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第十九話
しおりを挟む真尋に連絡を入れた三日後。真尋がセッティングしてくれた真咲と会う日だ。
しかし、爽次郎はある女性と向き合っている。
「はじめまして。鈴城カナデです。よろしくお願いします」
焼肉の炭火の煙の向こうに、ボブカットの愛らしい女性が座っていた。
真咲と真尋もいて、男女二対二。まるで合コンのようだ。
「なんで?」
爽次郎は隣の真尋を振り返る。真尋も苦笑いしていた。
「カナデは僕らの学生時代の友人なんだ。どうやら真咲が呼んだみたい」
すでにトングを手に肉を焼いている真咲と目が合う。すると不敵にフッと笑った。
なるほど。焼肉を食べるつもりはあっても、真咲には爽次郎と話をするつもりはないようだ。
「シュシュの編集者さんなんですよね。たくさんの入社志望者がいる豊読社に入社するなんて、本当にすごいです」
「いや、そんなことありません。まだまだ、新人ですし。あ、僕は尾形爽次郎といいます」
自己紹介しながら、本当に合コンみたいだなと思う。
少なくとも話しているのはカナデと爽次郎だけで、小野田姉弟は焼肉に夢中だ。
「すごいですよ。わたしは普通の中小企業の事務員だから憧れます」
「そ、そうですか?」
何度も褒められると悪い気はしなくなってくる。
「尾形さんはどうして出版社を受けたんですか? やっぱりエリートっぽいからですか」
カナデのいうことに爽次郎は首を少し傾けて考えた。
「エリートっぽい、とは思ったことありませんけれど。単純に好きだったからです。漫画、それも少女漫画が」
そう言えば、入社試験のときにも聞かれた。どこの会社でも聞かれる志望動機だ。
「最近では男性が少女漫画を読むことも珍しくないですよね。逆もですけれど、女性が少年漫画を読むのも普通。境界線があいまいになってきている。でも、それでも少女漫画にも少年漫画にも、それぞれの独特の雰囲気があって。僕は特に少女漫画の、夢咲真子が描き出す温かくて、どこか懐かしさや親しみを感じるキャラクターが好きなんです」
爽次郎の話を聞くと、カナデはふんわりと笑みを浮かべる。
「そっかぁ。真咲ちゃんが描く子はどの子も温かいもんね」
「あ。やっぱり鈴城さんは春リボや夏ハダも読んでいるんですね。僕はどっちも好きなんですけど、編集者になってやっと分かったんです! すごい進化していると思うんですよ! 夢咲真子は! 画力もかなり上がっていますけれど、春リボと比べてすごい漫画の技術が詰まっているんです!」
爽次郎はつい興奮して早口で話す。
「ただ小手先の技を覚えただけだよ」
真咲がカシュシュを網に乗せながら、ため息をつくように言う。
「真咲ちゃん」
カナデが慰めるように真咲の背中に手を当てた。
真咲は何故、自虐的なことを言うのだろう。あれだけ工夫の詰まった作品が、ただの小手先の技なはずがない。
「もしかして、自信がないんですか。真咲さん」
爽次郎の言葉に真咲の肩が微かに揺れた。
そんなはずはないと自分で言いながら爽次郎は自ら問う。あれほど少女漫画として大ヒットを飛ばしていて、何を自信を無くすことがあるのだろう。
二作目の夏ハダだって、連載期間は前作より短くなったが大円団で幕を閉じている。
「あ。もしかして、次の作品のアイディアが無いのがやっぱり。それなら、僕と一緒に――」
考えましょう。そう言う前に、真咲は立ち上がった。
「ごちそうさまでした」
手を合わせて爽次郎に頭を下げる真咲。それを爽次郎はポカンと見上げた。
「え! は、早くないですか!?」
まだ爽次郎は一枚も手を付けていないにも関わらず、肉が乗った大皿は半分が無くなっている。そのまま荷物を持って真咲はスタスタと店の出口へと向かう。
「ちょ、ちょっと待って」
爽次郎も慌てて立ち上がって追いかけようとした。
しかし、誰かに袖を掴まれる。振り返って見たら、袖を掴んでいるのはカナデだった。
「尾形さん。いまは真咲ちゃんのこと、まだそっとしておいて」
「鈴城さん?」
「真咲ちゃん。すごく頑張ったの。ずっと頑張っていて、いつも平気な顔をしていたけれど、今回は夏ハダが終わってショックだったの……」
「え?」
この様子だとカナデも何か事情を知っている様子だ。
「カナデ。それ以上は」
真尋にそう言われると、カナデは爽次郎の袖を離して顔を俯かせた。
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