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第二章 オランダ旅行編
第六話 まずは練習から
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次の日、朝陽が完全に登りきった頃に、僕らは行動を開始する。
「本当に四台も入るのかな」
バートさんの車が大きいと言っても、自転車を積むスペースがあるだろうか。そうは思ったがすぐに杞憂に終わる。
「もう行くだけだよ」
ガレージに案内されて、車の後ろの積み荷を見せてもらう。中には半分に折りたたまれた自転車が四台入っていた。
「これぐらい軽いもんさ」
鼻歌を歌いながら、バートさんはドアを閉めた。僕らも車に乗り込み、出発する。
まだ眠気のある眼を擦りながら、街の様子を見る。やはり日本とは景色が全く違う。レンガ造りの建物ばかりだ。歩道の横には木々が植えてある。
僕はあれ?と思った。
「もしかして自転車専用の道路がある?」
木々の横を自転車に乗った人たちが軽快に走っていく。乗りなれているスポーツバイクが多い。
「そう。横断歩道を渡るときは気を付けて。アムステルダムは海だったところを陸地にしたから、平地ばかり。自転車で走りやすい」
倉野さんが自転車で移動しようとするはずだ。小回りが利く上に、専用の道路があるなら移動の時間も短縮される。
「さあ、着いたよ。フォンデル公園だ」
自転車を降ろして、バートさんとはここでお別れだ。普通のラフな服装をしていたけれど、きっと仕事だろう。
公園の入口で水上くんが思い切り伸びをする。
「んー! いいところだね。朝の空気も美味しい」
芝生が広がり、林もあり、奥には池があるのが見えた。入口に立っただけで広々としていることが分かる。憩いの場と言っていたけれど、確かにすでに散歩している人たちもいた。
「そうだね。ピクニックにはすごくいいところだと思うよ」
津川先輩の声は朝からずっと沈んでいる。よほど、自転車の練習をしたくないらしい。
そのいつになく丸まっている背中を倉野さんがバシッと叩いた。
「大丈夫! 貴由先輩、運動神経悪くない。すぐ乗れるようになる」
何を根拠にと僕でも思ったけれど、そういえば歩くのも走るのも早い。学園で謎を解いているときには、遅れて来るなんてことはなかった。
僕らが考えていることが分かったのか、津川先輩は口を開く。
「単純に歩くことや走ることは、人並みに出来るさ。図書室を行き来するのに、早く行こうと急ぐからね。ただ球技やバドミントンとか。道具を使った運動はからきしなんだ」
「確かに、そういう人ってたまにいるかも……」
運動神経が悪いわけではないのに、球技だけは苦手という、少し不器用と言った方がいい人が。
しかし、倉野さんがグッと親指を上げる。
「大丈夫。自転車は走るのと一緒」
「い、一緒?」
これほど困った顔をする津川先輩を見るのもまれだ。
「最初は自転車乗るのにバランスを取る。けど、あとから考えなくなる。走るときも一緒だったはず」
倉野さんの強引な持論。
だれも賛同しないと思いきや、水上くんが確かにとつぶやく。
「自転車は球技とは違うよね。あれは手先の器用さがいるっていうか。自転車は機体を身体の一部にするんだ」
スポーツ経験者の言うことは説得力がある気がするから不思議だ。
「とにかく、やるだけやってみようか」
僕らは自転車を押して、公園の奥へと向かう。
大きな道は自転車で通り抜ける人が多いので、邪魔にならない場所へ。
練習なので芝生の方が安心だろう。ヘルメットをかぶって、自転車にまたがる津川先輩。
「……補助輪はさすがにないよね」
子供用じゃないから、あるはずがない。ただ、スポーツバイクというわけでもなから、乗りやすいはずだ。
「まずは、ペダルに足を乗せるんだよね」
いちいち聞いて来るけれど、僕らはただ頷いて見守る。だけど、中々漕ぎ出そうとしない津川先輩。
「それで……、支えてくれないとさすがに」
「あ、ああ!」
僕は慌てて後ろに回った。自転車をはじめて練習したことなんて、はるか昔でやり方などすっかり忘れていたのだ。
「じゃあ、いくよ」
後ろを支えると、ふらふらしながら足を離す津川先輩。ペダルに何とか足を乗せて、回そうとした。
「うわっ!」
でも、すぐに斜めになって足をつく。
「ご、ごめ」
「大丈夫! ゆっくりペダルをこいで下さい!」
中々、ペダルを回転させることも難しそうだ。倉野さんが焦れて声を掛けて来る。
「止まっているから難しい! ちょっと進ませながら、バランスとる練習をした方がいいかも。透、変わろう」
「大丈夫かな……」
支える役を倉野さんと交代する。しかし、案の定開始十秒で転倒してしまった。
「これは先が長そうだね」
