魔法使いの少年と学園の女神様

龍 翠玉

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7.女神様と噂話

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 月曜日。
 いつもと変りなく学校に着き、自分の教室に入ると、普段より騒がしい感じがした。
 何があったのかは知らないが、特に気にすることもないだろう。自分の席に座ってると、少し眠そうな顔の浩介がやってきた。

「オッス、優希」
「浩介、おはよう。なぁ、なんか騒がしいけど何かあったのか?」

 浩介は俺と違って友達も多いから、何か知ってるかもしれないと思い聞いてみた。
 意外と事情通なのである。

「おいおい、お前知らないのかよ。大ニュースだ!今、校内は週末に女神様が男とデートしてたって話で持ち切りだぜ。年上のイケメンだそうだ。ファミレスで一緒に飯食ってるとことか、一緒にスーパーで買い物してたところを何人も目撃してるらしいぜ」

 マジか……穂香も知り合いには誰にも会わなかったと言っていたが、結構見られてたってことか。少々離れていてもあれだけの美人は目立つからな~。
 だが、とりあえず事実確認だけしておかねば。

「初耳だな。その相手の男は誰かわかってないのか?」
「お、何だ?お前も気になるのか?相手の男はこの学校の生徒ではないだろうってことだ。多分、大学生とかじゃないか?結構年上っぽいみたいだしな」

 なるほど、どうやら俺だとはバレてないらしい。あまりしつこく聞くと疑われそうだし、適当に切り返しておくか。

「まぁ、一応ホットな話題くらいは共有しておきたいからな。また、何かわかったら教えてくれ」
「ああ、わかった」

 朝から美味い朝食を作ってくれた同級生に、火消しよろしくと心の中でエールを送り、俺は机に突っ伏して授業まで時間を潰した。

「結局、いとこの人って話らしいな~」

 昼休み。俺はいつものメンバーと昼食を食べていた。穂香が上手く言ってくれたのだろう、昼休みには朝のような喧騒はなくなっていた。

「私は、穂香さんの非公認ファンクラブの方々のキモさにドン引きです。どちらにしろ、あの方々には夢も希望もないのですから、さっさと解散すればいいのです。それが穂香さんの幸せに繋がりますし、世の中の平和のためになるのです」

 ファンクラブの連中など、朝は悲壮感漂う表情で男の情報を集めてたらしいが、いとこだとわかった途端、笑顔で握手し出したり、雄たけびをあげながら抱き合ったりしてたらしい。
 まぁ、菜摘がキモイというのもわかる気がする。
 ちなみに、この時まで知らなかったが、菜摘は穂香と同じクラスで仲良いみたいだ。この辺りは、ボロが出る前に穂香と共有しておかないといけない。

「あいつらは女神様を崇拝してるからな、最初に噂を聞いたときは、気が気じゃなかったんじゃないか?」
「そんなもんか?俺にはわからん感情だな」
「なぁ、ナツは他に何か知らないのか?」

 浩介が聞くと、菜摘は持っていた紙パックのいちごオレをちゅーっと飲み干して、一息ついてから言った。

「そうですね、今、穂香さんには女子達が群がってるかもしれないです。穂香さんのマル秘デートを目撃した女子達が、一緒にいた人が彼氏じゃないなら紹介して欲しいとか、そんな感じで迫っているので。今日は私は昼休みギリギリまでここにいますね。巻き込まれたくないので」

 セーフだと思っていたが、厄介事が舞い込んできそうな予感がする。
 俺のクラスの昼休みは、いつものように浩介が菜摘に言葉でえぐられて、クラスのみんなから温かく見守られるという、普段と変わらぬ時間が過ぎていた。

 夕方、いつものように穂香が夕食作りにやって来たが、何となくいつもより疲れてる感じがするな。やはり、かなりの質問攻めにあったのだろう。

「大変だったそうだな」
「ホントによ~半分はユウ君のせいだよ?」
「結構目撃されてたみたいだからな~」

 穂香によると最初はみんな遠慮してたが、誰か一人が話しかけてきてからはずっと質問攻めにあってたらしい。

 男子には一緒にいた男との関係、女子には一緒にいた男の事を聞かれることが多かったそうだ。
 俺との関係はともかく、俺のことなど聞いても仕方ないだろうに。

「ユウ君の事めっちゃ聞かれたよ。女の子に。彼女はいるのかとか、何してる人なのかとか……モテモテだね~」
「なぜだ?俺だということはバレてなかったのだろ?」 
「うん、そうね。残念ながら?バレてなかったわ。あ、みんなには従兄の大学生で、彼女はいるか知らないから、今度聞いておくって言っておいたから」

 上手くやってくれたようだ、ありがたい。色々面倒くさいことになると嫌だから、彼女はいるということにしておいてもらおう。

「そういや、穂香は菜摘と仲良いのか?」

 昼間に気になったことを思い出したので聞いてみた。

「菜摘って清浦菜摘?なっちゃんなら仲良いけど、どうして?それに何で呼び捨てなの?」

 いつの間に作ってあったのか、麦茶をコップに注いで持ってきてくれた。
 ジト目を添えて。

「あ~、友達の浩介の彼女が菜摘なんだよ。いつからだったか菜摘って呼んで欲しいって言われて、それからは菜摘って呼ばないと返事してくれないからな、あいつ」
「へぇ~、ふ~ん、そうなんだ……なるほどね~あ、なっちゃんいつもお昼は、彼氏の所に食べに行ってるみたいだけど、もしかしてユウ君も一緒なの?」
「そうだな。毎日、目の前であいつらの夫婦漫才を見せられてるよ」

 時々、俺にも流れ弾がくるけどな、と付け加えると、御愁傷様って感じの表情を返された。
 穂香によると、菜摘を呼び捨てにしてる男子はクラスにはいないらしく、結構気に入られてるはずとのことだ。

 菜摘は彼氏持ちなのに、その可愛らしい外見から結構告白されることがあるみたいだが、その度に言葉のナイフで相手をバッサリ切るので、フラれた側はかなり心を折られるらしい。

「ユウ君は、なっちゃんみたいな感じの子は、好きじゃないの?」
「外見は可愛いし、性格とかも良いとは思うが、俺ではあの口撃に耐えられん。男として浩介を尊敬するよ」
「そうなんだ。私は、その浩介君と話したことないから知らないけど、二人のやり取り見てみたいかも。私も一緒に昼ご飯食べに行こうかな~」

 突然、穂香がとんでもないことを言い出した。いや、それは色々とマズイ。
 浩介も菜摘も俺が穂香とこういう関係にあることは知らない。あの二人が大丈夫でも、周りからは、何であいつが女神様と飯を?みたいな空気になることは間違いない。

 何とか色々理由を並べて、とりあえず突撃してくるのは避けられたが、その代わりと言ってはなんだが、もう一つ、強力な爆弾を投下していった。

「明日から、ユウ君の分もお弁当作るから、忘れずに持っていってね。忘れたら直接教室に届けに行くから」

 女神様は俺を困らせるのが好きらしい。


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