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サラマンダー編
第五話 はじめての出会い
しおりを挟む街道をゆっくりと歩いていると、陽が一番高く登る前に町につくことが出来た。入口には石組みで造られた小さな門がある。横に門番みたいな人が二人立っていたけれど、お辞儀するだけで何も言わずに通された。
門をくぐっていくと、クリーム色の壁に赤い屋根の可愛らしい家が並んでいる。エルメラが嬉しそうに町を見ると瞳を輝かせる。
「着いた! ここはムウマの町だよ。ロオサ村の人もたまに物を売りに来るの」
「へー」
キョロキョロしながら、町の中に入る。道は石畳で舗装されていて、家のほとんどが村より立派だ。村では窓は木の扉だったけれど、ここでは全部ではないけどガラスが入っている家もある。
「ところで、エルメラは何しているの?」
わたしは、さっきから町以上に気になっていることを口にした。エルメラは町が見えてきたときから、フードをかぶったわたしの頭の上に伏せているのだ。フードから顔だけをちょこっとのぞかせている状態だ。
「しー。妖精はとっても珍しいから、高くで売れるの。ふらふらしていたら怪しい人に捕まっちゃうかも」
それならしょうがない。わたしも振り落とさないように気を付けて歩いていく。でも、エルメラは隠れているはずなのに、行き交う人たちがわたしに視線を向けてきている。気のせいではない。こっそり頭の上に声を掛けた。
「エルメラ、ちゃんと隠れている?」
「うん。もちろん」
悪い人が妖精を捕まえるつもりなら、きっとすでにわたしに掴みかかっている。でも町は平和で、子供たちが元気に地面に絵を描いて遊んでいた。もしかしたら、小さな町で見かけない子が一人で歩いているかもしれない。
「あ! ユメノ。ここが道具屋だよ」
エルメラが一軒の家を指さした。薬の瓶をかたどった鉄の吊り看板が入り口の上に下げられている。街道を歩いているときに、荷物は少ないから町で買い足そうと話していた。小さな町だから他に道具屋はないだろう。わたしは迷わずドアを開ける。
「こんにちはー」
中に入るとすぐにカウンターがあった。奥の棚にはたくさんの瓶や薬草らしきものが置かれている。店番をしていたおじいさんが読んでいた新聞を畳む。
「はい。こんにちは。おや、君は……」
丸眼鏡を上下させながら、おじいさんはまじまじとわたしを見てきた。
「な、なんですか?」
もしかしたら、エルメラが見つかったのかと冷や冷やする。どの町に行ってもこんな風に肝を冷やすのは嫌だな。だけど、おじいさんの口から出て来たのは予想外の言葉だ。
「精霊使いだね。これは珍しい」
「えっ! 名乗ってもいないのに、分かるんですか!?」
「ほっほっ。鎮霊の杖を持つのは精霊使いと決まっているだろう」
「あ、ああ。そっか」
わたしは右手に持っている杖を見つめた。こんな大きなクリスタルがついた杖が、そこら辺にあるわけがない。村では特別なものだったけれど、他の町でも珍しいものなのだろう。だから、町のすれ違う大人もわたしのことを見ていたのだ。
「それで精霊使いのお嬢さん、お買い物かね?」
「はい!」
わたしはこの世界の地図や、方位磁石、ビンに入ったアメなどを買っていく。一通り買い揃え満足しているところに、おじいさんがそういえばと何かを思い出した。
「ところで、精霊使いならこういう商品もあるよ」
おじいさんは鍵のついた箱をゴソゴソと棚から取り出す。鍵を開けて見せてくれたのは、赤いルビーみたいな石がついた指輪だった。
「なんですか? これ」
「これは言霊を増幅させる石のついた言霊の指輪だよ。これは赤いから火の精霊によく効く。使役させるときもよく言霊が通じるし、精霊同士の戦いでも攻撃力が上がるんだ」
それは是非とも欲しいものだ。何と言っても、なるだけ早く精霊の王と話をして、元の世界に帰らなければならない。力が強くなるに越したことはないのだ。らんらんと興奮した目でわたしはずいと迫った。
「これ、下さい!」
「まいどあり。それでは――」
数字を聞いて、わたしは眼玉が飛び出るかと思った。
道具屋をあとにして、わたしはとぼとぼと町の大通りを歩いていた。
「はぁ。まぁ、そうだよね」
「うんうん。ああいう特殊な道具は高いものだよ」
エルメラが訳知った顔で言うのが悔しい。わたしはフードの中のエルメラを見上げる。
「というかさ。お金、あまりないけれどこの先、大丈夫? もう今日にも精霊の王に会えるっていうならいいけど、宿に泊まるためにもお金が必要なんじゃない?」
わたしの質問に少し鼻にかけているような説明口調が返って来る。
「泊るところなら大丈夫。その杖を持っていれば、精霊使いだって分かるから、どの町でも宿屋は半額で泊まれて、民家に頼んでもタダで泊めてもらえる。みんな、暴れる精霊に困っているから歓迎してもらえるよ」
