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ノーム編
第63話 土くれの身体
しおりを挟むサラマンダーとノームが激突した大広間はすぐにめちゃくちゃになった。
それでも妖精の樹が無傷なのは、宝石の精霊の王が守ったからだ。
「やるな、ノームよ」
地面に伏していたサラマンダーが立ち上がる。
ノームはどうなったのだろう。わたしはノームが吹っ飛ばされた方を向く。
「……さすがに、無傷とはいかないか」
立ち上がったノームは片腕を失くしていた。
だけど、血は出ていなくてポロポロと何かの欠片が落ちている。
眼光を鋭くしたまま、サラマンダーが言葉をこぼす。
「やはり土くれの身体か」
「土くれ……、そっか!」
サラマンダーの言うことで、からくりを理解した。あれはノーム本体ではなくて、ノームが操っている土の人形だったんだ。
ノームの分身は口の端をゆがめて笑う。
「わたしの正体が分かったからといって、どうなると言う。わたしはそこにはいない。つまり、いくらこの美しき私を倒しても無意味ということだ!」
「げげッ!」
一体だったノームの人形が、城の土の壁から何体も湧き出てきた。一体なら美しいとも言えたノームの人形だったけれど、こう何体もいたのではとても気持ち悪い。
エルメラがわたしの髪を引っ張って叫ぶ。
「ユメノ! 後ろからも!」
振り返るとすぐ後ろの壁から、ノームの人形が出てきていた。
「きゃあ!」
「ユメノに触れるでない!」
髪を掴まれたけれど、飛んできてくれたサラマンダーがノームの人形を焼いて助けてくれた。焼かれたノームの人形は、もろかったのか、すぐにボロボロと崩れ落ちる。
最初の一体が悔しそうに顔をゆがめた。
「おのれ。美しきわたしを」
「何が美しきよ! こんなのホラーでしかないわよ!」
しかし、そう言っている間にも襲い掛かってくる人形たち。
サラマンダーが身体ごと体当たりしてかばってくれる。
「まずい! ユメノ、背中に乗れ!」
「うん!」
わたしはサラマンダーの背中に飛び乗った。
すると、サラマンダーは部屋全体に大きくブレスを吹いた。
「ぎゃああああ、わたしの麗しい肌が! 乾燥してしまう!」
どうやら効果てきめんのようだ。
土だから火に焼けてもあまり効果がないように思えるけれど、肌が砂漠みたいに乾燥しちゃっているからだろう、美しさ重視のノームは苦しんでいる。精神に直接攻撃しているようだ。
このまま押し切ってしまおうというときだ。
「そこまでよ! 火の精霊の王サラマンダー!」
女の人の声が響いた。
声の方向を見ると、入り口に花の精霊の女王が立っている。
それに、あれは……。
「イオ!?」
イオは花の精霊の女王のツタのような髪によって捕らえられていた。
「これが見えないかしら。あなたたちの仲間でしょう。傷つけられたくなければ、ノーム王への攻撃はよすことね」
花の精霊の女王は鋭い棘の生えた茎をイオに近づける。
イオの頬から血が一筋流れた。
「イオ!」
「ぬぅ。卑怯であるぞ!」
サラマンダーはそう威勢を張りつつも、地面に降り立つ。
肌や腕を修復したノームの一体が、笑みを浮かべながら花の精霊の女王に近づく。
「ああ、この者を待ちかねていた。でかしたぞ!」
「ノーム王の仰せのままに」
ノームへ、恭しく花の精霊の女王。
「ん? ちょっと待って! サラマンダーを止めるためのイオじゃないの!?」
さっきの言い方だと、それ以外の目的があるように聞こえる。ノームは形の良い唇の口角をあげて不敵に笑んだ。
「お前、先ほどわたしの声を笑っていたな。実を言うとわたしも気にしていたのだ。自分の声は美しくないと」
「いや、まあ、姿と声がマッチしてないだけで、美しくないわけじゃ……」
むしろ小人のおじいちゃんの姿ならパーフェクトだ。
「とにかく、わたしは気に入らなかった。しかし、こればかりはどうにも出来ない。そう思っていた。この者の声を聞くまではな」
ノームが両膝をついているイオを見下ろす。
「まさか!」
サラマンダーは何かに思い当たったようだ。
「ああ。この者を土で覆い、わたしの支配下に置く。そうすれば、美しき声で町の者たちにも話しかけることが出来るようになるということだ! この者さえいれば、わたしは完璧な存在へと昇華する!」
土だけじゃなくて、生きている人間まで操り人形にしようということだ。
一気にカッと頭に血が上る。
「そんな! イオのイケボを自分の物にしようとするなんて! そんなこと絶対にさせない! ホムラ! ミラー!」
ホムラとミラーがノームへ向かっていく。
「ふふふ。もう遅い」
ノームの右腕がドロッと泥のように溶けた。その泥がイオの顔へと落ちる。
駄目だ。イオがノームに乗っ取られてしまう。
そう思ったそのときだ。
「止めろッ!!」
カカの声だ。どこにいるかと思ったら、イオのスヌードに隠れていたみたい。
すごいスピードでノームに向かった。
ガンッ
衝突する音がする。カカはノームの顔面に思いっきり頭突きを繰り出したのだ。
「い、痛ってー!」
「ぐ、わ、わたしの顔が……」
「やった! すごい、カカ!」
ノームが手を引っ込めた。
「この程度で」
「ミラー、目くらまし!」
「きゅる!」
ミラーは白い花びらをノームと花の精霊の女王の顔に大量に張り付けた。
「このッ!」
「ホムラはイオのツルだけを焼き切って!」
「きゅるる!」
ホムラは青い炎でイオを拘束しているツルを焼く。
「この程度で!」
花の精霊の女王はさらに髪を操作して、イオを捕えようとした。でも、わたしたちはすぐそばに来ていた。そうなれば、こっちのものだ。
「よくぞ、隙を作ってくれたぞ!」
サラマンダーはイオをくわえて、ぶちぶちと拘束を引きはがす。
「待て!」
ノームが城の岩を操って、攻撃してきた。サラマンダーは避けるけれど、イオをくわえているからブレスを吐けない。
「逃げてくれ、サラマンダー!」
カカがわたしの所に飛んで来た。
「でも、妖精の樹を解放してないよ!」
後ろを振り返る。未だに妖精の樹は黒い花に囚われていた。
カカは無念を込めた声で小さくつぶやく。
「今は……、お前たち希望を守ることを優先するんだ」
「カカ……」
今すぐにでも妖精の樹を助けたいだろう。
それでも、カカはわたしたちを希望と呼んでくれる。
「サラマンダー、お願い! この城から出て!」
サラマンダーは、了解したといった様子で大きく羽ばたく。天井はない。空に逃げれば土の精霊のノームは手出しできないはずだ。
「逃がさないぞ!」
ノームだけでなく、花の精霊の女王と宝石の精霊の王の攻撃も来る。
それでも、サラマンダーは速かった。背後から襲い掛かってくる攻撃を避け、城の外へと飛び出すことに成功した。
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