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第五章 生徒Xからの挑戦状編
第八話 意外な証言
しおりを挟む僕らがやって来たのは、部活棟の裏。園芸部が畑を作っている場所だ。
畑の奥には少し小高く土が盛られている。白く塗られた木箱が四本の足で支えられていた。百葉箱だ。
「なにあれ?」
倉野さんは知らないようだ。津川先輩が笑顔で答えてくれる。
「あれは百葉箱と言ってね。気温計や湿度計が入っているのさ。一定の条件で計測できるように木箱になっているんだ」
「記録中の記録。だよね」
まさしくとばかりに、水上くんもふんと鼻息を漏らした。
「ただ……」
僕らは辺りをキョロキョロと見回す。生徒Xの姿は見られない。どんな女生徒かは分からないけれど、居るのはジャージを着た園芸部部員だ。
「あ、加賀くん。ちょうどいいところに」
クラスメイトで園芸部の加賀くんも、軍手をはめて雑草を取っている。男子生徒はジャージではなく、制服のままの人も多い。
「ああ、トレジャーハンター部のみんな。こんなところで会うなんて奇遇だね」
加賀くんは奇遇だなんて言うけれど、僕らは加賀くんが今日の昼休みに畑に来ることをクラスメイトとの会話で確認してから来ていた。
もちろん、生徒Xのことを探るためだ。元から知り合いの方が口も滑りやすいだろう。
「やあ、加賀くん。もちろん、例の人を探しているんだよ」
「あ、ああ」
ちょっと言い方がぎこちなかったかもしれない。苦笑いをして加賀くんは僕らの背後の百葉箱をちらりと見た。
「記録ってことで百葉箱を見に来たんだ。生徒Xみたいな人は見かけなかった?」
「うーん。園芸部以外は昼休みには中々来ないかな」
「生徒X、マントを被って怪人みたいな姿をしている?」
それとなく聞くということを倉野さんは知らないようだ。魂胆が見え見えだったかもしれない。加賀くんは八重歯を見せて、腰に両手を当てる。
「ハハハッ! そうだな。普通の生徒と変わらない恰好をしているらしいよ。僕も見ていないから、よくは知らないけれどね」
どうやら、加賀くんは他の人より協力的のようだ。水上くんと頷き合う。
ただ、次の言葉にすぐに士気が下がる。
「ただ、きっとここに居ても答えは分からないと思うよ」
暗に余所へ行けと言っているようだ。倉野さんが正直に言ってしまう。
「けち」
「けちじゃないよ! えーと、これも大事なヒントだから!」
さすがにこれ以上追及するのは不憫なので、お礼を言って温室に戻ることにした。
ゆっくり歩きながら温室に向かっていると、温室の外壁のところで草むしりをしている向井さんを見かけた。今日もデニムに薄手のロングTシャツとラフな格好をしている。とても理事長には見えない。
「こんにちは、向井さん」
「ああ、君たちか。こんにちは。どうした? こんなところで、外は冷えるぞ」
マフラーさえ巻いていない向井さんが言うのは何だかおかしな感じがした。
「向井さんも、生徒Xらしき人見てない?」
またも倉野さんが直球の質問をした。しかし、向井さんの答えは意外なものだ。
「生徒X? なんのことだ」
僕らは顔を見合わせる。まさか知らないと言われるとは思わなかったのだ。他の生徒のように白を切っているようには見えない。
ふむと、あごに指を当てて津川先輩が言う。
「どうやら向井さんは例のことを知らないみたいだね」
「例のこと?」
向井さんは立ち上がって、ズボンのほこりを払う。
「それが――」
僕たちは生徒Xから挑戦状を受け取ったことを話した。向井さんは納得したように、そうかとつぶやく。
「さすがに聞いているだろうから、当日、俺は学園に居なかったようだ。道理で昼休みになると、生徒たちがそわそわしているはずだ」
そもそも、挑戦状のことを知らないのならば、質問しても意味はないだろう。
「じゃあ、温室の中で作戦を考えます」
「ああ。がんばってな」
僕らは向井さんと別れて、温室の中へと入った。
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