声優召喚!~異世界に召喚された声優は最強の精霊使いです~

白川ちさと

文字の大きさ
3 / 113
サラマンダー編

第三話 世界へ旅立ち

しおりを挟む

 全てが赤く染まっていて気づかなかった。燃えていた夜空はすっかり煙が晴れ、星が瞬いている。



「巫女さま! よくぞ、村を救ってくださいました!」

「どうぞこちらで、休憩してください」



 川に避難していた人たちが戻ってきたみたい。広場の端に布が敷かれ、おばばが座っている。わたしも走ったり、大きな声を出したりでヘロヘロだ。やっぱり大人と子供では同じように声を出していても、身体の使い方が違うようだ。



「あ、ああ。さすがに疲れたかも」



 ヘロヘロとおばばの横に座り込んだ。すると、おばばは地面に手をついて頭を下げる。



「お疲れ様でございました、巫女さま。村の一同を代表してお礼申し上げますのじゃ」

「あ、いや。頭を上げてください」



 だけど、おばばは頭を下げたまま続ける。



「……エルメラはどうしていますでしょうか」

「え? エルメラ? あれ? いない」



 キョロキョロすると、肩の上にいたはずのエルメラが、いつの間にかいなくなっている。それを聞くと、おばばは心得ているように顔を上げて頷いた。



「そのうち、出てきますでしょう。今は村も忙しい」



 二人で村に目線を向けると、村人たちが瓦礫を片付けている。村の半分の家は焼け焦げていた。普通の火じゃないせいか、ジェンガで一部が抜かれたかのように崩れ方も普通ではない。修理するのも大変だろう。

 村人たちはチラチラとこちらを気にしている様子だ。そこに、おばばに付き添っていた男の人がやってきた。おばばが男の人に向けて話しかける。



「村長。いま、巫女さまにお礼を申していたところですじゃ」



 男の人は村長だった。村長というからおばばのような老人をイメージするけれど、火事など災害があれば動ける人の方がいいのだろう。村長は村人たちを振り返る。



「皆の者、聞け! 火の精霊がかまどに宿って、この程度で済んだことは奇跡である。隣の村では家は跡形も無く焼け落ち、周りの畑、家畜小屋も全て炎に飲み込まれたそうだ。それでも火は収まらず、国の精霊使いたちがやってきて、やっと収まったと聞いている!

 巫女さまが村を守ってくれたのだ! 礼を!」



 村の人たちが次々と恭しく頭を下げていった。いくらなんでも、敬いすぎだ。



「そ、そんな、頭を上げてください。わたしは出来ることをしただけで……」



 だけど、謙遜している場合じゃなかった。



「巫女さまは明日、世界を救う旅に出る!」



 村長の言うことにわたしは、顔を青くして振り返る。



「えっ! わ、わたしッ! 仕事があるんですけど!」



 だけど、村長はお構いなしだ。



「巫女さまの旅の無事を祈り、最敬礼を!」



 村人たちがしゃがみ込んで伏せていく。地面にひたいを付けて、頭を上げている人は誰もいない。



「ちょっ! あのくそ妖精、どうすんのよ、これ!」



 叫びたかったけれど我慢した。エルメラはわたしから文句を言われることを予期して、姿をくらませたに違いなかった。











 走って来た森の道をわたしとおばばは、とぼとぼと歩く。



「世話になって、すみませんのう」

「いえ、家が焼けたのなら仕方ありません」



 村は焼け出された人も多くて、無事な家にたくさんの人が押しかけていた。わたしの家じゃないけれど、おばばは落ち着けるようにとわたしが呼び出されたあの家に行くことになったのだ。

 ふと、おばばが前の方を見たまま立ち止まる。わたしも目をむけると、そこにはエルメラがしょんぼりとして浮かんでいた。



「あ! あなたねぇ!」

「おばば、あの」



 わたしが文句を言おうとするけれど、エルメラはわたしのことなんて目に入らないとばかりにおばばに近づいていく。おばばは心得ているように頷いた。



「何も言うでない。あの大蛇を鎮めくださった巫女さまじゃ。おばばからは、何もいうこともない」

「……うん」



 ひとりで置いてきぼりにされているわたしは、なにこれと思うことしか出来なかった。でも、そうは言っていられない事情がわたしにもある。腰に手を当てて、エルメラに指をさした。



「エルメラ! なんか世界を救う旅に出るとか言われたけれど、わたし元の世界での仕事があるんだから、さっさと帰してよ!」



 エルメラはわざとらしいぐらい目を丸くした。



「え! 仕事より大変なことが起きているんだよ! そもそも、帰し方なんて分からないもん」

「なっ、なんですって! あんたの世界でしょ!? それぐらい調べておきなさいよ!」



 ぎゃーぎゃーと言い争うわたしたち。それを見かねたおばばが口を開く。



「もしかしたら、精霊の王たちならば巫女さまの帰し方が分かるかもしれませぬ」

「精霊の王?」

「はい。ウンディーネ、ノーム、サラマンダー、シルフ。人間たちよりもはるかに長く生き、知識もある四人の王たちならば、おそらく。いまも世界各地で精霊たちに指令をだしているとか」

