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第三十話
九月初めに発売される雑誌シュシュ10月号。夢咲真子の読み切りは『アウトサイド・チェンジ』とタイトルがつけられて、56ページのボリュームで掲載された。
主人公はバレー部の体育会系の女の子とクラスメイトで引きこもりの男の子だ。二人の中身が入れ替わって様々な騒動を起こすという内容だ。
入れ替わった前半ではコミカルに混乱する二人のドタバタ劇が繰り広げらる。後半では二人の内面を丁寧に描き、最後には入れ替わりは解け、これから二人の恋が始まるかもしれないという終わり方だった。
後半は最初のネームからかなり手を入れた。夏ハダを多少意識して、爽次郎の意見も取り入れられている。そのため、爽次郎が初めて編集に携わった漫画だと胸を張って言える。
だからという訳ではないが、この漫画がとても好きだった。
そう感じているのはなにも爽次郎だけではない。
『夢咲先生の読み切り、めちゃくちゃ良かったよね!』
『十月号は永久保存しなきゃ!』
『二人のこのあとの続きが見たい!』
発売と同時にSNSでは夢咲真子のファンたちのコメントが賑わっていた。
否定的な意見も中にはある。それでも、圧倒的にファンたちが喜んでいた。そう、実感できるものだ。爽次郎は真咲にメッセージを送る。
『真咲さん、SNS見ていますよね! すごく評判いいですよ!』
『うん』
素っ気ない返事だが、以前の真咲ならこんなもの表面的なものだと否定していただろう。つまり真咲もファンが喜んでいることに喜びを感じているのだ。
しかし、爽次郎は釘をさすことを忘れない。
『わざわざファンの本音を探りに行かないでくださいね』
『分かっている』
真咲には裏のアカウント自体を消して欲しいと爽次郎は申し出たが、絶えず漫画の情報が入ってくるので絶対に消せないと言われてしまった。
ならばと、否定的な意見をわざわざ見に行ったり、ファンの本音を探ったりしないようにと言っている。
そういうことがしたくなった場合は、すぐに爽次郎に相談するようにとも。
『それで今後なんだけれど。漫画、また始めようと思う。だから、よろしく』
その一文を読んで爽次郎は思わず立ち上がった。少し素っ気ないけれど、ハッキリと真咲が漫画を始めると宣言するのは初めてだ。
「や、やった!」
拳を軽く振り上げた爽次郎。右隣の席の山中が尋ねてくる。
「何かいいことがあったのかい?」
「あ。えっと、真咲さんがまた漫画を始めようかって言っているんです」
シャキッとしなければとは思うが、どうしても顔がにやけてしまう。
「よかったじゃないか。尾形くんの熱意が通じたんだね」
そんな爽次郎を笑うことも無く、山中は朗らかに笑んで頷く。
「まあ、そうじゃないかと思ったけれどね」
左隣の瀬戸原も爽次郎を見て言う。
あれだけ辞めると豪語していた真咲が漫画に戻ってくるというのに、瀬戸原はいつもと変わらないテンションだ。
「そうですね。わたしも真咲さんが漫画辞めるとは思えませんでしたもん」
真咲が辞めるなら今だとまで言っていた水野でさえ、同じようなことを言う。
そんな二人を訝しげに見比べる爽次郎。
「……皆さん、真咲さんの言うことを本気にしていなかったんですか? 編集長に菓子折りまで持ってきたのに」
「確かに驚いたけれど、これまでも驚かされることもあったし。真咲さんは頭の中に物語があふれてしょうがないタイプだからね」
瀬戸原の言うことに「はぁ」と、爽次郎は未だによく分かっていない返事をする。確かに読み切りの打ち合わせでは、一意見を言うと百にしてアイディアが返って来た。プロの漫画家はそういうものではないのだろうか。
それより、返事をしないといけない。爽次郎はほったらかしにしているスマホの画面を見つめて、慎重に文章を選ぶ。
『それなら連載の企画を立てないといけませんね。何か書きたいものがありますか?』
『それなんだけれど……』
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