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第二章 オランダ旅行編
第十話 八月のアムステルダム
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倉野さんの家に帰ると、恒例のようにバートさんが酔っぱらっていた。
「おかえり。写真はいっぱい撮れた?」
「はい!」
撮った写真をバートさんに見せていく。満足そうに頷くバートさん。
「いいねぇ。旅行を満喫している。友人たちとこんなことが出来るなら、最高のサマーバケーションさ」
確かにタブレットを見たときは旅行を台無しにされるかと思ったけれど、サイクリングもして、観光もして十分充実している。
だけど、水上くんがふぅとため息をつく。
「この後の作業が大変なんだけどね」
同感だ。惑星に合う写真をたくさんの中から探すのはとても骨が折れる。
「まあ、作業は気長にやるといいさ」
津川先輩は慣れない自転車に疲れているようで、珍しく豪快な動作でソファにボスッと座り込んだ。
「でも、せっかくならチューリップ畑を見てみたかったな」
オランダらしい景色と言えば、どこまでも広がるチューリップ畑と風車だ。久しぶりに自分のために写真を撮って、定番の景色も写真に収めたかったと思った。
チューリップを見るなら、四月か五月はじめに来なければならない。
しかし、バートさんは口の端を上げてニヤリと笑う。
「いや。良い季節に来たと思う。オランダに来るなら、やっぱり八月だろう」
意味ありげな様子に僕らは推理する。
「八月……。日本よりは涼しいかな」
「とっても楽しいプールがあるとか。……七月にさせられたプール掃除大変だったなぁ」
「ああ。一年生はプール掃除させられるんだよね。僕も足を滑らせた記憶があるよ」
プールは学園の西側にある。部活棟の横、大西洋の位置だ。
屋外のプールで、デッキブラシを使って苔を落としていく。水泳の授業は楽しかったが、一年放置された苔を落とすのは、中々に大変な作業だった。
僕らがプールの話ばかりしていると、バートさんが後ろから豪快に肩を抱いて来る。
「なんだい、なんだい! 八月のアムステルダムと言ったら、音楽祭だろ!? 君たちもそのために来たって分かっているんだからな!」
「音楽祭?」
「アナベルは分かっているよな!」
しかし、バートさんの期待を余所に倉野さんはサラッと答える。
「あ。音楽祭の前にみんな帰る」
「か、帰る!?」
バートさんは持っていたビール瓶をひっくり返すほどの勢いでソファから立ち上がった。
音楽祭がどういうものかは知らないが、まさかこれほど驚かれるとは。
「だって、深志の親がどうしても、その頃には帰ってこいって」
「帰ってこいって……、そんな」
今度はクラクラとめまいがするような動作で、座り込んだ。やっぱり酔っているせいか、リアクションがオーバーだ。
「そ、そんなに楽しい音楽祭なんですか?」
僕は若干気を遣って質問をする。
「そりゃそうさ。たくさん、ステージが出来て、街のいろんなところで音楽が演奏される。十日もあるんだぞ!」
「十日も!?」
「うん。運河フェスティバル。何百という舞台が出来て、ボートに乗って聞けたりする」
倉野さんがまたもサラッと言った。
「そ、そんな楽しそうなイベントならあらかじめ言っておいてよ」
「だって、深志が。それにみんな、あんまり音楽に興味ありそうじゃない」
そう言われると僕ら三人は顔を見合わせる。
「僕は一応、クラシックを聴いていたけれど」
フィギュアスケートをしていた水上くんだけは、詳しそうな雰囲気を装った。楽団に入っているバートさんには信じられなかったようだ。
「そんな、どうしてみんなこんなことに。人生終わっているよ」
さすがにバートさんの言葉は日本語の間違いだと思うことにした。
「おかえり。写真はいっぱい撮れた?」
「はい!」
撮った写真をバートさんに見せていく。満足そうに頷くバートさん。
「いいねぇ。旅行を満喫している。友人たちとこんなことが出来るなら、最高のサマーバケーションさ」
確かにタブレットを見たときは旅行を台無しにされるかと思ったけれど、サイクリングもして、観光もして十分充実している。
だけど、水上くんがふぅとため息をつく。
「この後の作業が大変なんだけどね」
同感だ。惑星に合う写真をたくさんの中から探すのはとても骨が折れる。
「まあ、作業は気長にやるといいさ」
津川先輩は慣れない自転車に疲れているようで、珍しく豪快な動作でソファにボスッと座り込んだ。
「でも、せっかくならチューリップ畑を見てみたかったな」
オランダらしい景色と言えば、どこまでも広がるチューリップ畑と風車だ。久しぶりに自分のために写真を撮って、定番の景色も写真に収めたかったと思った。
チューリップを見るなら、四月か五月はじめに来なければならない。
しかし、バートさんは口の端を上げてニヤリと笑う。
「いや。良い季節に来たと思う。オランダに来るなら、やっぱり八月だろう」
意味ありげな様子に僕らは推理する。
「八月……。日本よりは涼しいかな」
「とっても楽しいプールがあるとか。……七月にさせられたプール掃除大変だったなぁ」
「ああ。一年生はプール掃除させられるんだよね。僕も足を滑らせた記憶があるよ」
プールは学園の西側にある。部活棟の横、大西洋の位置だ。
屋外のプールで、デッキブラシを使って苔を落としていく。水泳の授業は楽しかったが、一年放置された苔を落とすのは、中々に大変な作業だった。
僕らがプールの話ばかりしていると、バートさんが後ろから豪快に肩を抱いて来る。
「なんだい、なんだい! 八月のアムステルダムと言ったら、音楽祭だろ!? 君たちもそのために来たって分かっているんだからな!」
「音楽祭?」
「アナベルは分かっているよな!」
しかし、バートさんの期待を余所に倉野さんはサラッと答える。
「あ。音楽祭の前にみんな帰る」
「か、帰る!?」
バートさんは持っていたビール瓶をひっくり返すほどの勢いでソファから立ち上がった。
音楽祭がどういうものかは知らないが、まさかこれほど驚かれるとは。
「だって、深志の親がどうしても、その頃には帰ってこいって」
「帰ってこいって……、そんな」
今度はクラクラとめまいがするような動作で、座り込んだ。やっぱり酔っているせいか、リアクションがオーバーだ。
「そ、そんなに楽しい音楽祭なんですか?」
僕は若干気を遣って質問をする。
「そりゃそうさ。たくさん、ステージが出来て、街のいろんなところで音楽が演奏される。十日もあるんだぞ!」
「十日も!?」
「うん。運河フェスティバル。何百という舞台が出来て、ボートに乗って聞けたりする」
倉野さんがまたもサラッと言った。
「そ、そんな楽しそうなイベントならあらかじめ言っておいてよ」
「だって、深志が。それにみんな、あんまり音楽に興味ありそうじゃない」
そう言われると僕ら三人は顔を見合わせる。
「僕は一応、クラシックを聴いていたけれど」
フィギュアスケートをしていた水上くんだけは、詳しそうな雰囲気を装った。楽団に入っているバートさんには信じられなかったようだ。
「そんな、どうしてみんなこんなことに。人生終わっているよ」
さすがにバートさんの言葉は日本語の間違いだと思うことにした。
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