広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第五章 生徒Xからの挑戦状編

第一話 お楽しみのあとは

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 学園祭が終わって、生徒たちはみんなのんびりモードだ。学ランの上にマフラーを巻いて、今日も昼休みは温室へ向かう。

「若狭くん、冬限定の特製ビッグ肉まん! 今日は買えたよ!」

 水上くんが袋を抱えて一緒に入って来た。僕と倉野さんも、四人分のパンを抱えている。

「寒かったね。紅茶入っているよ」

 津川先輩が紅茶を用意している。もちろん陶器のティーセットなんてない。水筒に入れたお湯を用意して、ステンレスのコップに注いでいた。学園祭では茶葉を使っていたが、ティーバッグだ。

 温室の中は寒くはないが、暖房器具があるわけではないので教室や食堂ほどぬくぬくはしていない。必ず防寒着が必要だった。

 まずは大きな肉まん二つを半分に割って四人で食べる。

「うん! やっぱり冬は肉まんだよね!」

 水上くんはひと口頬張っただけで大満足の様子だ。

「皮が甘くて美味しい」

「やっぱり肉まんは皮さ。肉だねも大事だけど、皮がいい加減だと台無しにしちゃうからね」

 倉野さんの美味しいに対して、水上くんは三倍の情報をくれる。前も食べ物にこだわりがあったけれど、学園祭があってから拍車がかかったかもしれない。

 とはいえ、慌ただしかった学園祭準備時間が過ぎ、和やかな時間が過ぎていく。

「もうすぐ冬休みだね。みんな、家に帰るよね」

「はは、その前に期末テストがあるよ」

 津川先輩の残酷な言葉に僕らの笑顔が凍り付いた。いまは十一月はじめ。学期末テストまでひと月はある。
そうかと言ってのんびり構えていたら、一学期の二の舞なことは確実だった。

「寮生活っていうのも、楽しいんだけどさ。困ったことも多いよね」

「赤点、実家に連絡いく。わたしは仕方ない」

「倉野さんが古典をバリバリ出来たら、僕らは毎回満点さ」

 実は言うと僕の一学期の数学の点数は赤点ギリギリだった。なにせ同室の人が一番仲のいい水上くんだ。トランプやカードゲーム、動画と遊びの誘惑は多い。宿題をこなすのにも一苦労だ。

 学園側としても、消灯時間に厳しいわけでもなく、スマホやタブレットの使用に制限があるわけでもなく。自由な校風なのだ。

 しかも、赤点を取ったら親に知らせると言われたのはテスト返却のときだ。あのときほど肝が冷えたことはない。先生たちが黙っていたのは、絶対にわざとだ。

「勉強しないといけないね。ちなみにみんなどの教科が苦手なんだい?」

 余裕な笑顔で言う津川先輩は、きっと全教科余裕にちがいない。

「僕は数学が。その関係で物理もダメです」

「僕は日本史……。暗記が全然ダメなんだ」

「わたし、古典と理数系全般」

 まるで仏壇のおりんが、ちーんと鳴ったような空気だ。みんな本当に苦手教科で、赤点ギリギリに違いない。津川先輩は苦笑いしつつ、頬をかく。

「僕も数学は苦手だけど、赤点は取らないかな。でも、苦手がはっきりしているなら対策もしようがあるさ」

 すると水上くんが提案する。

「僕考えたんだけど、談話室だと暖かすぎるから眠くなるよね。四人で勉強するなら、昼休みにここでしない?」

 僕と倉野さんは顔を見合わせた。

「いまからちょっとずつ勉強すれば赤点は絶対にとらないよね」

「わたしも一緒に勉強したい。寮だと出来ない」

 寮には自習しつもあるけれど、倉野さんだけは女子寮で夜に一緒に勉強は出来ない。津川先輩もそうだねと頷く。

「図書室だと、僕は絶対に本を読んでしまうし。向井さんにも文句を言われないだろうね」

 そういえば、向井さんは僕らが真面目に活動していないと難癖をつけてきたのだ。正規の活動ではないけれど、勉強しているなら、温室を使っていても大丈夫だろう。

 ということで、昼休みはご飯を食べたら、勉強をすることになった。なんと真面目なトレジャーハンター部だろうか。

 だけど、次の日。計画を打ち破るベルがいきなり鳴り響いたのだ。

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