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シルフ編
第七十四話 シルフの正体
しおりを挟む突然やって来て、突然消えてしまった。暴れていたシルフが居なくなると、空にいた人たちも降りてきて、村全体が慌ただしく動き出した。
「けが人を手当てするんだ!」
「灯りをつけろ!」
わたしがホムラで灯りをつけたとはいえ、まだ十分な明るさじゃない。続けてホムラに命令して、村の人が持った松明に火を付けていった。
「あなた! 大丈夫!?」
一人の男の人が、肩を抱えられて家の中に入っていく。お腹に大きな傷を受けていて、血がしたたり落ちていた。心配だけど、わたしが出来ることはない。
「薬草をかき集めろ!」
みんな、家の中から薬品を持って出て来る。子供たちもまだ家の中からだけど、心配そうに大人たちの動向を見つめていた。
「あ! ザックお兄様、わたしは何を」
「家から薬草や包帯を持ってこい!」
「はい!」
ルーシャちゃんも家へと薬草を取りに行った。こういうとき、回復魔法があればいいんだけど。でも、精霊はいてもこの世界には魔法はない。当然、傷を癒やすことも出来なかった。わたしも大けがをした人は無理だけど、傷ついた人の手当てをする。
「みな、なんとかさらわれずに済んだようじゃの」
「長老」
振り返ると杖をついた長老が歩いてきていた。一緒に塀の上にいたけれど、どこかに避難して見守っていたのだろう。
「ユメノ、イオ」
「え、は、はい!」
名前を呼ばれて、わたしとイオは長老の前へと走った。
「あれがシルフの影の一つじゃ」
「影の一つ?」
すごく嫌な言い方だ。それでは、まるで……。長老はこくりと頷く。
「そう。シルフの影は一つではない。四つに分かれておる」
「それは……初耳です。一体が次々に襲ってくるのだと思っていました」
わたしとイオだけじゃない。ザックさんも知らなかったみたいだ。長老の話にみんな、手を止めて耳を傾けている。ルーシャちゃんも話を聞くためにわたしの横にやって来た。
「はじめて話したからのう。シルフの影は元々一つじゃった。それが三百年前、闇に包まれ五つに分かれてしまったのじゃ」
「ん? 五つ? 影は四つじゃないの?」
「一つは倒されちゃったとか?」
わたしとエルメラが聞くと、長老はしわくちゃの手の平を前に出す。
「まぁ、まずはわしの話を聞きなされ。シルフの影の正体は風そのもの。実態のない風は倒すことは出来ぬ。ただ、捕まえることは出来るじゃろう」
「風を捕まえる……」
そういえば、以前サラマンダーがノームを完全に倒してしまったら天変地異が起きると言っていた。シルフでもきっと同じだろう。
「それが、サラマンダーやノームならば出来るとわしは考えている」
なるほど。強い火で追いやったり、土の檻に閉じ込めたりしたらいいんだ。
「うん! 出来そう。だよね、イオ」
顔を見上げると、ああとイオも頷いた。シュルカさんが難しそうな顔をして言う。
「もしかして、だから精霊の王たちが訪れしとき、シルフが目覚めるのですか。シルフの影を全て捕らえるために。長老はそれまで話を伝えない決まりだったのでは」
確かに代々長老だけに伝わる話なのかもしれない。しばらく、長老は黙っている。
だけど、口元をニヤッとさせた。
「その通りだよ」
「ん?? 今の長老の声?」
さっきよりも若々しくて、とても老人が話すような声じゃなかったような気がする。みんなが不思議に思っているのが、面白いのか長老はさらにニンマリと笑った。
「今こそ、目覚めのときだ」
風が吹き荒れる。さっきの禍々しい風と違って、爽やかで優しい風だ。その中心にいるのは長老で緑色の光に包まれる。それはすぐに収縮された。
「長老?!」
そこに立っている。ううん、浮かんでいるのは長老じゃなかった。肩までの緑色の髪に、背中には妖精のようなガラス細工の羽が生えている。身長はわたしよりちょっと低いぐらい。つまり子供の姿だ。長老だったシルフはその猫のような瞳を細める。
「僕の名はシルフ。風の精霊の王だ」
眼の前に現れたわたしたちはなんと言っていいか分からなかった。
「シルフだと!?」
「まさか、長老が!?」
村人たちは騒ぎ立つ。わたしたちですら、呆然としているぐらいだ。一緒に暮らしていた老人が、まさか精霊だなんて思わない。
「まさか、長老が精霊だったなんて……。確かにずっと元気だと思っていたけど」
ルーシャちゃんもびっくりして目を見開いている。わたしは試しに聞いてみた。
「長老、長老って言うけれど何歳だったの?」
「……知りませんわ」
つまりずっと昔から長老として、この村にいたんだ。もしかしたら、だからシルフの気配が村に漂っていたのかもしれない。
「なんだなんだ! シルフよ! その姿は!」
そこに、わたしの精霊石からサラマンダーの声が響き渡る。ノームもイオの精霊石から口を出した。
「随分と小さくなりましたね」
やれやれとシルフは手のひらを上に向ける。
「さっき言っただろう。五つに分かれたときに縮んでしまったんだ。唯一、自我が残った僕はこの村で子孫たちを見守っていたってわけ」
シルフはすっかり長老の口調じゃなくなっている。サラマンダーもノームも来たから、隠す意味がないんだ。
「ところで、二人はどう思う? 三百年前のことを」
「うむ。吾輩の身に何か起こったことは間違いないが」
「わたしの元に突然黒い花が現れたのも三百年前です」
サラマンダーとノームがそう言うと、シルフははぁとため息をついた。
なんだろう。二人は事実を言っただけに思えるけれど――
「そうじゃなくて、もっと具体的なことがあっただろう。三百年前、なくなったものがある」
シルフは天を指さす。わたしは自然とその先を見つめた。夜空にはたくさんの星が瞬いている。都会の街の光なんて、この世界にあるはずもないからいつでも満点の星空だ。
そう、いつでも――
「ああッ! 月がない!!」
思えばこちらの世界に来てから、一度も月の姿を見たことがなかった。その事実にわたしはやっと気づいたのだ。
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