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第三章 学園祭準備編
第九話 問答無用
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次の日の朝。
教室に行くと、加賀くんが待ちかねていた様子で話しかけて来た。
「若狭くん。昨日、ダメだったみたいだね。部長から一週間後に勝負だって連絡があったよ」
「いや。一応、トレジャーハンター部が審査しなくて済んだから、成功なんじゃないかな。園芸部としては、結局スペシャルメニューを作らないといけないみたいだけど」
はははと、苦笑いしながら頬をかく加賀くん。
「これはもう、腹をくくるしかないみたいだね」
「あのさ。園芸部の部長さんと野球部の部長さんって、前から仲が悪いの?」
「え、うーん。それが誰も知らないんだよね。いや、僕が一年生で教えてもらっていないだけかもしれないけど」
「二人とも前から知っているみたいな口ぶりだったけど」
「まあ、三年生だから。三年もあったらきっと何かトラブルも起きるよ」
僕と加賀くんが話していると倉野さんと水上くんも登校してきた。
「でも、どうして園芸部の部長はあんなに気合入っている。野球部と張り合うため?」
「いや、張り切っているのは、たぶん憧れの先輩が学園祭に来るからだって、先輩たちは言っているよ。前の部長らしんだけどね」
僕と水上くんは顔を見合わせる。
卒業した先輩のために頑張るなんて、ありがちな話だろう。ただ、どう考えても小内先輩の鬼気迫る執念はそんな可愛いものには見えなかった。
放課後。僕と水上くんは先生に言われて、授業で使った資料を地理準備室へ運んでいた。長い筒状の巻物を横に渡して縦に並ぶ。
「だけど、スペシャルメニュー楽しみだなぁ。二人とも頑張るなら、二つとも出せばいいのに」
呑気に言う水上くん。僕らは審査員から外れたとはいえ、向井さんにその役目を押し付けたようなものだ。気が気じゃなかった。
「スペシャルメニューの勝敗にばかり意識が行くけど、本来の目的はどっちが西棟の食堂を使うか決めるための勝負だよ」
地理準備室の奥、大きな地球儀の横に巻物を立てかける。
「確かにね。憧れの先輩にいいところを見せたいなら、東棟でもいいのに」
「そこはほら。新部長として完璧にしたいんじゃない?」
やれやれ、やっと終わったと思いながら、僕と水上くんは地理準備室を出る。すると、隣の教室から大きな声が聞こえて来た。
「あーーーっ! また焦げやがった!」
「あ、あれは……」
窓から見える背中は、間違いなくエプロンをつけた野球部の部長、東野先輩だ。周りには丸刈りの野球部員らしき生徒たちもエプロンをつけている。
「もしかして、スペシャルメニューの開発?」
しかし、どう見ても上手くいってなさそうだ。
周りには焦げた鍋の残骸やぐしゃぐしゃに割られた卵の殻が散らばっていた。
「やっぱり家庭科部の協力がないと不利だよね」
「うん。いくらお祭りの屋台メニューといっても、スペシャルだから」
僕らはコソコソと話し終えると立ち去ろうとした。
だけど、さすが動体視力がいい。
「ああーーっ! お前ら、トレジャーハンター部だろう!」
見つかってしまった。その上、前のドアから出てきて僕らの前に立ちはだかる。
「いや、トレジャーハンター部ですけど、もう関係ないので」
「そうそう! 僕たちトレジャーハンター部は! 学園祭のときにスペシャルメニューを美味しくいただきます!」
美味しいもの大好きな水上くんは、何かを察知したのだろう。
僕も悪い予感しかしなかった。
「そういわずに、試食していけよ」
やっぱりだ。僕らは問答無用で東野先輩に家庭科室へと連れ込まれてしまった。
教室に行くと、加賀くんが待ちかねていた様子で話しかけて来た。
「若狭くん。昨日、ダメだったみたいだね。部長から一週間後に勝負だって連絡があったよ」
「いや。一応、トレジャーハンター部が審査しなくて済んだから、成功なんじゃないかな。園芸部としては、結局スペシャルメニューを作らないといけないみたいだけど」
はははと、苦笑いしながら頬をかく加賀くん。
「これはもう、腹をくくるしかないみたいだね」
「あのさ。園芸部の部長さんと野球部の部長さんって、前から仲が悪いの?」
「え、うーん。それが誰も知らないんだよね。いや、僕が一年生で教えてもらっていないだけかもしれないけど」
「二人とも前から知っているみたいな口ぶりだったけど」
「まあ、三年生だから。三年もあったらきっと何かトラブルも起きるよ」
僕と加賀くんが話していると倉野さんと水上くんも登校してきた。
「でも、どうして園芸部の部長はあんなに気合入っている。野球部と張り合うため?」
「いや、張り切っているのは、たぶん憧れの先輩が学園祭に来るからだって、先輩たちは言っているよ。前の部長らしんだけどね」
僕と水上くんは顔を見合わせる。
卒業した先輩のために頑張るなんて、ありがちな話だろう。ただ、どう考えても小内先輩の鬼気迫る執念はそんな可愛いものには見えなかった。
放課後。僕と水上くんは先生に言われて、授業で使った資料を地理準備室へ運んでいた。長い筒状の巻物を横に渡して縦に並ぶ。
「だけど、スペシャルメニュー楽しみだなぁ。二人とも頑張るなら、二つとも出せばいいのに」
呑気に言う水上くん。僕らは審査員から外れたとはいえ、向井さんにその役目を押し付けたようなものだ。気が気じゃなかった。
「スペシャルメニューの勝敗にばかり意識が行くけど、本来の目的はどっちが西棟の食堂を使うか決めるための勝負だよ」
地理準備室の奥、大きな地球儀の横に巻物を立てかける。
「確かにね。憧れの先輩にいいところを見せたいなら、東棟でもいいのに」
「そこはほら。新部長として完璧にしたいんじゃない?」
やれやれ、やっと終わったと思いながら、僕と水上くんは地理準備室を出る。すると、隣の教室から大きな声が聞こえて来た。
「あーーーっ! また焦げやがった!」
「あ、あれは……」
窓から見える背中は、間違いなくエプロンをつけた野球部の部長、東野先輩だ。周りには丸刈りの野球部員らしき生徒たちもエプロンをつけている。
「もしかして、スペシャルメニューの開発?」
しかし、どう見ても上手くいってなさそうだ。
周りには焦げた鍋の残骸やぐしゃぐしゃに割られた卵の殻が散らばっていた。
「やっぱり家庭科部の協力がないと不利だよね」
「うん。いくらお祭りの屋台メニューといっても、スペシャルだから」
僕らはコソコソと話し終えると立ち去ろうとした。
だけど、さすが動体視力がいい。
「ああーーっ! お前ら、トレジャーハンター部だろう!」
見つかってしまった。その上、前のドアから出てきて僕らの前に立ちはだかる。
「いや、トレジャーハンター部ですけど、もう関係ないので」
「そうそう! 僕たちトレジャーハンター部は! 学園祭のときにスペシャルメニューを美味しくいただきます!」
美味しいもの大好きな水上くんは、何かを察知したのだろう。
僕も悪い予感しかしなかった。
「そういわずに、試食していけよ」
やっぱりだ。僕らは問答無用で東野先輩に家庭科室へと連れ込まれてしまった。
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