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第五章 生徒Xからの挑戦状編
第七話 誰も言わない
しおりを挟むそれから三日、東棟と西棟の図書室にそれらしき人物はいないかと探しに行った。だけど、誰かを待っているような女生徒はどこにもいない。
「記録だからなぁ」
資料や図鑑を中心に手を取ってみていく。何かのメモでも挟まっていないかなと思って見ても、古い本ばかりでそれらしきものはない。
何も手がかりを得ずに、僕らはただ図書室を往復する人たちになっていた。これじゃ、僕たちまで図書幽霊と言われてしまいそうだ。
「あなたたち、また来たのですか?」
小内先輩と東野先輩も、西棟の図書室に行くたびに勉強をしていた。
僕たちからどんよりとした気配が出ていたのだろう。見かねた小内先輩が話しかけて来る。
「他に手がかりない」
倉野さんが頬を膨らませて言う。
「ヒント、出そうか?」
「東野くん」
「だって、このまま図書室に通わせるのは可哀そうだろ」
「でも」
チラチラと小内先輩が僕たちの顔を見る。
そうなのだ。僕たちがどんよりしているのは、何も生徒Xが見つからないせいだけじゃない。図書室にいる今も視線を感じる。
「まだ、見つからないみたい」
「あんなに簡単なのに」
みんなが僕たちを見ていると同時に、他の人たちはみんな正解を知っているみたいだ。どこにいても居心地が悪かった。
しかも、簡単だという答えが僕らには全く分からない。
小内先輩がコホンと咳ばらいをする。
「じゃあ、ヒントだけ。たぶん図書室にいても見つからないと思う。分からないけど」
「分からないけど?」
「ど、どういうことですか、小内先輩」
「ダメダメ! これ以上は言っちゃダメなんです!」
小内先輩は口元でバッテンを作る。
そして、これだ。
箝口令が敷かれているかのように、生徒Xのこととなると口を閉ざす。
次の日の昼休み。まずは、僕らは一度温室に集まることにする。
「どうしてだと思う?」
僕が開口一番尋ねたのは、単純な疑問だった。疑問に答えたのは倉野さんだ。
「絶対、わたしたちの人気が妬ましかったからに決まっている」
「え、ちょっと待って。僕が聞きたいのはどうして僕ら以外の人は、答えを知っているのかっていう話なんだけど」
そもそも人気と言ってもそれほどではない。元々良くなかった評判がマイナスからプラス一になったぐらいだ。倉野さんは首をひねった。
「どうして、生徒Xがわたしたちに挑戦状を出したかじゃなくて?」
だが、言われてみたら確かに気になる点だ。人気が妬ましいということだけで、こんな本人も面倒なことをするとは思えない。
「でも、それは本人に聞いてみないことには推測の域を出ないんじゃないかな?」
津川先輩の言うことに、一瞬考える倉野さん。
「それもそう」
あっさりと納得した。ちょっと本題からそれたけれど、僕は再び話を戻す。
「全員に確認したわけじゃないけど、生徒は大体知っているみたいだ。それぐらい目立つ格好をしていて、きっと僕ら以外口伝えでみんな答えを知っている」
「確かにそう考えるのが自然だよね」
カレーパンを頬張りながら頷く水上くん。
「だから、僕らはそれらしき場所を探りながら、それとなく答えを知っていそうな人たちから答えを引き出すんだ。たぶん、そっちの方が生徒Xに近づける」
「きっと生徒Xはそんな方法使うなんて思ってない。行ける!」
倉野さんは立ち上がる。既に次に向かう場所は目星をつけていた。
「ちょ、ちょっと待って」
まだ、カレーパンを食べていた水上くんは慌てて口に詰め込んだ。
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