「ふーん?」

「じゃが、彼らもまた精霊たちのように話が通じなくなっていると聞いとります。じゃが、他にあてなどありますまい。彼らを鎮めることが世界を平穏に導くに違いありますまい」

「じゃあ、結局旅に出ないといけないじゃないのよ!」



 頭を抱えるしかない。わたしの声が森の中にこだました。










 わたしが呼び出された家に戻ってきた。古いけれど、不思議と落ち着く雰囲気だ。誰かが先に来て、暖炉に火を入れてくれていたようだ。灯りが漏れる窓にほっとする。

 家に入ると使い古した食器や家具など、生活の後が見られた。暖炉で簡単なスープを作って食べる。その後は何もする気が起きず、パッチワークのされた寝具で、おばばと並んで眠った。



「……ノ! ユメノ!」

「うーん。あと五分」

「朝だよ。出発しなくちゃ。元の世界に戻って仕事をするんでしょ」

「仕事ッ!」



 仕事のいう単語に反応して、わたしはカッと目を見開き起き上がる。



「しー。おばばが起きちゃうよ」



 すぐ耳元でエルメラが口元に指を当てていた。ちらりと横を見ると、おばばが寝息を立てている。カーテンの隙間からはわずかに光が差していた。そっとベッドから出て、わたしは音を立てないように桶で顔を洗う。

 エルメラがクローゼットを指さす。



「あの中に旅の荷物が入っているよ」



 開けてみると、中にはフードのついた赤茶けたマントとひも付きの袋が入っていた。エルメラが用意したのだろうか。マントの前にあるボタンをつけ、荷物と杖を持つ。

 玄関を開けて振り返った。



「じゃあ、いってきます」



 小声で言ったからもちろん返事なんてない。ぱたんと閉まるドア。わたしは気づかなかったけど、おばばは横になったまま、片目だけ開けていた。

 まだ暗い中、森の中の道を歩く。村へとは反対側の道だ。



「まずは森を抜けて、街道に行こう!」



 歩きながら、呑気に飛んでいるエルメラのことを軽くにらむ。世界を救うために召喚されて、こんな夜明けに村を出ていく。わたしは冒険なんかしたくないのに。

 さっさとその精霊の王のひとりに会って、帰り方を聞いて、戻らないといけない。そうじゃないと、人々に忘れられて仕事が無くなってしまう。声優がアニメもない世界に召喚なんてされている場合じゃない。



「早く精霊の王に会いに行くぞ!」

「おーっ!」



 エルメラは呑気に拳を上げていた。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に召喚されたので、好き勝手に無双しようと思います。〜人や精霊を救う?いいえ、ついでに女神様も助けちゃおうと思います!〜

月城 蓮桜音
ファンタジー
仕事に日々全力を注ぎ、モフモフのぬいぐるみ達に癒されつつ、趣味の読書を生き甲斐にしていたハードワーカーの神木莉央は、過労死寸前に女神に頼まれて異世界へ。魔法のある世界に召喚された莉央は、魔力量の少なさから無能扱いされるが、持ち前のマイペースさと素直さで、王子と王子の幼馴染達に愛され無双して行く物語です。 ※この作品は、カクヨムでも掲載しています。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界で家をつくります~異世界転移したサラリーマン、念動力で街をつくってスローライフ~

ヘッドホン侍
ファンタジー
◆異世界転移したサラリーマンがサンドボックスゲームのような魔法を使って、家をつくったり街をつくったりしながら、マイペースなスローライフを送っていたらいつの間にか世界を救います◆ ーーブラック企業戦士のマコトは気が付くと異世界の森にいた。しかし、使える魔法といえば念動力のような魔法だけ。戦うことにはめっぽう向いてない。なんとか森でサバイバルしているうちに第一異世界人と出会う。それもちょうどモンスターに襲われているときに、女の子に助けられて。普通逆じゃないのー!と凹むマコトであったが、彼は知らない。守るにはめっぽう強い能力であったことを。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

転生したおばあちゃんはチートが欲しい ~この世界が乙女ゲームなのは誰も知らない~

ピエール
ファンタジー
おばあちゃん。 異世界転生しちゃいました。 そういえば、孫が「転生するとチートが貰えるんだよ!」と言ってたけど チート無いみたいだけど? おばあちゃんよく分かんないわぁ。 頭は老人 体は子供 乙女ゲームの世界に紛れ込んだ おばあちゃん。 当然、おばあちゃんはここが乙女ゲームの世界だなんて知りません。 訳が分からないながら、一生懸命歩んで行きます。 おばあちゃん奮闘記です。 果たして、おばあちゃんは断罪イベントを回避できるか? [第1章おばあちゃん編]は文章が拙い為読みづらいかもしれません。 第二章 学園編 始まりました。 いよいよゲームスタートです! [1章]はおばあちゃんの語りと生い立ちが多く、あまり話に動きがありません。 話が動き出す[2章]から読んでも意味が分かると思います。 おばあちゃんの転生後の生活に興味が出てきたら一章を読んでみて下さい。(伏線がありますので) 初投稿です 不慣れですが宜しくお願いします。 最初の頃、不慣れで長文が書けませんでした。 申し訳ございません。 少しづつ修正して纏めていこうと思います。

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...