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ウンディーネ編
第九十四話 水の神殿へ
しおりを挟むわたしたちは再びソリに乗って、精霊の海の中央、水の神殿へ向かった。以前通ったときと同じく、水の神殿に近づくにつれて吹雪いてくる。それでも強引にツルオリが引っ張って進む。
「行け! この吹雪は同じ氷属性の精霊のものである! 力負けしてはならぬぞ!」
メジロが声を掛ける度に落ちていたスピードが増す。だけど、それもそろそろ限界みたいだ。強く向かい風が吹く中、雪に埋まってソリは停止した。
わたしたちは、最低限の荷物を持ってソリを降りる。
「ううう。目も開けられない……」
腕で目に雪が入って来ないようにかばう。
「そろそろ、わたくしの出番ですわね。シルフ! ミルフィーユ!」
ルーシャちゃんの精霊石からシルフとミルフィーユが飛び出してくる。二人とも強い風をものともしない。
「行くよ、ルーシャ!」
「ええ、ミルフィーユ! 融合ですわ!」
ルーシャちゃんとミルフィーユが重なり、翼を生やす。
「さあ! わたくしたちで吹雪を追い返しますわ!」
ルーシャちゃんは杖に風を纏わせ大斧を具現化させた。それを天に大きく振り上げる。
「僕も力を貸すよ!」
シルフが風の玉を作って、ルーシャちゃんの斧の精霊石に放った。すると、大斧の周りに緑色の風が渦巻く。
「う……。これがシルフの力」
大斧が重くなったのか、ルーシャちゃんの腕が振るえる。
「でも! 行ける!」
グッと腕に力を籠め、ルーシャちゃんは大斧を一直線に振り下ろした。
ゴウッ
「うわ!」
風の爆弾が目の前で弾けたようだった。向かい風だった風が一気に反対側に吹く。
「え……」
あまりに強い風で、わたしは踏ん張りがきかずにふわりと身体が浮いた。
「きゃああああ!」
そのまま風に吸い込まれて行ってしまう。
「ユメノ!」
「わ!」
下から土の手が生えて来てわたしを掴む。イオが助けてくれたのだ。でも、ホッとしたのも束の間だった。
「う、ぬをおおお!」
「メジロ!」
横を猛スピードでメジロが飛ばされていく。今度はイオも間に合わなかった。
「すぐ助けに……!」
そのとき、耳を裂くような咆哮が聞こえる。
ヴォォォォオ!
「もしかして、エルメラが言っていた吹雪を起こしている強い精霊?!」
「うん! そうだよ! この先にいる!」
エルメラが指さした方向はメジロが飛んでいった方向だ。
「ぜ、絶対ヤバイ!」
「イオ! ルーシャちゃん!」
わたしは振り返って二人を呼ぶ。
「ああ、行こう」
「助けに行きますわ!」
わたしたちはソリを置いて駆け出す。吹雪はもう止んでいた。
ザクザクと新雪の上を出来るだけ速くと足を進めるけれど、そう簡単には進まない。
それに――
「何も見えてこないね」
「でも、いるよ。すぐ近くに」
エルメラは真剣な目で前を見ている。
「メジロは」
メジロの姿も見えない。確かにこっちに飛ばされたはずなのに。簡単に彼がやられていることは考えにくい。途中で精霊を呼んだはずだ。
だけど、メジロを見つける前に、目の前に何か見えて来た。石の柱が建っている。
「あ。水の神殿……」
パルテノン神殿のような姿の石造りの神殿だ。氷に囲まれて、青色に光っている。荘厳な姿にしばらく見惚れてしまう。
そのときだ。
「何者だ。ここはウンディーネさまを祀る神殿である」
どこからともなく声が聞こえて来た。まるで空から降るような声に思わず顔を見上げて、首を巡らせる。エルメラが真上を見上げて言う。
「この声、精霊の声だよ!」
「え! 精霊なのに話せるの!?」
普通の精霊はしゃべることは出来ない。ルーシャちゃんはパートナーの精霊なら話せるけれど、普通の精霊使いはそれも出来ない。話せるとしたら、サラマンダーやノーム、シルフのような精霊の王たちだけだ。
そこで、あ、と思い出す。他にも話している精霊がいた。
「我はウンディーネさまの眷属なり。何人たりともここを通させはしない」
眷属。ノームの部下の花の精霊の女王や宝石の精霊の王は話せた。きっと、それと同じことなのだろう。それならばと、わたしは大きな声で呼びかける。
「それは、ウンディーネの命令なの!? わたしたちはウンディーネを助けに来たの!」
話が出来ると言うことは、きっと話も通じるということ。だけど、返って来たのはもっと強い拒絶の言葉だった。
「ならぬ! そう言って、我をたばかろうというつもりであろう!」
怒号が響いたと同時に、分厚い雲が覆っていた空から何かが降りて来る。それは水色の長い身体をしていて、黒く丸い目でこちらを睨んでいた。
