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ノーム編
第四十一話 ノームではない
しおりを挟むずっと床にふせていたイリアさんは、すごく痩せていて歩くのもやっとだ。けれど、おじさんに支えられて、なんとか食卓につくことが出来た。
「みなさん、助けていただきありがとうございました」
イリアさんの声は、とても可愛らしい。アイドルのアニメに出てきそうだ。精霊使いというのは本当だろう。でも、座っていても少しフラフラしている。
「気分は悪くないですか?」
向かい側に座るムウさんが気遣う。
「はい。大丈夫です。ずっと寝ていましたから、もうベッドにはいたくありません。それにお腹が空いちゃって」
イリアさんは恥ずかしそうにお腹を押さえた。食べたいっていう欲求があるっていうことは、きっと生命力が復活しているっていうことだ。そこへ、イリアさんの前にスープの入った皿が置かれる。
「ほら、豆のスープが出来たぞ。ゆっくり噛んで食べなさい。みなさんも、どうぞ」
おじさんが本当に嬉しそうにスープを配っていく。ニコニコとしていて、最初に会ったときとは別人みたい。
「いただきます」
イリアさんはゆっくりとスプーンを口に運ぶ。
「いただきまーす」
わたしたちも遠慮せずにいただいた。
スープをぺろりと平らげて、お茶を飲みながらゆっくり食べているイリアさんが食べ終わるのを待つ。イリアさんには大事な用がある。
イリアさんは、ノームに挑んで植物と同化されそうになった。ということは、ノームの森の様子も、少なからず知っているはずだ。
「あなた方もノームに……?」
わたしたちがそのことを告げると、イリアさん親子は当然のように目を丸くしていた。おじさんが口早に言う。
「でも、イリアがこんな目にあったことを知ったのだから、断念するのですよね」
イオはおじさんの顔を見つめて、首を横に振った。
「いいや。俺たちは行かなければならない」
「ええ。これ以上悲劇を繰り返させるわけにはいきません」
ムウさんもハッキリと言い切った。みんな、気持ちは一緒だ。わたしはイリアさんを見つめる。
「それで、ノームの森のことを教えて欲しいの」
考え込むように下を向いていたイリアさんだったけれど、やがて顔を上げた。
「ノームの森はここから北に進んだ森にあります」
ゆっくりと語りだすイリアさん。
「森の入り口はゴーレムが守っています。ですが、何かと理由をつければ入ることは可能です。ただ、安全に出ることが出来る人は、ほとんどいませんが……」
入ることは簡単だけれど、出ることは難しいということだ。
「森の中はまるで楽園です」
「楽園?」
あまりに予想外な単語が出てきた。イリアさんは神妙に頷く。
「はい。花が咲き乱れ、木々も潤い。この集落とは正反対のところです。そこで人々は幸せそうに暮らしています」
「え! ノーム森に人が居るの?! 精霊じゃなくて!?」
わたしは精霊たちが暮らす森だと勝手に思い込んでいた。イオが苦々しい口調で答える。
「……裏切り者たちだ。他の森から、妖精たちから奪い取った物で自分たちだけ裕福に暮らしている」
そんな人たちがいるなんて思ってもみなかった。でも、自分たちの利権ばかり考える人はどの世界にもいるものだ。
「裏切り者はノームも同じかもしれません」
「ん? どういうこと??」
イリアさんは真剣な目をして語る。
「わたしは偶然にもノームの姿を目にしました。ノーム王と呼ばれているのは、ノームではありません」
「どういう? ノーム王ならノームじゃないの??」
「あれはノームを語るだけの精霊使いだと、わたしは思っています」
「ノームを語る……」
「精霊使い!?」
カカが大きな声で叫んだ。カカだけじゃない。イオもムウさんも、もちろんわたしにも寝耳に水のことに言葉が出てこない。まさか精霊使いがそれだけのことが出来るのだろうか。
「ノームの姿は老人の小人だと言われていますよね。でも、ノーム王と呼ばれているのは、若い男の姿をしていました」
わたしは頭の中を整理する。
「つまり……敵は、土の精霊の王ノームじゃない?」
「はい」
これはちょっと考え方を改めないといけないようだ。
おじさんの家は三人も泊まる場所はない。わたしたちは隣の空き家に移動する。ちょっと埃っぽいけれど、野宿よりましだ。みんなでテーブルを囲んで椅子に座った。
「で、聞いていたんでしょ。サラマンダー」
杖の精霊石がぼんやりと赤く光った。
「うむ。なるほどと、思ったぞ。やはりあのノームが森を潰すような大それたことをするはずはなかったな」
サラマンダーは、ふふんと鼻息が聞こえそうなほど得意げだ。
「サラマンダー様」
ムウさんがスッと立ち上がって、床に片膝をついた。精霊石の中なのに、サラマンダーを敬うような行動にびっくりする。だけど、精霊の王なのだから、それが当たり前の姿かもしれない。味方だったらという条件がつくけど。
「わたしは花の精霊使いムウと申します。そのお力、偽りのノーム王を倒すために貸していただけますか」
「うむ。本物のノームの行方も気になる。構わぬぞ」
なんだか、すごく偉そうだ。わたしには歌わないと出てこないと駄々をこねていたサラマンダーとは随分違う。イオが腕を組んで言う。
「ただ、単にサラマンダーがノームの森を焼けばいいという訳じゃない」
「そうよね。森を焼くんじゃ、偽のノームと一緒だもの」
ただでさえ、森は損なわれているのにこれ以上被害を拡大させるわけにはいかない。ムウさんも頷く。
「まずは、その偽りのノーム王を演じているという青年をこの目で確かめる必要があると思います。どうやって妖精の樹から生命力を奪っているのか。なぜ、逃げたイリアさんをあのような目に合わせるのか」
「そうだね、ムウさん。なんにしても、ノームの森に行ってみないと」
わたしたちは明日、ノームの森に旅立つことにした。その頃には精霊の海で冷え切っていたサラマンダーも復活しているだろう。
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