一番運動経験がある水上くんは、こっちで買ったお菓子をもぐもぐさせながら言う。あまり手伝う気はなさそうだ。
「本当に四台も入るのかな」
バートさんの車が大きいと言っても、自転車を積むスペースがあるだろうか。そうは思ったがすぐに杞憂に終わる。
「もう行くだけだよ」
ガレージに案内されて、車の後ろの積み荷を見せてもらう。中には半分に折りたたまれた自転車が四台入っていた。
「これぐらい軽いもんさ」
鼻歌を歌いながら、バートさんはドアを閉めた。僕らも車に乗り込み、出発する。
まだ眠気のある眼を擦りながら、街の様子を見る。やはり日本とは景色が全く違う。レンガ造りの建物ばかりだ。歩道の横には木々が植えてある。
僕はあれ?と思った。
「もしかして自転車専用の道路がある?」
木々の横を自転車に乗った人たちが軽快に走っていく。乗りなれているスポーツバイクが多い。
「そう。横断歩道を渡るときは気を付けて。アムステルダムは海だったところを陸地にしたから、平地ばかり。自転車で走りやすい」
倉野さんが自転車で移動しようとするはずだ。小回りが利く上に、専用の道路があるなら移動の時間も短縮される。
「さあ、着いたよ。フォンデル公園だ」
自転車を降ろして、バートさんとはここでお別れだ。普通のラフな服装をしていたけれど、きっと仕事だろう。
公園の入口で水上くんが思い切り伸びをする。
「んー! いいところだね。朝の空気も美味しい」
芝生が広がり、林もあり、奥には池があるのが見えた。入口に立っただけで広々としていることが分かる。憩いの場と言っていたけれど、確かにすでに散歩している人たちもいた。
「そうだね。ピクニックにはすごくいいところだと思うよ」
津川先輩の声は朝からずっと沈んでいる。よほど、自転車の練習をしたくないらしい。
そのいつになく丸まっている背中を倉野さんがバシッと叩いた。
「大丈夫! 貴由先輩、運動神経悪くない。すぐ乗れるようになる」
何を根拠にと僕でも思ったけれど、そういえば歩くのも走るのも早い。学園で謎を解いているときには、遅れて来るなんてことはなかった。
僕らが考えていることが分かったのか、津川先輩は口を開く。
「単純に歩くことや走ることは、人並みに出来るさ。図書室を行き来するのに、早く行こうと急ぐからね。ただ球技やバドミントンとか。道具を使った運動はからきしなんだ」
「確かに、そういう人ってたまにいるかも……」
運動神経が悪いわけではないのに、球技だけは苦手という、少し不器用と言った方がいい人が。
しかし、倉野さんがグッと親指を上げる。
「大丈夫。自転車は走るのと一緒」
「い、一緒?」
これほど困った顔をする津川先輩を見るのもまれだ。
「最初は自転車乗るのにバランスを取る。けど、あとから考えなくなる。走るときも一緒だったはず」
倉野さんの強引な持論。
だれも賛同しないと思いきや、水上くんが確かにとつぶやく。
「自転車は球技とは違うよね。あれは手先の器用さがいるっていうか。自転車は機体を身体の一部にするんだ」
スポーツ経験者の言うことは説得力がある気がするから不思議だ。
「とにかく、やるだけやってみようか」
僕らは自転車を押して、公園の奥へと向かう。
大きな道は自転車で通り抜ける人が多いので、邪魔にならない場所へ。
練習なので芝生の方が安心だろう。ヘルメットをかぶって、自転車にまたがる津川先輩。
「……補助輪はさすがにないよね」
子供用じゃないから、あるはずがない。ただ、スポーツバイクというわけでもなから、乗りやすいはずだ。
「まずは、ペダルに足を乗せるんだよね」
いちいち聞いて来るけれど、僕らはただ頷いて見守る。だけど、中々漕ぎ出そうとしない津川先輩。
「それで……、支えてくれないとさすがに」
「あ、ああ!」
僕は慌てて後ろに回った。自転車をはじめて練習したことなんて、はるか昔でやり方などすっかり忘れていたのだ。
「じゃあ、いくよ」
後ろを支えると、ふらふらしながら足を離す津川先輩。ペダルに何とか足を乗せて、回そうとした。
「うわっ!」
でも、すぐに斜めになって足をつく。
「ご、ごめ」
「大丈夫! ゆっくりペダルをこいで下さい!」
中々、ペダルを回転させることも難しそうだ。倉野さんが焦れて声を掛けて来る。
「止まっているから難しい! ちょっと進ませながら、バランスとる練習をした方がいいかも。透、変わろう」
「大丈夫かな……」
支える役を倉野さんと交代する。しかし、案の定開始十秒で転倒してしまった。
「これは先が長そうだね」
一番運動経験がある水上くんは、こっちで買ったお菓子をもぐもぐさせながら言う。あまり手伝う気はなさそうだ。
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