「りゅ、龍!?」
青いたてがみの龍が地に降り立つ。それだけで、ビリビリと殺気を肌で感じた。めちゃくちゃ強い精霊の正体は、巨大な水の龍だった。天候まで操って猛吹雪を起こしていたのだから、その力は尋常じゃないはずだ。
とはいえ、飛ばされたメジロも心配だし、ウンディーネが凍るのも止めないといけないのだ。ここは戦っている場合じゃない。
「待って! わたしたちはあなたを騙そうなんてしていない!」
言葉が通じる。それなら尚更、話し合いで解決しないといけない。
「我はもう騙されぬ!」
空から降りてきた水の龍はわたしたちに向けて、突進してくる。わたしたちの前で急にUターンをしてみせた。すると、積もり積もっていた雪が盛り上がって、雪崩のようにわたしたちに襲い掛かって来た。
「きゃあああ!」
大自然の猛威ともいえる攻撃に、わたしは叫び声をあげる。
「ユメノ!」
飛んで来たルーシャちゃんがわたしを抱き上げて、空へと舞い上がる。眼下ではわたしが居た場所が雪に呑まれていった。
「あ! イオは!」
「ここだ」
イオは土の階段を作り上げて、隣に立っていた。水の龍を振り返る。
「どうしよう。戦っている場合じゃないのに」
「だけど、向こうは臨戦態勢ですわ。防戦一方では、わたくしたちの方がやられてしまいますわ」
「役割を分けよう。俺は攻撃。ルーシャは防御。ユメノはあいつに話しかけ続けるんだ」
イオの提案に、わたしたちは頷く。けれど、エルメラが首をかしげた。
「でも、あんなに激昂している水の龍に話が通じるかな?」
確かにサラマンダーのときのように語りかけるわけだけど、まさかまた歌が効くとも思えない。
「人間と同じように精霊の感情にも理由がありますわ。それを探るしかありませんわね」
「ノームとシルフも手伝ってくれ」
「承知しました」
「仕方ないな」
イオとルーシャちゃんは二人を呼ぶ。わたし自身も風の精霊ホークを呼び出して、空中を飛び回れるようにした。
「行くぞ!」
イオが飛び出したと同時に、戦闘が始まった。
巨大な水の龍はウンディーネの水の神殿を守るように、長い体を神殿に巻きつけている。
「ウンディーネさまに近づくな!」
わたしたちが近づくと大口を開けて渦まいた水を放ってきた。中には尖った氷のつぶてが入っているから、当たったら痛いだけじゃ済まない。
「うわっと!」
何とかホークの背中に乗って避けようとする。けれど、わたしの場合、風の精霊は火の精霊ほど力が出ない。水の龍の攻撃が当たりそうになる。
「わたくしに任せなさい、ユメノ!」
ルーシャちゃんが前に来て、大斧を身体の前で高速回転させる。風の渦が、水の渦をかき消した。
「なに!」
渾身の攻撃だったのだろう。水の龍は防がれたことに驚いていた。そうこうしている間に、イオがどんどん水の龍に近づいていく。
「はああ!」
「行きますぞ、イオ殿!」
ノームはゴーレムを何体も呼び出して、突進させていた。その背中を飛び石のように足場にしてイオは水の龍に斬りつける。この二人の連携も慣れてきていた。
「ぎゃあああ!」
さすがに何でも斬れるという剣に斬りつけられたら、水の龍は叫び声をあげるしかない。
こちらの優勢だ。それでも水の龍は、こちらに殺気を向けて来る。
「やはり本性を現したな野蛮な精霊使い共!」
聞き捨てならない言葉だ。
「やはり? 前も精霊使いに何かされたの?! 教えて!」
少し近づいて、水の龍に訴えかける。だけど、逆に水の龍に質問をぶつけられた。
「今度はウンディーネさまに何をしにきた! まさか、あの方を壊そうと言うつもりではあるまいな!?」
水の精霊はまた水の渦の攻撃を放ってくる。
「きゃあ!」
「ユメノ!」
わたしはシルフの風に助けられて何とか避けた。それでも声をかけ続ける。
「やっぱり、ウンディーネは凍り付こうとしているの!? わたしたちは、それを止めようと……」
「何を言うか!」
大きな声と共に、水が四方八方に飛び散る。それは鋭い刃物のように、わたしたちを細かく切り裂いた。
「っ!」
わたしを運んでいたホークは消えてしまう。雪の上にぼふぼふと落下した。
「止めようだと? 何をいうか! ウンディーネさまは既に完全に凍り付いておられるというのに!」
思いもよらない言葉に目を見開く。メジロの言うことでは、もうすぐ凍り付いてしまうっていう話だった。
わたしたちは、間に合わなかったのだ――
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