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第一章 学園転入編
第十五話 謎の日付
しおりを挟むそういえばと、向井さんが話を切り出す。
「部活の創設届けが出ていたな」
「ああ。トレジャーハンター部の。……先生たちにかなり怪訝な顔をされましたけど」
僕らは四人で入部届を持って、担任の先生を訪ねた。まず、何をする部活か僕と水上くんに説明を求めて来た。
たぶん、倉野さんが部活にしようと訴えて来たときは、日本語を間違えているか何かと思っていたのだろう。僕たちが学園に眠る宝を探す部だと言うと、先生は頭を押さえる。
しかも部長が倉野さんと来た。津川先輩はひとりだけ二年生だし、僕と水上くんは絶対に嫌なので消去法だ。
理事長の残した謎と見つけた箱を見せて、何とか納得してもらった。しかし、四人だけなら部室も顧問もいらないだろうと、同好会扱いだ。
これなら、やっぱり部活にこだわる必要なかったのではと思う。
「というか、この温室自体、いかにも宝が隠されてそうだよね」
水上くんはカレーパンをひと口かじって、首をめぐらせた。
確かにそうだ。どこかの木の根元に宝が埋まっていてもおかしくなさそう。
倉野さんが思い出しながら、たどたどしく川柳をなぞる。
「だけど、帰る王、渓谷の夜、星が交わる。温室のこと?」
「確かに夜になったら星が見え……、ないね。前は見えたのかな」
天井を見上げると、ガラスは曇っている。とても鮮明に星が見えるとは思えなかった。
「というか、この温室そんなに古くなかったはずだよ」
僕は本で見た情報を思い出す。施設の中でも最新のはずだ。何十年も続いている学園の宝が眠っているとは思えない。
向井さんがふと口を開く。
「それは最初のなぞかけじゃないな。どこにあった」
僕らが謎をいくつか解いたことに気づいたようだ。理事長から預かったからには気になるのだろう。
「えっと、最初の川柳は焼却炉の中に。二つ目の川柳は図書室のシンデレラの貸し出しカードの中にありました」
僕たちはテーブルの上に集めた川柳と折り紙を並べる。しげしげと上から眺める向井さん。少しだけ口元を緩めて、僕らに笑みを向ける。
「よく集めたな」
一瞬、意味を理解できなかったけれど、向井さんなりに褒めているようだ。
ちょっと照れつつ、僕はテーブルの上を指さしながら説明する。
「えっと、最初は三人で知恵を合わせて。二つ目は図書室に行ってからは津川先輩が見つけてくれたんです。あといくつあるかご存じですか?」
「さあな。何も聞いていない。おっと」
向井さんが黄色い靴の折り紙を地面に落としてしまう。そこは水を撒いたのだろうか、少し濡れていた。
「あれ?」
水上くんが折り紙を見て、何かに気づく。
「濡れたところが透けて、裏に何か書いてあるような……」
「えっ!」
僕らは向井さんが持つ折り紙をのぞき込む。確かに端の方だけが濡れていて、
「「数字だ!」」
僕と倉野さんは声を合わせる。紙が透けたところに数字が書いてあるように見えた。
「広げてみよう!」
黄色い靴の折り紙を慎重に開いていく。全部開ききると、本当に数字が書いてあった。
津川先輩が冷静な声でつぶやく。
「これは、……日付だね」
201×・10・7
十年以上前の日付だ。
「でも、何の日付?」
倉野さんがまじまじと日付を見つめる。僕はスマホで学園の年表を調べてみるが、そこまで詳しく載っているわけがなかった。
「うーん、時期的に体育祭か、文化祭かな。でも、だから何って感じだよね」
水上くんは自分で自分の推理にツッコミを入れている。
倉野さんがスマホを取り出し、少ししてから首をひねった。
「世界的に事件があった日でもない」
「これはすぐに答えは出ないのではないか?」
向井さんの言う通りだ。ヒントが無さすぎる。あとで調べるなり、なんなりした方がいいだろう。
「ゆっくり川柳の謎の方から考えるといい。じゃあな」
向井さんが去った後、僕たち四人はパンをかじりながらスマホで学園の見取り図を眺める。僕は思ったことを口にした。
「やっぱりさ。渓谷の夜の『渓谷』が一番ヒントになるんじゃない?」
渓谷、つまり有名な谷を探してみるしかない。僕らはスマホとにらめっこをする。
「世界遺産の谷があるよ。カトマンズの渓谷に、ムサブの谷、エルベ渓谷、グランドキャニオンっていうアメリカの国立公園の谷もある」
「谷なんて世界中、どこにでもある」
倉野さんが元も子もないことを言う。そんなことを言ったら、山だって、川だってどこにでもあるのだ。これは前の謎でも同じことを考えた。
「んー。そういえば」
水上くんが白鳥の折り紙を手にする。
「東棟の中庭に白鳥の像があったような……」
「そんなのあった?」
思い返す限り、中庭には緑は多いものの、装飾品は見かけなかった。
「たぶん、植え込みの中に埋もれていた気がする。よく見てないから、本当に白鳥の像かは分からないけれど」
倉野さんが口の端にカレーパンの粉をつけたまま、僕たちを首で促す。
「これ、食べたら見に行く」
お伺いでもない断定だ。最初の謎の独走を覚えている僕たちは半ば諦めるが、津川先輩がやんわりと笑む。
「今日は雨だから止めておこうか。埋もれているなら、きっと服も汚れてしまう。それに川柳を見ても、白鳥だけじゃ見つからないはずだ。晴れた日に行く方が最善だろうさ」
これに同調しない手はない。
「そうですよね。そうしましょう」
別段、急いでいるわけでもない僕と水上くんは同じリズムで首を縦に振った。
「晴れるのって、いつ?」
なぜか一人だけ急いている倉野さんは、スマホで天気予報をチェックする。晴れるのは三日後らしかった。
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