「ふーん。なんだか巡礼する僧侶みたい。でも、いざというときの為にお金が必要だよね。お金って、どうやって稼ぐの? この身体じゃ、お手伝いぐらいしか出来ないけど」
「うーん、これはユメノ次第なんだけど……」
エルメラが続きを何か言う前に、子供たちが目の前を横切って走っていく。
「おい! 広場でなにか面白いことが始まるって!」
「早く行こう!」
子供たちはかなりはしゃいでいた。
「何だろ?」
「気になるから行ってみよう、ユメノ」
今日はもうこの町を出ない方がいいだろう。わたしたちも広場に行ってみることにした。
わたしとエルメラは町の広場にやって来た。それほど広くない学校の教室ぐらいの広さの場所に、子供だけでなく、大人たちもひしめき合っている。
「何だろ? すごい人だかり」
大人たちが壁になってよく見えない。ぴょんぴょんとジャンプをして、何があるか見ようとするけれど――
「全然、身長が足りないー」
これでは、はぁと肩を落すしかない。すると、近くにいたおじさんが声を掛けて来る。
「お嬢ちゃん、よく見えないだろう。前に行くといい」
そうすると、前を開けるように他の人にも言ってくれた。子供たちは前の方で体育座りをしている。わたしはその一番後ろに立っていることにした。広場が良く見える。
「あれ? 女の子?」
みんなが注目する広場の中央には十五歳ぐらいの女の子が立っていた。肩までの髪をハーフアップにしている。緑を基調にした服でミニスカートだ。スカートの裾をちょこんと両手で持って、可愛らしくお辞儀をした。
「みなさま、お待たせいたしました。わたくしは、遠い国からこの地の精霊を鎮めるためにやって来た精霊使いのルーシャと申します」
「精霊使い!」
はじめて他の精霊使いを見た。確かに手にした杖の先には緑色の丸い大きな玉が付いている。
「ムウマの町の皆々様。これより、わたくしの鍛え上げた技をご覧いただきましょう」
ルーシャちゃんは杖の先についている玉に手をかざした。
「さぁ、おいでなさい! ミルフィーユ!」
華麗に見えるように杖を振って呼ぶと、玉から緑色に光る白い小鳥が出て来た。可愛らしい小鳥は、爽やかな風を吹かせて、キラキラと光る粉を群衆に振りまいていく。
「すごい!」「風の精霊だ!」
子供や大人たちは置いてある箱にコインを入れていく。確かに綺麗な光景で、ああやって路銀を稼ぐようだ。精霊を使った旅芸人のようなものだ。
「だ、だけど……」
口がムズムズしてくる。ダメだダメだと思えば思うほど、堪えられなくなってくる。
「ミ、ミルフィーユ……!」
だめだ! おかしい!
こっちの世界では違うのだろうけれど、わたしの世界ではお菓子の名前だ。可愛いけれど、お菓子の名前を大真面目に叫ぶのだから笑えてくるのもしょうがない。完全にツボに入ってしまっている。堪えきれない。
「あはははははッ!」
ついにダメだと思いながら、わたしはお腹を抱えて笑い出してしまった。もちろん、そんなことをしている人はわたし一人。注目が集まってしまう。
「あなた……! 何がおかしいんですの!」
もちろん、演者のルーシャちゃんが快く思うはずがなかった。わたしは涙をぬぐいながら、こっちを睨んでいるルーシャちゃんに説明しようとする。
「えっと、あなたを笑ったわけじゃないの」
でも、そんな言い訳は通じない。
「あなた、その杖。わたくしと同じ精霊使いですわね。お名前は?」
完全にロックオンされてしまう。せめて、杖のクリスタルを布で隠しておくべきだった。
「……ユメノ」
ルーシャちゃんは、わざとらしいくらいにっこりと笑う。
「ユメノ。せっかく精霊使いが二人そろったのだから、皆さまの前で精霊同士を戦わせてみないかしら」
「戦わせる?」
「ええ。皆さまも期待していらっしゃいますわ」
観衆は興味津々といった様子だ。なるほどと思った。ルーシャちゃんは怒っているように見せかけて、これも興行にしようというつもりだ。精霊同士を戦わせてそれを見てもらって、おひねりをたくさん貰おうって魂胆だろう。もちろん、腕に自信があるに違いない。
「でも、わたしが勝ったら何かあるの?」
ルーシャちゃんはひとさし指をあごに当てる。
「そうですわね。勝った方がこの箱に入っているお金を総取りではいかがかしら」
観衆は面白そうだ! やれやれ! とはやし立てる。箱にコインがさらに投げ込まれて、あふれるくらい山盛りになった。それを見て、わたしもにんやりと笑う。
「その勝負乗った!」
わたしは精霊使いとしても駆け出し中の駆け出しだ。負けたところで失うものはない。勝ったらラッキー、丸儲けだ。
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