魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉

文字の大きさ
4 / 46

4.初めての共同作業

しおりを挟む
 午前9時。
 昨日の約束通り、女神様が汚部屋にやってきた。もちろん私服だ。白のTシャツにデニムパンツという動きやすい服装で髪はポニーテールにしている。やはり美人はどんな格好でも美人なのだと納得だ。

「じゃあ、順番に片付けていきましょう。とりあえず、相沢君は、この大量のごみを分別して出してきて。私はその間にキッチンの掃除をするわ」
「はい、わかりました、一ノ瀬先生」

 今日は完全に一ノ瀬主導だ。俺は言われたことをする作業員に徹するのが、一番スムーズにいくだろう。
 とは言え、ごみ出しだけで何往復すればいいのか。自業自得とはいえ、これは大変だ。
 何度目かのごみ出しを終えた時だった。

「ねぇ、相沢君、これは何なの?」

 そう言って冷蔵庫のドアを開けた。中には大量のスポーツドリンクと筋トレのお供、サラダチキンのみ入っている。いつも通りの俺の見慣れた光景だ。

「見ての通り、スポーツドリンクとサラダチキンだが、何かあったか?」
「はぁ、聞いた私が間違ってました。相沢君って料理は?」
「自慢じゃないが全くできない。炊飯器でご飯炊くのとカップラーメンくらいなら作れる」
「偉そうに言うことじゃないよ?この状況見たら予想通りだけど。あと、フライパンとかの調理器具が全くないんだけど、何もないの?」
「あぁ、使ったことないからな。確かこっちに」

 引っ越してきたときに母さんが揃えてくれた調理器具一式が段ボールに封印されたままだ。母さんが来るまでに、これを開ける日がくるとは。

「あ、ちゃんとあるんだ。しかも結構良いものじゃない」
「母さんが揃えておいてくれたからな。入学したときに」
「入学したとき……ね……半年間も眠ったままとか勿体ない」

 一ノ瀬がジト目を向けてくるがスルーする。気にしたら負けだ、というよりこの戦場で一ノ瀬に勝てる気がしない。
 調理器具出されても使う予定がないし使えない、下手したら次に触るのが引っ越しするときとかありえるからな。それを言おうかと思ったが、なんだか言ってはいけないような気がしたので、やめておいた。言ったら多分怒られる。
 
「とりあえず、これをセッティングしたらキッチンは終わりね。全くと言っていいほど使った形跡がなかったから掃除は楽だったけど」
「大丈夫だ、これからも汚れる心配はない」
「それはそれで問題よ。あれれ?」
「どうかしたか?」
「今気付いたけど、ここって私の部屋より間取り広い気がする。」
「ああ、この階までは2LDKで上の階は1LDKって聞いたぞ」
「一人暮らしなのに、なんでそんなに広いところに住んでるの?」
「契約したのは親だから俺には何も言えないが、たまには泊りに来るかもとか言ってたような気がする。半年間放置されてるけどな」

 家賃も高くなるし、俺一人ならこんなに広くなくてもいいって言ったんだけどな。もしかしたら、散らかって物が置ききれなくなることを前提に、この広い部屋にしたとか?そうだとしたら母さんすげぇ。
 それでも、月に1回でも母さんが来てたら、ここまで散らかりはしなかったかもしれない。いや、掃除をしない俺が悪いのはわかってる。皆まで言うな。

「ふ~ん、リビングもちょっと広い気がする。でも、こんなに散らかしたら部屋が可愛そうよね」
「まぁ、片付いたら、できる限り散らかさないように善処する」
「ホントに?」
「……できる限りは」
「はぁ、まあいいわ。とりあえずどんどん片付けていきましょう」

 俺は基本的に一ノ瀬に言われた通りに動くだけだが、部屋がどんどん片付いていく。散らかった服は一ノ瀬に畳まれ、いらないものはどんどん捨てていく。
 一ノ瀬の手際の良さに脱帽だな。

「さてと、結構片付いたね。そろそろお昼にしましょ。ちょっと待っててね」

 それだけ言うと、一ノ瀬は部屋を出て行って5分ほどで帰ってきた。でかい包みを持って。

「口に合うかわからないけど、どうぞ」

 目の前には色とりどりのサンドイッチ。ハム、たまご、ポテトサラダ、カツ、レタスなど種類も多いが量も結構ある。

「うおっ、すげぇ!これ全部作ったのか?」
「うん、昨日見た感じ、絶対料理してそうになかったし、今日もキッチンが使えないのはわかってたから」
「ってかこれだけ作ったんだから結構早起きしたんじゃ?」
「そんなことないの。料理は好きだから問題ないしね。さぁ、そんなことより早く食べましょう」

