広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第五章 生徒Xからの挑戦状編

第九話 答えは簡単

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 いつものテーブルセットで僕ら四人は膝をつき合わせた。肘をテーブルについて、指を組む。恰好だけは重鎮たちの会議のようだ。

「全然、見つからない。そもそも、挑戦状が意味不明」

 挑戦状の手紙はテーブルの中央に置かれている。倉野さんの言う通り、十分間の記録の中ではヒントが足りなさすぎる。

「いま、分かっていることを整理してみようか」

 津川先輩がルーズリーフを一枚取り出す。シャーペンでいくつか箇条書きの点を書いた。

「まず、生徒Xは図書室にはいない」

「小内先輩があれだけハッキリ言っていたからには間違いないですね」

「百葉箱の近く。園芸部の畑にもいない」

「結構いい線いっていると思ったんだけどね」

 百葉箱は実は水上くんの発案だ。化学部が昼休みに十分間記録を取りに来ているのではというものだった。行き詰ると津川先輩がシャーペンの先をコツコツと鳴らす。

「あと、何か加賀くんが言っていたような気がするね」

「そうですね。これも大事なヒントだからって。確か、ここに居ても答えは分からないだったよね」

 僕が同意を求めると、水上くんも倉野さんも頷いてくれる。

「こことは園芸部の畑のことだね。園芸部の畑に居ても答えは分からない、と」

 津川先輩は三つ目に文章を書いていく。

「こうしてみると、ニュアンスがだいぶ違いますね。生徒Xがいないことと、答えは分からないって。同じようで違うよね」

 僕の意見に水上くんも、うんと頷いた。

「居ないだけじゃなくて、答えが分からないってどういうことだろう? どうして畑にいたら分からないの? 加賀くんと話していて、突然ひらめくこともありそうだけど」

「もしかしたら――」

 津川先輩は紙を持って、ジッと見つめる。

「他の場所にいたら、簡単に答えは分かるのかもしれない」

「「「えっ!」」」

 僕らは寝耳に水を食らったような心地になった。あれだけ、図書室に通って頭を悩ましていたのに、簡単に答えが分かってしまうなんて。

「だってそうじゃないかい。生徒のほとんどが知っているなんて。推理が必要ないほど簡単であるとしか思えない」

「でも、じゃあ、どうしてわたしたちには分からない?」

 倉野さんがぐうと悔しそうに唸る。トレジャーハンター部の名折れだとでも思っているのかもしれない。

 でも答えはきっと他の生徒にはあって、トレジャーハンター部にはないものだ。

「あっ!」

 僕は一つの可能性に思い当たった。

「図書室にはない。園芸部の畑にもない。たぶん温室にもない。そして、向井さんは挑戦状のことを知らなかった。これらに共通するのは」

 みんなの注目が集まる。僕は指を上に向けて指した。

「放送部の昼休みの放送だ!」

「放送部の……」

「昼休みの放送」

「確かにここでは聞こえないね」

 僕らは耳を澄ませる。微かに葉がかすれる音しかしない。温室はスピーカーもないし、西棟からも少し離れているからもちろん聞こえない。

「基本的に静かに過ごす図書室は、緊急放送以外は切っているはず」

「園芸部の畑も外だから聞こえない」

「向井さんも昼休みは外にいることが多いかもしれないね」

 うんと頷き合う。四人全員の意見が一致した。

「僕らは放送部の放送を聞かないといけない!」

 この事実に気づいたのは十二時五十分。

 今日の分の放送部の放送は終わっている。また明日、別の場所で聞くことにした。

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