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第四章 学園祭編
第十三話 吸血鬼の仮装の人 その2
しおりを挟む見に行きたいところはそれぞれあるけれど、まだ急ぐような時間じゃない。お腹も膨れたから、みんな満足している。
ということで、アリスが行きたいという舞台を観に体育館へと向かう。
校庭を通るのだが、そこにはたくさんのバスがたくさん停まっていた。順番に付いたバスから人を吐き出し、早めに帰る人を運んでいく。
仮装している人たちがバスから出てくる様子は、やはり物珍しい。
思わず立ち止まって、眺めてしまう。
「はーい。そこじゃまでーす。もっと、向こうを歩くよー」
パンダのきぐるみが赤い誘導棒を振って、独特のイントネーションで僕らを注意する。
「あ、すみません」
「ちゃきちゃき歩くよー」
僕らは向こう側へと追いやられた。
「ふー、やれやれ。お子さまの相手は疲れまーす」
「おい、さぼるな」
パンダの頭をこつんと誘導棒で軽く叩いたのは向井さんだ。まだ、武士の仮装をしている。
「む、向井さん……」
どうして、またきぐるみの人と一緒にいるのか尋ねたかったけれど、真面目に仕事を始めたので聞きにくい。
「分かってないよー、パイセン。この中、すごく暑いよー」
「水分補給しっかりとれ。学校の備品を壊したんだから、これぐらいしろ」
「うう。世知辛いよー」
パンダと武士の誘導するうしろ姿はこっけいにも見えるが、あんまり邪魔をしてはいけないと、僕らはその場をあとにした。
体育館にやって来ると、ちょうど二年生の劇をやっているところだった。
オリジナルの脚本で、女子高生が江戸時代にタイムスリップし、お家騒動に巻き込まれるという話だ。衣装も凝っていて結構、面白そう。
「この劇が見たかったんだ、アリス」
「でも、もう終わりの方」
倉野さんの言う通り、女子高生は江戸時代の人たちに別れを告げている。現代に戻って来て、あっさりと劇は終わってしまった。
「残念だったね」
「……これじゃない。次の」
どうやら、目的の演目に間に合ったようだ。
すると、舞台上ではドラムやキーボード、マイクなどが設置されていく。ギターやベースまで出てくればもう決まりだ。
「アリス。バンドが見たかったんだ」
「けっこう、ネットで有名な人たちだよ」
「えっ! そうなの!?」
同じ学園内にいても、知らないものだ。ほどなくして、司会の紹介が始まる。
「次はヘビィべいびぃズの皆さんの演奏です」
すると、舞台にバンドメンバーが出て来る前に、仮装している人たち、つまり学園外からの招待客の人たちが前の方へと向かっていく。しかも、叫びながら。
ほとんどの仮装が角の生えた悪魔だ。
「いぇええええーい!」
「ひゃっはあああー!」
「勝負だ、こんにゃろー!」
僕らは、なになになに??と呆気にとられる。さらに、舞台に出て来た人たちを見てびっくり仰天した。
出て来たのは顔を白塗りして、悪魔の化粧をした女の子たち。ボーカルの子はマイクを握って高音でシャウトする。
「ぶっ飛ばしていくぞ! 負けねぇからな、てめぇら!!」
前にいる観客たちは、うぉおおッ!と盛り上がった。ドラムが鳴り響き演奏が始まる。
体育館にいる人たちのほとんどが唖然としている人がほとんどだ。
別世界に迷い込んだように津川先輩がつぶやく。
「大きな音でびっくりしたねー」
「だけど、う、上手いよ。この人たち」
水上くんがそういうのも納得だ。最初は驚きの方が強かったけれど、ヘビメタなんて分からなくても音が胸に響いて来る。迫力も見掛け倒しなんかじゃない。
隣にいるアリスも興奮した様子で、リズムを取っていた。
これならネットで人気にもなるはずだ。
「あれ、あの人」
ゴッホの絵の説明を聞くために、僕をわざわざ呼んだ人だ。
相変わらず、吸血鬼の仮装が似合っている。僕たちのゴッホの展示を見ていたときのように、舞台を観ながらなにやらブツブツ言っているようだ。
なんとなく、その表情から『なるほど、将来が楽しみだ』と言っているように思えた。
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