 そんなことあるだろうと思いつつも、今は一ノ瀬に感謝だ。
 とりあえず一口……モグモグ……うまっ。何これ、売ってるのよりずっと美味い。あまりの美味しさに手が止まらず、気が付けば四人前くらいはあったサンドイッチがキレイになくなっていた。

「ごちそうさま。めっちゃ旨かった」
「良かった~でも、さすが男の子。凄い食欲ね~」
「いや、これだけ旨かったらいくらでも食える」
「ありがと。そう言ってもらえると作った甲斐があるわ」

 食後に一ノ瀬がコーヒーを淹れてくれた。これも一ノ瀬が持参してくれたものだ。
 飲み終わったら残りの掃除。一ノ瀬主導の元、俺の部屋は今までで一番綺麗な状態になった。

「とりあえず、こんな感じでいいかな。ね、相沢君……あれ?どうしたの?」
「……いや、こんなに綺麗になるとは……」

 ビフォーアフターを携帯で撮っておけば良かったと思う。

「まだまだ細かいとこはできてないけど、最低でもこの状態は維持してね」
「……一週間くらいなら、自信ある」
「散らかしてないか毎日確認にくるからね。ちなみに、明日は細かい部分の掃除をするから」

 そう言って笑顔でウインクする一ノ瀬はやっぱり可愛い。
 健全な男子高校生には毒過ぎるだろ、強制的に意識させられてしまう感じだ。
 一ノ瀬なら変顔とかしても可愛いのではないかと思ってしまった。見てみたいが、やってくれと言ってやってもらえるものでもないからな。
 俺が勝手にドキドキしていると、キッチンのほうから「ご飯炊けた~」とか聞こえてきた。夕食はカレーだった。昨日の夜から仕込みしていたそうだ。

 余談だが、エプロン姿の一ノ瀬は最高だった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

静かに過ごしたい冬馬君が学園のマドンナに好かれてしまった件について

おとら@ 書籍発売中
青春
この物語は、とある理由から目立ちたくないぼっちの少年の成長物語である そんなある日、少年は不良に絡まれている女子を助けてしまったが……。 なんと、彼女は学園のマドンナだった……! こうして平穏に過ごしたい少年の生活は一変することになる。 彼女を避けていたが、度々遭遇してしまう。 そんな中、少年は次第に彼女に惹かれていく……。 そして助けられた少女もまた……。 二人の青春、そして成長物語をご覧ください。 ※中盤から甘々にご注意を。 ※性描写ありは保険です。 他サイトにも掲載しております。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。

遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。 彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。 ……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。 でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!? もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー! ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。) 略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)

【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ
恋愛
「好きって言ってないのに、なんでバレてるんだよ!?」 ──平凡な男子高校生・真嶋蒼汰の一言から、すべての誤解が始まった。 購買で「好きなパンは?」と聞かれ、「好きです!」と答えただけ。 それなのにStarChat(学園SNS)では“告白事件”として炎上、 いつの間にか“七瀬ひよりと両想い”扱いに!? 否定しても、弁解しても、誤解はどんどん拡散。 気づけば――“誤解”が、少しずつ“恋”に変わっていく。 ツンデレ男子×天然ヒロインが織りなす、SNS時代の爆笑すれ違いラブコメ! 最後は笑って、ちょっと泣ける。 #誤解が本当の恋になる瞬間、あなたもきっとトレンド入り。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

陰キャの俺が学園のアイドルがびしょびしょに濡れているのを見てしまった件

暁ノ鳥
キャラ文芸
陰キャの俺は見てしまった。雨の日、校舎裏で制服を濡らし恍惚とする学園アイドルの姿を。「見ちゃったのね」――その日から俺は彼女の“秘密の共犯者”に!? 特殊な性癖を持つ彼女の無茶な「実験」に振り回され、身も心も支配される日々の始まり。二人の禁断の関係の行方は?。二人の禁断の関係が今、始まる!

クラスで1番の美少女のことが好きなのに、なぜかクラスで3番目に可愛い子に絡まれる

グミ食べたい
青春
高校一年生の高居宙は、クラスで一番の美少女・一ノ瀬雫に一目惚れし、片想い中。 彼女と仲良くなりたい一心で高校生活を送っていた……はずだった。 だが、なぜか隣の席の女子、三間坂雪が頻繁に絡んでくる。 容姿は良いが、距離感が近く、からかってくる厄介な存在――のはずだった。 「一ノ瀬さんのこと、好きなんでしょ? 手伝ってあげる」 そう言って始まったのは、恋の応援か、それとも別の何かか。 これは、一ノ瀬雫への恋をきっかけに始まる、 高居宙と三間坂雪の、少し騒がしくて少し甘い学園ラブコメディ。

処理中です...