として見たり、性的な、いやらしい目で見たりしてないでしょ?」

 なるほど、そういうことか。確かに俺は、そういう目で一ノ瀬を見ていない。と言うよりも、誰かを好きになる、という感情がよくわからない。

「そう言われれば……そうだな」
「でしょう?相沢君からは、他の男子みたいな不快な視線を感じないもの。私の見る目が確かなら、相沢君は安心できる人よ」
「だが、俺だって男だ……何かの拍子でムラムラして突然襲い掛かったりするかもしれない。そうなったら、どうするんだ?」
「その時は、私の見る目がなかったって事かな……襲ってみる?」

 おっと、これはどうしたらいい?冗談なのはわかるが、乗った方がいいのか?

「いいのか?遠慮しないぞ?」
「うん……遠慮しないで……いいよ……」
「……」
「……」

 しばらく無言でお互い見つめ合っていたが、俺が先に折れた。

「はぁ、俺の負けだ……ただ、俺以外にそんな事するなよ?無事で済まない保証だけはしてやる」
「ふふっ……もちろん、絶対にしないわ。でも、私ってそんなに魅力ないの?」
「いや、そんなことない。魅力ありすぎてヤバい。ただ、こういうやり方は違うって思うんだよな」
「真面目なのね。相沢君は、誰か……好きな子とかいないの?」
「いないな。そもそも俺の記憶にある限り、女の子を好きになったことはない」
「えっ?……そうなの?じゃあ、もしかして…………いや…………でも……」

 なんか急に一ノ瀬がそわそわしだしたが、何か変なこと言ったか?俺の方をチラチラ見たり、目が合うと逸らしたり、何か言いたそうな感じだ。
 やがて、コーヒーを飲んで、「ふぅ」と一息ついてから意を決したように言った。

「もしかしてだけど、相沢君って……男の子が好きなの?」
「………………は?」

 一ノ瀬が出した、ぶっ飛んだ結論に思わずマヌケな声で返事をしてしまった。もし、コーヒーを口に含んでたら、盛大に噴き出してぶっかけてる自信すらある。 

 何でこうなった?

「だって、女の子に興味ないならそうなのかなって……私はあまりよくわからないけど、友達にBLっていうのが好きな子がいるし……」
「いやいやいやいや、それだけは絶対にない!」
「ホントに?」
「もちろんだ。俺はさ、何ていうか……人を好きになるって感覚がよくわからないんだよ。カップル見ていいなって思ったりとかもするし、女の子見て可愛いなぁって思ったり、ちょっとした仕草にドキドキしたりもするけど、好きになるっていうのはよくわからない」
「へぇ~そうなんだね……なるほど、なるほど~」

 一応納得してくれたのだろうか、うんうんと頷きながら何か考えているようだ。途中から話が変な方向に逸れてしまったが、いつも男子から言い寄られてる一ノ瀬はどうなんだ?

 今の話の流れからなら、切り出しても違和感ないだろうか。

「なぁ、一ノ瀬はどうなんだ?あれだけ告白されてて、誰とも付き合ってないのか?」
「ないわね。だって、ほとんどの人が一度も話したことすらないのよ?それなのに、付き合ってくださいとか意味がわからないわ」

 なんだと?それは恋愛初心者な俺でも愚策なのはわかるぞ。
 まぁ、一ノ瀬がその気になれば、男の1ダースくらいどうとでもなりそうだが。

「それにね、私は付き合うなら……自分から告白するわ。だから……今は誰とも付き合わない」

 そう言った一ノ瀬は一瞬、何か諦めたような表情を浮かべた。
 一ノ瀬にも何か理由というか、悩みみたいなものがあるのだろう、流石にそこまでプライベートに突っ込める関係でもないし、するべきでもない。
 う~ん、ちょっと暗い雰囲気になってしまった。

「なるほど、じゃあ、一ノ瀬と付き合いたいなら、惚れさせればいいわけだな?」
「え?……ま、まぁ、そういうことになるかな?……あ!もしかして、相沢君が惚れさせてくれるの?」

 そう言って、一ノ瀬は急にニコニコしだした。
 おいおい、いくらなんでも俺が一ノ瀬を惚れさせるなんて、無理ゲーじゃねぇか。

「いや、普通に無理だろ?もし、そんなことがあっても、一ノ瀬が俺に惚れるまでに俺が一ノ瀬に惚れるだろ?そうなったらゲームオーバーだよな?」
「むぅ~、その時は、告白しないで待っててくれたらいいのよ。それならゲームオーバーにならないでしょ?」
「ということは……俺は何もしないで今まで通り過ごしていればいいというわけだ」

 それなら簡単だ。なんの問題もない。

「え?それはダメ。あの手この手で私を惚れさせる努力をしてもらわないと……」
「そんな簡単に惚れてもらえたら苦労はしない。俺ができる事は筋トレくらいだぞ?」
「う~ん……手強いな~。とりあえず、相沢君には女心を勉強してほしいかも」
「断る。めんどくさそうだ」
「え~っ……じゃあ、私には他の女の子より優しく接してほしいな」
「ん~それはもうしてるぞ」

 俺が他に接してる女の子なんて菜摘くらいだ。菜摘よりは優しくしてるはず。

「えへへ……そうなんだ……ありがと」

 ちょっと拗ねたような顔になったり、笑顔になったり忙しい奴だ。
 しかし、一ノ瀬にもっと自分の魅力を知ってほしいと思うのは俺だけだろうか?
 女神様の笑顔は破壊力満点だった。



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