広くて狭いQの上で

白川ちさと

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第五章 生徒Xからの挑戦状編

第十四話 確保! 確保!

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 だけど、どうしたらいいだろう。僕らトレジャーハンター部がいきなり突入しても、また逃げられてしまうのではないだろうか。

 僕は後ろに待機している吉村さんを振り返る。

「吉村さん、話しかけてみてよ」

「でも、わたしが聞いても話してくれないよ」

「世間話する程度でいいからさ」

 渋々ながら、吉村さんは南条先輩に話しかけに行く。ドアからではよく聞こえないけれど、あいさつをしているようだ。だけど、一分もするとじゃあと吉村さんは軽く手を上げた。ピアノの方へと向かい、軽やかな曲を弾き始める。

「……吉村さん。ダメ」

「ダメっていうか、やっぱり僕たちじゃないといけないんだよ」

 津川先輩の言う通りだ。いつまでもこれでは勉強に集中も出来ないし、ここは強硬手段を取るしかない。

「二手に分かれよう。前と後ろのドアを塞げば、逃げることは出来ない。そのまま、何が何でも聞き出すんだ」

「了解」

 水上くんと津川先輩が後ろのドアに、僕が前のドアを守る。男が突撃したら支障が出そうだから、倉野さんが突撃役だ。

 準備が整って、全員でアイコンタクトをする。

「ナンジョー先輩ッ!」

 倉野さんは音楽室のど真ん中で叫んだ。

「な、なに!?」

 南条先輩は慌てて振り返る。気配で気づかれているかと思いきや、気づかずにぼんやりしていたようだ。

「今日こそ! 決着のとき!」

 倉野さんの言葉を聞いて、僕らはダメだと思った。どう見ても倉野さんは悩みを聞きに行く態勢ではない。腰を低く落として両手を構えているので、プロレスをしに来たと言う方がいいだろう。

 南条先輩もビビッて逃げ腰になっている。倉野さんが一歩前に出ただけで、二つ結びの髪を振り乱して駆け出してしまった。

 だけど、後ろのドアには水上くんと津川先輩がいる。

「待って、南条さ……」

 津川先輩が言い切る前に今度は前のドアの方にかけてきた。僕の方だ。

 僕もなぜかとっさに両手を構えてしまう。

「南条先輩!」

「ひぃっ!」

「確保ぉおおッ!」

 後ろからガッと南条先輩の腰を掴んだ倉野さん。そのまま、バタンと床に倒れてしまった。

「だ、大丈夫?」

 さすがに心配してしまう。すると、眼鏡をずらした南条先輩が顔を上げた。

「ごめんなさいぃぃいい! 謝るから許してくださいぃい!」

 ため息をついていたところに、いきなり突撃されて半泣きになって謝っている。同情するしかなかった。

「大丈夫ですよ! 許すもなにも怒っていませんから!」

「そ、そうそう! 南条先輩が温室から出してくれなかったら、僕ら風邪ひいていたから!」

「倉野さん、それくらいに……」

 水上くんと津川先輩がフォローするけれど、倉野さんは引っ付いたまま離れない。倉野さんだけは振り回されて、よっぽど怒っていたみたいだ。

「なぜ、トレジャーハンター部に挑戦状を送ったか話さないと離さない!」

「分かりましたぁ!」

 南条先輩ももう逃げやしないだろう。

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