70 / 89
第五章 生徒Xからの挑戦状編
第一話 お楽しみのあとは
しおりを挟む学園祭が終わって、生徒たちはみんなのんびりモードだ。学ランの上にマフラーを巻いて、今日も昼休みは温室へ向かう。
「若狭くん、冬限定の特製ビッグ肉まん! 今日は買えたよ!」
水上くんが袋を抱えて一緒に入って来た。僕と倉野さんも、四人分のパンを抱えている。
「寒かったね。紅茶入っているよ」
津川先輩が紅茶を用意している。もちろん陶器のティーセットなんてない。水筒に入れたお湯を用意して、ステンレスのコップに注いでいた。学園祭では茶葉を使っていたが、ティーバッグだ。
温室の中は寒くはないが、暖房器具があるわけではないので教室や食堂ほどぬくぬくはしていない。必ず防寒着が必要だった。
まずは大きな肉まん二つを半分に割って四人で食べる。
「うん! やっぱり冬は肉まんだよね!」
水上くんはひと口頬張っただけで大満足の様子だ。
「皮が甘くて美味しい」
「やっぱり肉まんは皮さ。肉だねも大事だけど、皮がいい加減だと台無しにしちゃうからね」
倉野さんの美味しいに対して、水上くんは三倍の情報をくれる。前も食べ物にこだわりがあったけれど、学園祭があってから拍車がかかったかもしれない。
とはいえ、慌ただしかった学園祭準備時間が過ぎ、和やかな時間が過ぎていく。
「もうすぐ冬休みだね。みんな、家に帰るよね」
「はは、その前に期末テストがあるよ」
津川先輩の残酷な言葉に僕らの笑顔が凍り付いた。いまは十一月はじめ。学期末テストまでひと月はある。
そうかと言ってのんびり構えていたら、一学期の二の舞なことは確実だった。
「寮生活っていうのも、楽しいんだけどさ。困ったことも多いよね」
「赤点、実家に連絡いく。わたしは仕方ない」
「倉野さんが古典をバリバリ出来たら、僕らは毎回満点さ」
実は言うと僕の一学期の数学の点数は赤点ギリギリだった。なにせ同室の人が一番仲のいい水上くんだ。トランプやカードゲーム、動画と遊びの誘惑は多い。宿題をこなすのにも一苦労だ。
学園側としても、消灯時間に厳しいわけでもなく、スマホやタブレットの使用に制限があるわけでもなく。自由な校風なのだ。
しかも、赤点を取ったら親に知らせると言われたのはテスト返却のときだ。あのときほど肝が冷えたことはない。先生たちが黙っていたのは、絶対にわざとだ。
「勉強しないといけないね。ちなみにみんなどの教科が苦手なんだい?」
余裕な笑顔で言う津川先輩は、きっと全教科余裕にちがいない。
「僕は数学が。その関係で物理もダメです」
「僕は日本史……。暗記が全然ダメなんだ」
「わたし、古典と理数系全般」
まるで仏壇のおりんが、ちーんと鳴ったような空気だ。みんな本当に苦手教科で、赤点ギリギリに違いない。津川先輩は苦笑いしつつ、頬をかく。
「僕も数学は苦手だけど、赤点は取らないかな。でも、苦手がはっきりしているなら対策もしようがあるさ」
すると水上くんが提案する。
「僕考えたんだけど、談話室だと暖かすぎるから眠くなるよね。四人で勉強するなら、昼休みにここでしない?」
僕と倉野さんは顔を見合わせた。
「いまからちょっとずつ勉強すれば赤点は絶対にとらないよね」
「わたしも一緒に勉強したい。寮だと出来ない」
寮には自習しつもあるけれど、倉野さんだけは女子寮で夜に一緒に勉強は出来ない。津川先輩もそうだねと頷く。
「図書室だと、僕は絶対に本を読んでしまうし。向井さんにも文句を言われないだろうね」
そういえば、向井さんは僕らが真面目に活動していないと難癖をつけてきたのだ。正規の活動ではないけれど、勉強しているなら、温室を使っていても大丈夫だろう。
ということで、昼休みはご飯を食べたら、勉強をすることになった。なんと真面目なトレジャーハンター部だろうか。
だけど、次の日。計画を打ち破るベルがいきなり鳴り響いたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
失恋中なのに隣の幼馴染が僕をかまってきてウザいんですけど?
さいとう みさき
青春
雄太(ゆうた)は勇気を振り絞ってその思いを彼女に告げる。
しかしあっさりと玉砕。
クールビューティーで知られる彼女は皆が憧れる存在だった。
しかしそんな雄太が落ち込んでいる所を、幼馴染たちが寄ってたかってからかってくる。
そんな幼馴染の三大女神と呼ばれる彼女たちに今日も翻弄される雄太だったのだが……
病み上がりなんで、こんなのです。
プロット無し、山なし、谷なし、落ちもなしです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる